キャンバスの中の私
前回のあらすじ:普段使いの下着を選び終えました。
「これかわいいっ。ねぇ、かわいくない?」
よさげなのを見つけたので見せてみる。ピンクでフリフリしてる感じがたまらない。
「意外なチョイスで驚いた。なんかもっとドエロいの選ぶと思ってたよ」
「あー、そういうイメージなのね」
今までのことを考えればもっともなイメージだけど、本来私はこういう正統派が好きなんだよね。
「博樹くんがそういうの好きなら考えなくもないよ」
「いや、僕は……待てよ、布面積が少なくないやつで黒とか赤とかはわりとアリかも」
「なるほどね」
なんか気恥ずかしい気もしてくるけどどうなんだろう。強気に出たいときとか?まあ、選択肢のひとつとしては持っておいていいかな。ただ、なんかそういうの着けてる人って自分に自信がありそうな感じがするよね。
「でも、基本的には清純な感じがいいかな」
「じゃあ、かわいい系、派手な色系、清純系の三つからそれぞれ選ぼうかな。タイプが違うほうが気分で選ぶときに都合いいし。ちなみにさっき選んだやつはかなり気に入ってるからかわいい系はほぼ確定で、あとは派手な色のと清純っぽいのを中心に見ていく感じにかるかな。かわいい系もほかにいいのがあれば考えるけど」
「探すのを手伝うというよりは色々見るなかでいいのがあったら教えるっていうのでいい?」
「うん、それでいいよ。なかなかない機会だろうしね」
とは言いつつも清純系は虹村くんが選んでくれると期待しよう。というわけで私はちょっと攻めた色のを先に見ていこうかな。
にしても、やっぱりキツいな、これ。なんでこうもエロい色合いなんだろう。いや、そういうものを見てるからそれはそうなんだけれども。すっごい美人さんとかなら似合うんだろうし、もしかしたら世間的に見れば自分はそっち側に属するのかもしれないけど、なにぶん自分の顔に対する評価が微妙なものだから思い切りというものがつかない。毎日鏡で見る顔が慣れていて普通に見えるってだけならいいんだけど。それはそれで武器になるはずだしね。私に似ている国民的アイドルの人気を信じて買っちゃう……?まあ待て。一旦落ち着こう。
そもそもだ。三次元女子たる私が顔云々をいうのは虹村くん相手にはあまり関係ないような気がする。ターゲットが二次元にしか興味がないのが問題なわけで、とすれば顔に関しては別に美人じゃなくてもいいのかもしれない。むっつりスケベな彼を誘惑するなら体と下着さえ魅力的であれば見た目に関しては満点じゃないだろうか?いや、それはあくまでも脱ぐに至ればの話ではあるんだけど。ただ、状況にリアリティーがないなんてことを気にし始めたらそもそもどんな下着だろうと関係ないわけで、やはり選ぶなら可能性が薄かろうとそれが起こるものとして考えるべきだろう。どうせならドエロいやつをだ。さっきの感じだとイメージ通りっぽいらしいし。
黒一色のものより紫とか青とかが入っているほうがなんとなくエロい。あとはあまりオバサンくさいのは避けたいところかな。大人な感じだけどオバサンっぽくない、いかにもモデルさんが着けていそうな……この紫と黒のが良さそうだな。装飾もなかなかいい感じだし。非常に扇情的な雰囲気でよろしい。よし、これにしよう。
さて、あとは清純系のやつか。虹村くんに期待はしてるけど強要はできないから自分でも探し始めよう。
お、虹村くん発見。改めて遠くから見るとなかなかな絵面だ。何も言わずに隣にしゃがみこんでみよう。
「あれ?こっち来たんだ」
「まーね。あとはこの辺からひとつ選んで終了かな。もう少し見て回りたいなら付き合うけど」
「いや、大丈夫。もう十分すぎるほどに見た気がするよ」
「あらそう」
女の子は誰しもがお姫様願望を持っているという言葉があるけれど、あまりそんな願望を持っていると自覚したことはなかった。しかし、現にこういう下着を選ぼうとしているということは案外的を射ているかもしれない。実際に惚れたのは贔屓目に見ても白馬に乗っているイケメンの王子様なんかじゃないけれど、私の隣にいる彼はもっとずっと素敵でドキドキする存在のように感じる。なんでなのかは未だに自分でもわからないけど、この感情は本物だと断言できる。
「どうかした?顔になにもついてないよね?」
どうやら無意識のうちに虹村くんのことを見ていたらしい。まあ、虹村くんのことを考えていたわけだし当然なわけだけど。
「いや?別になにもないよ」
「そう。ならいいんだけど」
そう言いつつ陳列された下着に目線を戻す虹村くんを見ているととても十分すぎるほど見たとは思えない。滅多にない経験だろうしゆっくり選んで引き伸ばすかな。私もなんだかんだお絵描きに入門したわけだし着けるという視点ではなく描くという視点で見るのも悪くない。家にもいくつかはあるわけだけど、買ったものしか見られないからここで色々見て回ることで創作の幅が広がる気がする。
にしても、描くという目で観察してみるとなかなかにめんどくさそうだ。デザインが非常に細かいし、フリルやレースなんかも難しそうな感じがする。フリルとかちょっと描こうとしたことがあったけど難しくて全然ダメだったし。じゃあ何が描けるのって考えてもどれも難しくてまだまだ何も描けないに等しいけど、たぶんこれは特別難しい部類に入るのではなかろうか。
「博樹くん」
「ん?何?」
「これ、描くの難しそうじゃない?」
「そうだね。ここに来て実際に見てみるとそれを強く感じた。雰囲気は掴めた気がするけど、実際に手を動かして練習しないと厳しいと思う」
「やっぱりそうだよね……あっ、もし資料用に欲しいのがあったら一緒に会計してあげるけどどう?」
「……んー。結構いい値段するしやめておくよ」
まあ、そうか。観賞用にするにはお高いのかもしれない。
「お」
陳列されているなかでもこれは姫度がかなり高い。いや、姫度って自分で言っててよくわからないけど間違いなく姫度が高いと思う。
「おお、なんかすごいね。それ」
虹村くんもおそらくその姫度に反応を示しているに違いない。ただ……。
「え?戻しちゃうんだ……」
「なんかね。すごいにはすごいんだけど、すごすぎて」
「そう。すごく似合ってるなって思ったからちょっともったいないね」
「え?うそ」
「ちょっと立って前にかざしてみて」
虹村くんも立ち上がって少し離れた位置から私の方を見る。両手を前に伸ばして片目を閉じ、親指と人差し指で作ったキャンバスの中に私を捉えている。
「やっぱり似合うと思うよ」
思えば、これまでは下着自体の好みだったり、二次元のキャラに対する合う合わないの目線を向けられていた気がするけど、今は違う。指で作ったキャンバスに映るのは紛れもなく私の姿で、虹村くんは初めて私自身を見て下着を選んでくれている。しかも似合っていると来たもんだ。すごく嬉しい。
「買わない理由がないね!よしこれにする!」
「勧めた僕が言うのもなんだけど、そんなにあっさり決めていいの?」
「いいよ。もともとデザイン自体は気に入ってたからね」
何はともあれ、無事にすべての下着を選び終えた。値段もたぶん予算内。足りなければ普段使いのをちょっと減らすか自腹を切ろう。
「お疲れさま。ありがとうね。これから会計してくるから外で待ってて。もちろん、一緒について来てもかまわないけど」
「外で待っておくよ」
「おっけー。じゃ、またあとでね」
ずいぶんお待たせいたしました。
あらすじ自体はまだまだ先まであるのでエタらずに続けていきたいと思います。




