誘導尋問
前回のあらすじ:夏休みに入りました。
さて、作業始めて少し経ったしお昼にしつつ作戦開始といきますか。
「んーっ!ふーっ……。漫画の調子はどう?博樹くん」
伸びをして質問する。
「おかげさまでもう下描きも終わりかけって感じかな」
「なるほど、じゃあ見せてもらってもいい?」
「うん。いいよ」
「では拝見させてもらうね」
どうか期待通りのものでありますように。まあ、なくても強引に運べるとは思うけど。
「やっぱり上手いね。さすが先生」
まあ、トラベるの絵を描いてるの健全太郎って人には遠く及ばないけど、私の百倍くらいは上手い。
「はは、ありがとう。清書するまで気は抜けないけど安心した」
「ずっと自分の絵を見てるとよくわからなくなってくるってやつかな?ゲシュタルト崩壊みたいな」
「それもそうなんだけど。どっちかって言うと逆で、自分の絵って贔屓目で見てしまいがちなんだよね。だから自分の絵がいいなって思っても不安が残ってさ」
「なるほどね。じゃあ自分の絵でもイマイチってときは相当ヤバいんだ」
「実力次第だろうけど、僕たちみたいな素人は間違いなくそうだろうね。あくまでも他人の評価を気にするならって話だけど」
「一人で楽しむだけなら自己満足でじゅうぶんってことかな?まあ、漫画をイベントで売るって言ったら他人の評価は避けられないね」
「そうだね。だからさっき優華に褒めてもらえてうれしかったよ」
「そう?私なんかまだまだだからあんまり参考にならない気がするけど……」
「そんなことはないよ。絵ってある程度はそれっぽく見えればそれは見る人にとって魅力的に映って、極論を言えば多少難や無理があっても見る人が直感的に騙されればそれでもおよそかまわない。目の肥えた人、特に絵を描く人なんかはそういうことに関する知識とかがあるから違和感を覚えるかもしれないけれど、優華みたいに素人でも他人が褒めてくれるっていうのは価値のあることなんだ」
「正しく描写してなくてもそれっぽく見えればいいってこと?」
「まあ、少なくとも僕はそう思ってるよ」
「なるほどね。じゃあ、もし私が違和感を覚えるようなところがあったら言った方がいい?」
「なるべくお手柔らかに頼みたいけど、ひとつの参考にはなると思うよ」
「いや、訊いてみただけだよ。たぶんおかしくてもうまく騙される側だろうし」
と言いつつ、ちょっとえっちなシーンがあったら難癖つけさせてもらうつもりなんだけどね。今日だけだから許してほしい。
読み終わった。短いからあっさりしてるけどわりと楽しめた。まずは感想を普通に伝えよう。
「短いけど、読んでてドキドキする感じだね。私は好きだよ」
「ありがとう。すごくうれしい」
「ところでさ」
ここからが本題。
「博樹くんって下着とか描いたりしないの?」
「痛いところを突いてくるね。描写としてはたしかにほしいところではあるんだけれどどうもうまく描けなくてね」
「それはつまり、参考資料を見ることもなければ、想像もうまくはたらかないからってこと?」
「優華、何か誘導尋問しようとしてないか?不穏な流れを感じるんだが」
ちょっと強引すぎたか。まあ、ごまかしつつもう少し引っ張って言質をとる。
「何を言ってるのかよくわかんないけど、私は単に博樹くんに教わったことを復習しつつ、自分の苦手が見つかったときにどうすればいいかを考えたいってだけだよ。よく見ること、そして想像することが基本だって教わったし」
「ああ、ごめん。そういうことか。まあ、そういうことになるね」
「参考資料見ようとは思わないの?」
「苦手なままにしておくのも良くないだろうし、見るべきだとは思うんだけどね」
「ふーん……。じゃあお昼にしよっか」
言質はとった。あとの話は漫画見なくてもできるし、お昼を食べながらするとしよう。




