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プリオシン海岸  作者: 莉猫。
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逃亡犯

逃亡犯


胸騒ぎがするのだ

一日中忙しく鼓動が鳴り続け

唾や空気や色んなものを吸い過ぎた


宝物を持っていた

四六時中監視しておかないと

大切な物が無くなってしまう

そんな気がするのだ


使う機会はあまりない

けど消えてしまうのは惜しい

手を付けられて初めて重要さに気付いた


その宝物を

傷付いた腕で抱え込み

優しく優しく抱き寄せる


ああそれでも落としてしまったぶんは

取り返すことが出来なかった

気付いてあとから悲しくなったんだ


奥が酒焼けたように痛くなって

空気が蒸発する音をこの喉で聞いた

ずっと追い掛けてくるのだ


宝物の持ち主が

逃げるなと私を呪っているのだ



こんなこと経験したくもない

大切なものが理不尽に奪われる感覚


自首したくなるだろう


贖罪を罪を償いたい

身の中にあるもの全部吐き出して

早く楽になりたい


寝ている時はあれこれ考える必要がなかった

ずっとずっと寝ていたいと思った

だが朝日は必ず昇ってきた


川のせせらぎや車の音

発情期の蛙が歌う

むんと香る草木の匂い


森の中まで逃げてきた

草木の生茂る森で雨に打たれ

体育座りした尻が濡れていた


落ち着かない


その雨音は私の心臓の音をより濃く反映する

木陰はきらきらと揺れ腕に抱いた宝を

早く返せよと怒鳴っている



夜風さえ敵であった

安心できるものなどなかった

誰も私の味方になってくれるものなどいなかった


歌は私の呼吸を乱す

人の声は心音と情緒を加速させる

寒さは眠気を冴えさせる

時計の音は熟考の機会を与える


ふと私以外の人が起きてこなければいいのにと

朝を恨んだ


2時のちょっと遅い時間を恨んだ

朝になってあいつが起きてくる時間を

想像するたびに煮え滾るような憎たらしさが

私の心を襲った


夜が短いことを憎む

少しすればまた夜明けが来てしまう



起きているこの時間が憎らしい

この罪消える事はないだろう

ああ監視されている、誰もいない



奥歯を噛み締めつつ嗚咽に苦しんだ


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