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幻のマイクロフォン(改稿)  作者: 古森史郎
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第一四話 四人の打合せ

 水曜日の朝十時頃、恵子は店番をして耕太郎は二階の部屋の作業台の上でカセットカラオケの修理をしていた。小型でマイクが着き、片手で持って歌うタイプである。

 耕太郎は分解して同じタイプの壊れたカセットカラオケからゴムベルトを外して、修理するカセットカラオケに取り付けるのだが、とにかく狭い空間に部品がびっしり詰め込まれているので苦労していた。


 その時、店に電話がかかり恵子が出る。

「中古品店冬菇屋です」

「もしもし、柴田海斗と申しますが、ご主人はいらっしゃいますか?」

「はい、少々お待ちください」

 恵子は電話を持って二階の耕太郎の部屋に入る。

「あなた、柴田海斗さんっていう方から電話よ」

 作業を中断し、電話を受け取った耕太郎は、

「もしもし、海斗君、何の用事?」

「耕太郎さん、契約書ができたので今日冬菇屋さんへ持って行こうと思っているんですが、お店にいますか?」

「契約書。ああ、今日は一日中店にいるからいつでも大丈夫だよ」

「分かりました、それでは今日の午後に伺います」

「待ってるよ」と言って耕太郎は電話を切った。

「柴田海斗さんって誰?」

 恵子は海斗の事をまだ知らない。

「隣町のお屋敷の柴田征二さんの息子さんだよ」

「あなた、契約書って何よ」

「あれ、話してなかったっけ、冬菇屋が自衛隊の協力会社に指名されたってこと」

「何よそれ、全然聞いてないわよ、そんな話」

「ごめん、言うの忘れてた!」


 耕太郎は海斗が自衛隊の研究官で、日曜日に二人で甲府へ行ったときから、冬菇屋は機密部品調査協力会社に指名されていたことを話した。

「なんだか危ない話ばっかり、あの弾薬盒だって早くどこかに持ってってよ、また変な人が来たらどうすんのよ」

「今日海斗君が来るから、そのとき持っていってもらうよ」

「でもあれ、美咲さんの物なんでしょ」

「海斗君が買い取るんじゃないの」


 午後の二時ごろ美咲が冬菇屋にやって来た。

「こんにちは、おばさん」

「あら、美咲さん今日は何の用事?」

「ポーチを受け取りに来ました」

「ポーチってどんな?」

「弾薬盒とか言うものです」

「ああ、あれね、大変だったのよサングラスを掛けた変な男の人が来て」

「何かあったんですか?」

「買った人を教えろってナイフを出したのよ」

「悪い人ですか、その人?」

「いや、そのナイフで甘栗をむいて帰って行ったわ」

「いよいよ面白くなってきましたね、おばさん」

 美咲は今回のミステリーが頭から離れないでいるようだ。多少なりとも自分も関わっているからだろう。そこへ耕太郎も二階から降りてきた。


「や~美咲ちゃん、こんにちは、勉強してる?」

「勉強よりも、昔おばあちゃんちの近くで何かを作っていた男の人のことが、気になって何も手に付かないの。海斗さんと甲府へ行ってから何か分かりました?」

「まあ、色々と」

「おじさん、教えてください」

 美咲は耕太郎の腕を引っ張りながらねだると、横にいた恵子は、どんどんほっぺたが膨らんでくる。

「秘密の保護何とかがあって、話せないんだ。ごめん」

「分かってるけど、教えてほしいな~」

「あんまりうちの人に、馴れ馴れしくしないでほしいわ」

 また何か喧嘩が起こりそうな気配である。


 そこへ、

「失礼します」と、海斗がやって来た。

「耕太郎さん、あれ、美咲さんもいる」

「海斗君、いらっしゃい、こっちは家内の恵子です。この青年が柴田さんの息子さんで、自衛隊の研究官の海斗君」

「初めまして、柴田海斗です」

「こちらこそ、よろしく」

「海斗さんこの前、うちのおばあちゃんに会ったんですって?」

「はい、色々と良い情報をいただきました」

「立ち話も何だから、奥の椅子に座ろうよ」

 耕太郎は美咲と海斗を店の奥へ案内した。


「耕太郎さん、早速ですがこの機密部品調査協力の契約書にサインしてください。経費は実費で、報酬は一週間で二十二万円四千円、期間は一週間。その後も続くようでしたら更新します。開始日は先週の土曜日からにしてあります」

「日当三万円以上も出れば、店を閉めても食べていけるな」

 耕太郎は契約書の中身をろくに読みもせず、すぐにサインした。

「もう一つ、特定秘密の保護に関する特約条項にも目を通してください」

「恵子には話してもいいんでしょ? 冬菇屋の社員だから」

「そうですね」

「わたしはどうなの?」

 仲間外れになると感じた美咲は、

「だったら、あのポーチ、サングラスを掛けた変な男の人に売っちゃいますよ」 

「え、変な男の人って誰ですか?」

「海斗君、実は……」

 耕太郎は、月曜日に店に来た小太りでサングラスを掛けた男のことを海斗に話した。


「それは、問題ですね……」

 海斗は少し困った顔になる。

「わたしだってあのポーチ持ってたら、変な男に狙われるかもしれないし、情報を教えてくれないと危険にさらされるわ」

「分かりました、ではこの三人には情報を教えましょう。その変な男は、中国の諜報員の可能性があります」

「えええ」

 耕太郎と恵子は新たな恐怖に巻き込まれてしまうと感じたが、美咲だけは

(すごい展開になってきたわ、いよいよ今度はサスペンスの始まりね!)と、心うきうきしている様子だ。


 海斗はこれまでの調査内容を語り始めた。それは、

 耕太郎が持ってきた革の手帳は、明らかに旧ドイツ軍が終戦間際に開発していた対空迎撃用のミサイル"Taifun タイフン"の特徴が書かれていた。何故こんな戦時中のドイツの軍事機密を日本人が持っていたのかは分からない。

 美咲の祖母、菊子の家の近くの空き地で見つかった銅製の鍋、蓋の着いたガラス瓶、お皿、スプーン、天秤、分銅の入った木でできた箱、温度計を分析班で調べたところ、酒石酸カリウムナトリウムが検出された。

 また、それらが収められていた木箱は、特にこれといったものは見つからなかった。


「この間持ち帰ったもので、一番の収穫は毛布です。その毛布を広げて調べたところ、足山旅館と書かれた布切れが縫ってあったんです。今、分析班が足山旅館の所在を探しているんですが、まだ見つかっていません」

「足山旅館?」

「足山田というところは愛知県にありますよ」

 恵子は愛知県に親戚がいた。

「そこも調べたんですが、足山旅館は無かったです。今、戦前の旅館を調査してます」

「あのつげ櫛は?」

 耕太郎が聞くと、

「あれはまだ調べていません」


 しばらくして、海斗のスマホが鳴る。海斗はスマホを取り、

「はい、柴田です」

「あ、班長、契約書は署名して頂きました」

「特定秘密の保護に関する特約条項も確認してもらっています」

「え、足山旅館の所在地が分かったんですか!」

「はい、京都府松葉町二丁目二八番地」

 海斗は左手で字を書く仕草をすると、耕太郎はすぐにメモ用紙とボールペンを渡した。海斗はスマホを左手に持ち替えて、右手でメモを取る。

「分かりました、直ぐに出張の準備をします。あと、中国の諜報員らしき人物が冬菇屋さんに来たのですが、どのように対処しましょうか?」

「はい、了解です。それでは、失礼します」

 と言って、海斗は電話を切った。


「足山旅館の所在地が分かりました。京都だったんです」

「今はもう旅館は残って無いそうですが、明日京都へ行って調べてこいと言われました」

「中国の諜報員らしき人物については、ここに情報局の私服隊員が派遣されます。弾薬盒は、このままここに置いといてください、網を張る為です。お店はしばらくの間営業しないでください」

「それから耕太郎さん、明日僕と一緒に京都へ行ってください」

 耕太郎は海斗がテキパキと指示を出し、あまりにも急展開に物事が進むのでついていけないようだ。

「はあ、京都ですか?」

「え、京都、私も行けるんでしょ」今度は恵子がワクワクしだした。

「わたしは無理ですよね、さすがに」

 美咲も一緒に行きたがったが、

「美咲さんはだめです。恵子さんは、まあ仕方ないでしょう、お店も閉めてもらっているので」

 そうして、耕太郎たち三人は京都へ行く打ち合わせを始めたのだが、美咲は一人寂しそうにしていた。


 京都へ行く打ち合わせが終わるころ、美咲が海斗に聞いた。

「ところで、中国の諜報員って、何でポーチを欲しがるの?」

「耕太郎さんがネットオークションに出品した時、イ号二型台風って書いてしまったから、彼らにばれたんです。彼らは自衛隊のアクティブ・ソナーに悩まされていて、潜水艦の対ソナー吸音対策に躍起になってるんです。だから少しでもソナーの情報を集めたいようです」

「へ~、軍事競争ってわけね」

「対潜水艦ヘリの操縦士はアクティブ・ソナーを打ちまくるのが快感だって言ってました、内緒ですけど」


「それって、スマホのゲームになるんじゃない?」


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