過酷な現実
前回のあらすじ:アプローチは続けるけど、好きって言うのは自重します。
「で、どうするか決まった?」
そういやそんなのあったな。帰るか帰らないかって話。
「ごめん、考えてなかった。博樹くんはどうしたい?」
「正直どっちでもいいかなって感じはする。この感じだと明日からも部活には来てくれそうだし」
「私もどっちでもいいんだよね……。じゃあ、ルーレットで決める?」
お互い遠慮しているといつまでも決まらないだろうからルーレットのアプリを使うことにしよう。
「うん。それでいいんじゃないかな」
「わかった。準備するからちょっと待ってて」
スマホを取り出し、アプリを開く。
「赤が買い物、青が帰宅ね。学校でもいいけど」
よし、設定完了。
「じゃあ回すね。ほい」
ルーレットを回したときの独特の緊張感のなか少しずつ回る速度が遅くなっていく。
「赤……下着を選ぶ、だね」
確認の意味も込めて表示された結果を伝える。
「そのようだね。店の近くで叫んだり抱き合ったりしてたカップル来やがったってならないといいけど」
「それは否定できないね。やめとく?」
「ルーレットで決まったし仕方ない。せっかくの機会だから勉強のつもりで見ていくよ」
「そう。じゃあ見ていこっか」
店へと歩を進める。あーなんか緊張してきた。なんで行きはあんなにノリノリだったのか、今じゃちょっと不思議なくらいだ。まあ、虹村くんも言ってたけどルーレットで決まったし仕方がない。なるようになるさ。
「さて、まずは普段使いのから見ていくかな」
「やっぱり勝負下着みたいなのもあるの?」
「まあね。とりあえず必要数は確保したいからそっちを優先して、そういうのは残ったお金と相談って感じだね」
「総取っ替えって考えると結構たいへんだなぁ」
「常に締め付けられてて気持ちのいいものでもないし。でも、日々の積み重ねがきれいなおっぱいに繋がるって考えるとつけなきゃなってなるんだよね」
「たしかに上裸の部族の人とかだと外に広がって垂れてたりするね。そう考えると家でノーブラの人とかって胸の形を犠牲にして自由を勝ち取ってるわけか」
「お風呂入るときと一人でするとき以外ははずさないけどノーブラは本当に楽。すごい解放感がある」
「発言の解放感もすごいな」
「まあ、そんなわけで今から買うのは私の拘束具と言っても過言ではないね」
「ひどい言いようだけど実情を考えたらそのくらい憎悪を抱いても仕方ない気がするよ」
「ただ、胸が大きくなったっていうのを実感できるし、そういう面ではすごくありがたいよ」
「なるほどね。ゲームでいうとレベルアップだけじゃなくて見た目で変化があるとなんかうれしい感じがするみたいな?」
「そんな感じだね。まあ、レベル二・五ごとに変化するからレベルアップだけでもワクワクするんだけど」
「そういえば胸囲とかその辺全然測らないなあ」
「男の子はそんなもんだよね。ちなみに私は上から……あ、やっぱりいいや」
まだダイエット中だしね。あと一センチ減らせたら目標達成だからいいっちゃいいんだけど。
「聞きたいとも思ってなかったし、自重してくれてありがたいけど、やっぱりいいやって言われると気になるよね。あ、言わなくていいから」
「まあ、買い物してたらバストはだいたいわかると思うけどね。今日はD70のを買うよ」
「数字はアンダーバストだっけ?」
「そう。それといちばん高いところのバストの差を見てだいたい一七・五センチくらいがDカップ。ちなみにいちばん高いところって言っても乳首はノーカンだから乳輪くらいしかカサ増しできないよ」
「特に知りたくもなかったよ、そんな無駄知識」
「いや、もしかしたら乳首を立たせてバストカサ増しを試みる女の子に萌えを感じて漫画やイラストにするかもしれないし」
「んなわけあるか……いや、かわいいな、それ」
「ふふん、博樹くんの趣味はわかってきてるからね」
「それを封じられてしまうと思うとより知りたくなかった事実だ……」
「ちなみに、博樹くんにサイズを測ってもらうっていう案もあったんだけど遠慮しておいた」
「そう考えると結構配慮されてるんだな。買い物に付き合うだけなんて」
「ギリギリセーフのラインを狙ってたからね。そういえば、試着を見るプランも却下しておいたよ」
「アウトかセーフかでいえばギリギリセーフだけどね。ビキニとそんな変わらないし」
こっちに関しては私の都合なんだけどね。いや、でもどうする?正直あと一センチなら誤差じゃないか?しかも理由なんて十進法で一番上の位の数字が変わるってだけだし。このチャンスを逃すほうが痛手ではないだろうか?とりあえずそれっぽいことだけ言っておいて、保留にしよう。
「え、意外。じゃあ、いいのあったら教えてよ」
「まあ、見るだけ見てみるよ」
やっぱりやめておこうってなったのに言及されたら、からかって適当にごまかそう。そうしよう。
「あ、ちなみに普段使いのやつはブラだけでいいから」
ショーツつきの下着とにらめっこしてる虹村くんにいちおう伝えておく。
「えっ?えっ?」
「ん?」
何か変なこと言った?
「え、じゃあパンツは?」
「今使ってるやつ使うからいらないでしょ」
「そういうもんなの?」
「そういうもんだね」
「てことは、普段から上下揃えてる訳じゃないってこと?」
「そういうことになるね」
「なんてことだ……この世は、現実はやはり理想を追求した二次元の世界とは違うというのか……」
「疑問には思わなかったけど、言われてみればたしかにトラベるの女の子たちはきっちり上下揃えてたよね」
「いや、まあ、下着にそこまで執着があるわけじゃないからいいんだけれども」
……いいんだ。
「たしかに合わなくなったのはブラジャーだけでパンツは別になんの問題もないんだよな……」
「まあ、そうだね」
もっと言えば寿命自体違うからいちいちセットで買ってたらもたないしもったいない。言わないけど。
「いや待て、よくよく思い出せばくまさんパンツのキャラというのがたまに出てくるが、くまさんブラジャーを着けているのは想像できない……。つまり、くまさんパンツはある意味その辺の作品よりもリアリティーを追求したものと言えるかもしれない」
「いや、さすがにそれはないよ」
くまさんて……。
「ないのか」
「ないね」
「そうか」
「うん」
なんかごめん。




