悪い天使
天使ことルナさんは手に飲み物を持って立っていた。
「頑張ってるわね」
「お陰様で」
俺は立ち上がろうとするが、軽く肩を押される。
「今は休んでていいわ。力を使い過ぎたら疲労が溜まるもの」
「ど、どうも」
飲み物を手渡される。
「好きかしら?」
それを確認し
「ハハ」
笑いが溢れる。
「ええ、大好きですね」
「よかったわ」
俺は冷たい飲み物を飲む。
「凄い集中力ね」
「二人は走り続けるタイプの兎なんでしょうね」
ルナさんが来たことに気付く様子もなく、二人は夜光を続けている。
「亀だって進み続ければ走る兎には追いつけなくとも、多くの休んでる兎は追い越せるわ」
「そうだと嬉しいですね」
「それに、スッポンとか速いって言うじゃない?」
「俺はそこまで粘着質じゃないと信じてますけどね」
俺は何とか立ち上がる。
「大丈夫?」
「はい。寝ていては追いつけませんから」
「そう」
ルナさんは微笑み
「頑張って。私はこれから用事があるけど、陰ながら応援してるわ」
「ご期待に添えるよう努力します」
「気張りすぎて倒れないように」
そう言い残し、ルナさんは去っていった。
「なんか……青春してる気がする」
どうやら俺は遅咲きのようだ。
「よし、やるか」
獅子王君と花ちゃんの間に立ち、もう一度夜光を始める。
「負けないから」
俺の勝手なライバル意識だけを二人に伝えた。
ーーーーーーー
夜
「全身痛い」
さすがに夜遅いと俺は花ちゃんに帰るように伝えた。
最初は少し渋っていたが、ベロンベロンに酔ったバルドさんが迎えに来、そのまま帰宅した。
獅子王君もどうやら用事があり
『先に失礼します』
と律儀に報告し、帰って行った。
そして残された俺はというと
「今から参加するの?」
昼に連絡先を交換したソーニャに
『来て下さい。お願いします』
と短い分と場所だけが送られ、理由を聞いても返事は返ってこなかった。
「闇の力って筋肉でも使ってるのか?絶対これ明日筋肉痛だよ」
体の疲労感と痛みに苦しみながら、指定された場所に着く。
「なんだよここ」
そこはパーティ会場のようなお店だった。
「三沢健次郎だっけ?あいつ本当に金持ちだったんだな」
俺の格好を確認する。
ある程度綺麗にしてきたとはいえ、少し砂で汚れてる上に、汗で匂いも中々キツイ。
「行きたくねぇ」
準備してからでもいいが、返事がないためどうすればいいか分からない。
「一回覗いて、後からまた来ると伝えればソーニャも納得するだろ」
俺は大きな扉を開ける。
「あ」
瞬間、綺麗に着飾ったソーニャと目が合う。
その隣には三沢。
俺の中のアンテナが逃げろと忠告する。
「じゃ、来たから」
俺はそう言って扉に手を掛け
「私」
腕を取られる。
やられた!!
「この人の」
俺は咄嗟にソーニャの口を塞ぐ。
「大親友です!!」
ドン!!と効果音がつきそうな声で叫ぶ。
ソーニャがジト目でこちらを見ているが、気にしない。
俺は護身のために生きる男。
「大親友?」
三沢がゆらりと立ち上がる。
「そんな奴より僕の方が君の近くにいるべきだろう!!」
マジかよコイツ。
頭花畑でこんなテンプレみたいなこと言うか普通?
「陸さんはーー」
「確かに三沢さんの言う通りです。けれど、俺は幸運なことに彼女との関係は一日の長があります。三沢さんの魅力にもきっと彼女は気付くので、まずはお互いに少しずつ歩み寄りましょう」
三沢も不満気ながら、どこか納得した様子。
ソーニャも余程鬱憤が溜まっていたようだが、冷静になり、アイコンタクトでもう大丈夫だと伝えてきた。
「ソーニャはもう少し自分の魅力に気付くべきだな」
「あまり人がいなかったので、今後気をつけます」
よしよし、これで一件落着
「おやおや、組織への加入を推薦し、毎日連絡を取りあってるにも関わらず、私は今日出会った女子高生に負けちゃったのか」
後ろからゾッとするような声。
「違うんですセイラさん。セイラさんは大親友を超えて超親友と言いますか、最早友達という枠組みに収めておくには惜しい人材といいますか」
俺は振り返らなかった。
振り向けば俺の心は保たないと、本能が教えてくれた。
「ふーん、ほーん、そっかそっか、じゃあ許して上げようかな」
「ありがーー」
ここで俺は失敗してしまった。
あんな甘々のブラフにのってしまう程、俺は疲れていたのだろう。
振り返ると、笑顔のセイラさんの顔が近くにあった。
「……」
「……(ニッコリ)」
「あはは、このまま結婚でもします?」
「陸君正座」
俺はその夜の出来事を、記憶の奥底に仕舞い込んだ。
そして、事件は起こった。
ーーーーーーー
「勝負だ」
「へ?」
翌日、例の会社とは違い、三番隊の本拠地の一つを紹介すると可奈さんに言われた。
そしてそこに向かう途中に、三沢に絡まれた。
「待って下さい三沢さん。確かに適合率も俺の方が下ですし、戦闘センスだってきっと三沢さんの方が上です。でも多分あなた負けますよ!!」
「何を言ってるんだ。それこそ僕が負ける要素がないじゃないか」
確かにそうだけど
「そ、それに何故勝負を?」
「覚えていないのか!!」
昨日の記憶は封印したからなぁ
「すみません。どうやら軽い記憶障害でして」
「は!!やっぱり無能は形に現れるんだな」
おいコイツ普通に世界を敵に回したけど大丈夫か?
「あの時僕からソーニャちゃんを奪っただけでなく、目の前でセイラさんとあんな仲良さそうにしやがって」
ここで嫉妬乙とか言ったらどうなるんだろ?
てかコイツとソーニャ(17)はなんか危ない気がする。
「あー、その、勝負で勝ったらどうなったり?」
「今後二人に近付くな!!」
意味が分からないが
「それで俺が勝ったら?」
「そんなことありえないが、まおあお前の要求を一つ飲もう」
凄いなこの人。
ここまで築き上げるとは一種の才能なのかもしれない。
「では俺も同じ内容でいいです」
「やはりお前も僕と同じ狙いか」
お前はどっち狙ってるの?
いや人のこと言えないけどさぁ。
「じゃあ勝負だ!!」
「え?普通に嫌ですけど」
「はぁ!!!!」
確かにそれっぽい雰囲気だしたのは事実だが、受けるなんて一言も言ってない。
「というわけでそれでは」
「おい待てよ!!」
「いやいや、三沢さんの魅力なら俺なんか出し抜けますって」
「いやそうなんだが、可能性の芽は一つでも摘むべきと言うか、とりあえず受けろ!!」
なんだよこの人マジで
「なんと言おうと俺はーー」
「いいんじゃないでしょうか」
突然背後から声がする。
「「可奈さん!!」」
「はい、可奈です。今日はお集まり頂きありがとうございます。昨日のパーティーは楽しかったですよ、三沢君」
「あ、ありがとうございます」
さっきまでの威勢はどこえやら、ヘラヘラと笑ってる三沢。
まるで俺みたいだな。
「皆さんを待ってたら声が聞こえましたので、少々覗いてみたら面白いことを話していますね」
「いや面白くもなんともないですよ」
「その通りです可奈さん。これは神聖な決闘ですよ」
神聖?
不純の間違いじゃないだろうか?
「そもそも俺は戦いませんよ?ピース and piece。この戦いに意味はありません」
なんだか俺が逆にやられそうになってくるが、事実は事実。
ここで折れるわけにはいかない。
「今日はある程度戦闘をしてもらうつもりでした。内容はともかくとしまして、一度対戦すれば、互いのわだかまりもなくなるのでは?」
「そういうことなら」
「ふん、ここで僕との違いを分からせてやります」
◇◆◇◆
広い場所。
雰囲気としてはとこかの競技場のような場所だ。
「ここは光の力で作った空間ですので、いくらでも暴れて構いません」
「例の試験もここでしてはダメだったのですか?」
「あまり長時間は維持できないんです」
「へぇ」
じゃああの場所も誰かが頑張っててくれたのかな?
「そうやってデレデレと可奈さんに甘えられるのも今だけだ」
三沢がニヤニヤと笑みを浮かべる。
「お前は今から惨めに僕に敗北し、一生笑いものにされるんだ」
「はぁ」
「ルールは何でもあり、急所でも何でも攻撃して結構です。それでは始めて下さい」
衝撃の一言と共に試合が始まる。
「死ね!!」
三沢は突っ込んでくるので
「うお!!」
咄嗟に夜光を発動した。
透明の球体が浮かび、突っ込んできた三沢はぶつかる。
そして三沢が普通の人間がしたら即死の挙動で飛んでいった。
「……」
「試合終了ですね」
こうして呆気なく三沢との勝負は幕を閉じた。




