4 アールクート皇子 その1
主な登場人物
アールクート・ウォル・グルモン・ペテキサス:
グルモン・ペテキサス朝ミストア帝国第9皇子。皇室内での地位は高くない。神理騎兵科1年、カインの同級生。趣味は読書(歴史)。
入学式の後、新入生は教室に移動しオリエンテーションを受ける。昼までオリエンテーションで学内生活について説明を受けたら今日のところは放免となる。
神理騎兵科第一〇〇期生は五〇人、二クラスの構成となっている。カインは一組。
学級担任の自己紹介に続いてクラスメイトの自己紹介が始まった。
カインはカレツキ伯爵の家臣という身分で帝都に留学している。留学費用はすべて伯爵から出ているので留学生活は公務といってよい。
学業に励むのはもちろんだが、主家の役に立つ情報を集めたり人脈をつくったりすることも大事な職務なのだった。
情報にせよ人脈にせよ、カインが求めるべき最高の対象はいうまでもなく皇室関連である。
今、カインを含めたクラス全員の視線がただ一人に注がれている。皇帝と同じ銀髪碧眼、少し幼さを残したような顔立ちの少年、彼は――――
「アールクート・ウォル・グルモン・ペテキサスです。楽しい学校を送りたいと思っています。よろしくお願いします」
皇位継承順位こそ低いものの、正真正銘帝国皇子サマによる自己紹介である。
教室はしんと静まり返り、級友たちは一言も聞き漏らすまいと耳をそば立てていた。
自己紹介の内容はあらかじめ決められていて、名前、趣味、抱負などを語ることになっている。
「趣味は読書です。本のことなら何時間でも何日でも話せます。世俗の憂き事にとらわれず本に埋もれて死ねれば本望です」
朗らかな口調で言う。世俗の憂いに絡めて死に際の希望を語るあたり、皇位継承権のことを厭わしく思っているのかもしれない。
「殿下、主にどんな本をお読みになっていらっしゃるのですか?」
学級担任が質問した。
「歴史です。歴史ならどんな分野でも大抵好きです。歴史の成績だけはいいんですよ」
アールクートは微笑んだ。あくまで親しみやすい雰囲気を醸し出している。
クラスメイトの緊張も解けたのか、教室のそこかしこで安堵の息が洩れた。ガキ大将気質の暴君皇子だったらどうしようという不安があったのだ。
ただ一人、カインだけは別の感慨を抱いていた。皇族、自分の異母兄弟……
皇子は愛読書について二言三言すると軽く会釈して着席した。パチパチと拍手が起こる。張り詰めていた空気が一気に緩み、以降の自己紹介は和やかな雰囲気の中で進んだ。
そしてカインの番である。
「留学生資格で入学したカイン・カーズワースです。伯爵ミハイル・カレツキ様にお仕えしています。趣味は狩りとフルートです。よろしくお願いします」
帝都社交界を渡り歩くため、社交ダンスと狩りと楽器演奏、三つのうち二つを趣味にしろ……フリッツァにうるさく言われて選んだのが狩りと楽器だ。
どちらも社交スキルを身につけるという使命感で始めたことだが今では本当に好きになった。