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ヒーローのピンチはチャンスだが、悪党のピンチはただのピンチ

「随分と楽しそうだったね、陸君」

「お、お陰様で、セイラさんの人望あってこそだと」

「へー、人望。人望ある私は一緒にご飯を食べてくれる人がいないのに、その恩恵を受けた陸君にはいるんだ。へー」


 圧が凄い。


 美人の圧は凄いと聞くが、体感すると想像の十倍は息苦しい。


「言い訳を」

「返答次第では、私と陸君の仲に亀裂が入るよ?」


 クッ!!


 セイラさんとの関係は良好でありたい。


 ここは完璧な言い訳をせねば。


「セイラさんは隊長。忙しいと勝手に判断し、誘うのを断念しました」

「なら一言連絡くれてもいいよね?それとも陸君は私がそんなに効率的に動けないと思ったのかな?」


 強い!!


「他にもあります。セイラさんは友人が少ないと言いましたが、俺にはそれは謙遜であり、気を遣わせたと思い至り、コソコソ食事をしようと決断しました」

「ということは陸君は私が嘘を言ったと。友人である私の言うことを信じず、嘘つきであると思ったんだね」


 俺はもう白旗をあげたくなった。


 だがここで諦めるわけにはいかない。


「こうなったら」


 最終手段。


 この手は恥ずかしい上に恥ずかしいため使いたくなかったが、致し方あるまい。


「正直に言います」

「何?」


 セイラさんは遺言を聞き取るような低い声で応える。


「正直、セイラさんのような美人と一緒にご飯を食べるの緊張しました」


 すると


「ふ、ふ〜ん」


 金色に輝く髪をクルクルしているセイラさん。


「ま、まぁ陸君は女の子と会話する経験は少なそうだし、今回は大目に見てあげてもいいかな?」


 俺は小さくガッツポーズを取る。


 やはり、セイラさんは褒めに弱いな。


 と言っても今言ったことは全部事実なんだけどな。


「ということは陸さん」


 声。


「私は美人ではないと。そう言うことですか?」


 どうやら俺は修羅場ったらしい。


 齢19年。


 今まで『友達にしか思えない』と言われ続け、彼女一人出来なかった俺が、伝説の修羅場に突入していた。


 漫画を読んでる時は『いいなー』なんて思っていたが、悪かった主人公達。めちゃ胃が痛い。普通に怖いし普通に無理。


「ソーニャは可愛い系だから」

「そうですか」


 ソーニャは何事もなかったかのように食事を続けた。


「それでいいんかい」

「じゃあ一緒いいかな?」


 さっきまでの重苦しい空気はなくなり、笑顔のセイラさんが椅子を指差す。


「もちろんです。むしろいいんですか?」

「何回も言わせる男はモテないよ?」

「大丈夫です。もうモテてないので」

「じゃあいっか」


 そう言って椅子に座るセイラさん。


「初めてましてセイラさん。噂は私のような田舎者の耳にまで届いています。セイラさんと共に肩を並べられるよう精進します」


 ソーニャさんがペコリと頭を下げる。


「うん、一緒に頑張ろう!!」


 セイラさんはカツカレーを食べながら元気に答える。


 ここでもセイラさんの知名度を実感させられる。


「セイラさんのとこはどうでした?」


 俺はカツカレーのカツでもカレーでもなく、福神漬けを馬鹿みたいに頬張る。


「ん?普通だったよ。なんか質問が多かったけど『陸君の場所行くからじゃーねー』って言って抜けてきた」

「セイラさんって、美人で優しくて、バカですね」

「え?ありがーーん?」


 多分絶対確実に、俺は一番隊で敵と認識された。


 まだここを知って二日目の俺でも、彼女の人気が天井知らずであることは理解してる。


 だが、当の本人がそれを理解していない。


「それにやっぱり忙しいじゃないですか」

「違うよ陸君。必要のないものは削る。残業のような悪しき文化は滅されるべきなんだよ」


 自身の隊員よりも俺とのコミュニケーションを優先してくれたことは心から嬉しく思うが、上司としては頑張って欲しいと思う。


「そんなことより今はご飯。ここで活力を付けないと悪の組織には勝てないよ。カツだけにね!!」


 俺は黙々とご飯に集中できた。


 ーーーーーーー


「ん?」


 食事を終えた頃、携帯が鳴る。


「誰だろ」


 と言っても俺の携帯に連絡してくれる人なんて数少ないわけで


「ル!!」

「ル?」


 セイラさんが携帯を覗き込んでくる。


「ちょ!!見ないで下さい!!」

「え!!もしかして彼女!!陸君も隅におけないねぇ」


 ウリウリと口ずさみながら肘で肩を押される。


「ち、違います!!生まれてこの方彼女は一人もいません!!」

「あ……なんかごめんね」


 先程までの勢いを失い、静かに席に座るセイラさん。


 今の反応で分かってはいたはずだが、俺への好意は完全に友人のものだと分かった。


 いや、知ってたけどさぁ、期待しないのは無理じゃね!!


「それにしても」


 携帯を覗き込む。


『陸、今日は例の会社の地下であなたのチームが集まるみたい。用事がなければ参加してくれると嬉しいわ』


 ルナさんからの連絡。


「あのー、この後って何かあったりするんですか?」

「今日はあくまで顔合わせだからね。この後何かしら集まったりする人や、そのまま帰る人もいるらしいね」

「そういえばあのゴミがパーティーを開くとか言っていましたね」

「そっかー」


 確かに交流を深めるのも大事だが、俺は両方のメンバーから適度な関係を築く必要がある。


 なら答えは


「すみません。実は午後から用事がありまして」

「そうなの?まぁ陸君にも色々あると思うからね」

「陸さんが参加しないなら私もーー」

「いや!!ソーニャは参加した方がいい。俺以外の人とも仲良くした方がいいと思うんだな!!うん!!」

「確かにそうですね」


 ソーニャは納得気に頷く。


「それでは二人とも、俺はこれから用事がありますので、それでは」

「う、うん、またね」

「お気をつけて」


 俺はダッシュで一階へと向かう。


「こんにちは、陸様」

「あはは、どうも」


 あの時の受付のお姉さん。


「みなさんもうお集まりですよ」

「あ、教えて下さりありがとうございます」


 お礼を言って歩こうとするが


「あの」

「はい、何でしょうか」


 笑顔を絶やさない。


「これってその……なんというか……大丈夫なんですか?」

「申し訳ありません。お客様の情報はお出しできないので」


 なるほど、関係者である俺にも情報を出さないとはしっかりしている。


「ではその……俺のことも?」

「勿論です。お客様の秘密は絶対厳守ですので」

「ありがとうございます!!」


 俺は周りに受付のお姉さんのみなのを確認し、地下へと向かった。


 ーーーーーーー


「おう!!来たか!!」


 地下の薄暗い道を進むと、バルドさんが仁王立ちで待っていた。


 その周りには


「もしかしてこの方達が?」

「ああ。お前と共に正義の味方共の鼻っ柱をへし折るアホ共だ」


 バルドさんの後ろから二つの影。


「ども」

「……」


 なんか思ってた感じではなかった。


「アッハッハ、コイツら無口ったらありゃしねぇ。まぁ入った時期は同じだが、どっちもお前より年下だ。面倒見てやれ」


 バルドさんに背中を押され、二人の男女が一歩前に出る。


「えっと」


 小中高で部活にすら入ってない俺は、後輩の扱い方なんて分からない。


「俺の名前は海途陸。雑魚だし間抜けだけど、まぁ相談相手くらいにはなれるから、えと、よろしく?」


 反応が帰ってこない。


 どうやら俺の心臓はここまでのようだ。


「初めまして。東王獅子です。よろしくお願いします」


 凄い名前だな。


 よく見るとアイドルでもやってるんじゃないかってカッコよさだな、この子。


「花」


 一言で終える少女。


 少女!!


「あのー、年っていくつ?」

「僕は17です」

「10」


 10!!


 バルドさんに目を向ける。


「ん?犯罪じゃないかって?」


 俺は高速で首を縦に振る。


「その通りだな」


 豪快に笑うが、俺はヒクヒクと口角が痙攣していた。


「俺もこの組織の理念はある程度理解していますが……」

「陸、お前の言いたいこともわかる。だがな」


 バルドさんは花ちゃんを持ち上げ、高い高いする。


 なんか色々間違ってる気がするが


「これはコイツが望んだことだ。俺たちは既存の考えに縛られちゃいけねぇ。まぁ安心しな、無理はさせねぇ。だが」


 バルドさんはニヤリと笑い


「無理をやってのけるのがコイツだけどな」


 ポタリと花ちゃんを地面に置き、乱雑に頭を撫でている。


 普通に嫌がってる。


「コイツの適合率は91%だ。小さな隕石程度なら吹き飛ばせるぜ」

「なるほど」


 化け物さんでしたか。


「しかもこの王獅子も78%、心配するだけ損だな」


 ワァオ


「質問です」

「却下だ」


 却下された。


「このチームの特徴はひたすら戦闘に参加し、戦いに慣れてもらう。いつか最前線に立てるまでビシバシ鍛えてやる」


 この二人と一緒に?


「……(チラリ)」


 片方は無言で俺の目を見つめてる。


「……(チラリ)」


 小さな女の子は今にもバルドさんを殺しそうな目だ。


「ふっ」


 涙が溢れた。



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