-16『ふざけた最愛の仲間たち』
「あ?」と長ネギが私を睨んでくる。彼の背丈は私の首一つ分はあるほどだ。
達者なのは口だけ。
非力で運動はからきし駄目。
そんな私が長ネギと対峙して勝てるはずがないのは自明だった。
けれどこれは勝ち負けの問題じゃあ無い。
『私』という尊厳をかけた対立なのだ。
フェロが私を信じてくれている。決して強者に尻込みしない私を。
ならば貫き通そう。
誰かに強制されたわけじゃない、私らしい『私』を。
長ネギの鋭い視線が私を刺す。退かない私の覚悟を感じ取ったのだろうか。
「なんだよ。お前もやる気か?」
「やるよー!」
凄みをきかせた脅しのような声に、しかし返ったのは私のものではないとても快活な声だった。
途端、長ネギの背後から凄まじい早さで人影が忍び寄った。その影は長ネギの手から模造の剣をあっという間に抜き取り、代わりにうねうねした何かを握らせていた。
「いただきー」
その人影――スコッティが、奪い取った剣を片手に走り去る。
「なっ?!」と驚いた長ネギの手に残されていたのは、マンドラゴラのどらごんちゃんだった。うねうねと四肢を腕に巻き付かせている。そのぬるぬるとした動きはなかなかに気持ち悪そうだ。
「ひいっ」と情けない悲鳴が長ネギから漏れた。
その内にスコッティは持ち前の運動神経で舞台のセットの中をかいくぐって逃げていってしまっていた。
「あっ、おいこら待て……うわっ」
どらごんちゃんの感触を堪えながら追いかけようとした長ネギに、ふと突然に照明が何かで遮られ、影が落ちる。
気づいた長ネギの視線の先にあったのは、足の生えた巨大な樹木――いや、被り物をしたルックだ。
「おっと。こんな屋敷の中に何故か樹木が! 危ない!」
ルックはやや棒読みでそんなことを言いながら、長ネギへと向けて思い切り倒れ込んだのたっだった。
「倒木に注意だね」
「お前、なんでっ。何しやがるんだ。いでっ。いでででででっ」
倒木――ルックに押し倒されて動けなくなった長ネギの頭を、樹木の上の巣にいた鳩がチクチクとつついてかかる。
散々な目にあわされ、長ネギはもやは動けなくなっていた。
なんという連携だ。
あの長ネギをあっという間に沈黙させてしまった。
二人とも、台本にもないのに、私のために出てきてくれたのだ。
これが、友達。
「ありがとう」
ただただその言葉しか思い浮かばなかった。
私は気を改め、残った青年――主人公ガルドヘクトへと向き直る。それに気づき、動揺していたライゼも顔を引き締めて向かい合ってきた。
主人公と悪党。
二人が対峙する。
場は一騎打ちの雰囲気を醸し出す。様々な紆余曲折はあったが、二人の戦いは台本通りだ。それを察した裏方の生徒達も、急ぎ照明や音楽で演出を施していく。
「ガルドヘクト、貴方の味方はこれでいなくなったわ。後は貴方だけよ」
台本通りの台詞。
しかし、私の気分はまったく台本とは違う。
「おのれモンタージュ。お前は俺が必ず倒す!」
「そうはさせないわ」
二人が静かに見つめあう中、劇は、再開された。




