2 フリッツァとカイン その1
主な登場人物
フリッツァ・ペングラム:神理騎兵科3年。カインの先輩。
カイン・カーズワース:神理騎兵科1年。フリッツァの後輩。
「カイン」
入学式終了後、フリッツァは教室に移動中の新一年生の中から知った顔を呼び止めた。
声をかけられたカイン・カーズワースは一見少女とみまごう中性的な顔立ちが印象的な生徒だった。
黒髪黒瞳に雪白肌、
首から上だけなら絶世の美少女にしか見えないが、首から下が男子制服なので男なのだろう。襟章を見るとフリッツァと同じ神理騎兵科だ。
「ごめん、先輩だ」
友達になったばかりのクラスメイトたちに一言詫びてからカインは離れた。
「すみません、カイン・カーズワースは私の同郷の後輩なのです。話があるので少しだけカインをお借りします」
フリッツァも丁重に詫びた。最上級生のフリッツァがへりくだるのは自分の身分が低いからだ。
新入生たちはフリッツァの態度にかえって恐縮している。
「行こう」
鈴を転がすような声でカインが促した。制服をみるかぎり男子生徒というのだから、変声期がまだなのだろう。
「お前の評判はすごいな」
カインの開口一番はそれだった。大講堂を出て庭園を二人で歩いている。周囲に人気はない。
「さっきの奴ら、みんな『フリッツァ・ペングラムの後輩だよな?』って近づいてきたんだぞ? お前とお近づきになりたいみたいだ」
「そうか、光栄なことだ」
フリッツァは素直に喜んだ。そして真顔になる。
「俺は隠しようがなかったが、お前は隠すんだぞ。特に聖地魔導だけは絶対に使うな」
問題を起こしてもいないうちから「問題を起こすな」と言われたようなもので、当然のごとくカインは気分を害した。
「そんなことをいうために来たのか?」
不機嫌を隠そうともしないカインだが、フリッツァは意に介さず大真面目に答えた。
「別の用件だ。貴種流離譚の主人公としてはどうだった? 遠目で見る父親の姿は?」
ますますカインは機嫌を悪くする。
「別に。オレはあいつを父親と思ってない」
「その態度が問題なんだ」
フリッツァは大上段から咎めた。
「そんな相手でもいずれ咫尺の間で向き合うことになる。皇帝とはつまり国内最高位の政治家だ。
『大嫌いなヤツを大好き』と、『大好きなヤツを大嫌い』と言えなければ政治家は務まらない。
父親を嫌ってもいい。しかし慕っているように振る舞わねばならない。
お前は皇帝になる男だが、今その力はない。
お前は常に『政治』をしなければならない。そのために帝都に来たんだろ?」
言いたいことは山ほどあるが、カインは押し黙ったまま明後日を向いた。いつものようにフリッツァが説教をしていつものようにカインがだんまりを決め込む。
これが二人のいつもの風景なのだった。