9 笑顔の未来に
「ありがとうございました」
レナインさんとティマナさんが、大きく礼をして、孤児院の近くまで向かう馬車に乗り込んでいく。
カルパスの町の広場の近く。次の町へと向かう馬車乗り場の前に、私とアズは立っていた。
幽霊屋敷だとかアズが言っていたのは、実際全くの的外れではなくて。
孤児院の老朽化に関して、もうあんなボロ屋敷なんて、という程度の興味しかない人が多かったらしい。
センスのない二人で一晩で作ったネタが出来が良かったなんて絶対に言えないけど、でも、あの時に喋った内容が孤児院に関するちょうど良いプレゼンにはなったようだった。
結局、興味をもってもらえるかが全てなのだ。
そう思うとこれも意味があるのかもしれない、と思いながら、自分の持った桃色のハリセンを眺める。魔法効果なんて本当に馬鹿馬鹿しいと思っていたけど、結局、自分に興味を持ってもらう手段ではあると悟った。
そして昨日。
再び町役場に向かったレナインさんとティマナさんの元にもたらされたのは、町からの補助金の支出が正式に決定した、という知らせだった。もうすぐ役場から正式に職員が孤児院の状態のチェックをしに来て、あの崩れかけた孤児院の改修工事が始まるらしい。
「今回は、成功だったな」
アズがうっとりと呟いた。
「……あれだけスベってたのに?」
ジト目でアズの方を見たけど、アズは真面目な顔をして言った。
「みんなが笑顔になってくれた。それが出来たのなら、大成功だよ」
「……うん」
私は口元を上げて、頷いた。
そして、私たちはまた、次の町へと旅立っていく。
「アズ」
私は横に立つ彼に話しかけた。
「私、もう少しだけ漫才してみようと思うんだ」
「そっか」
アズはそう簡単に言うだけだった。
「誰かを笑顔に出来る仕事って、やっぱりいいなって思うから」
「それが出来るように、頑張ろうな」
「うん」
いや、正直言って自分たちは今回何も出来ていないのかもしれないけど。
笑わせても、笑われても、どっちでもいいから――本当は笑わせたいけど――、みんなが笑顔になれば私たちの勝ちだ。結果オーライだ。
アズは大きく深呼吸をして言った。
「さぁて」
しみじみとしていた私の動きが止まる。なんとなく嫌な予感がした。
「そうと決まったら。まだ時間もあるし」
まさか、まさか。
「この町で最後にもう一回だけ公演しよう」
私は顔色を変えた。
ちょっと、アズ、今回は何もネタ合わせしてないし、子供たちもいないよ?
その日、カルパスの町の広場では、大量の閑古鳥の鳴き声が聞こえたという。
(完)
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
第1話完ということで、完結はさせずに2人の話を継続しようか最後まで悩んだのですが、いったんこの話は完結とさせてください。
思い入れのある2人ですので、いつかどこかで2人の物語を書ければいいなと思います。
また、次の作品でお会い出来れば幸いです。




