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ゆうかアプローチ  作者: 旭流遊
アプローチ2:創作の体験資料
30/43

夏休みに突入

前回のあらすじ:漫画イラスト部に入るというアプローチを振り返りました。

「では、夏休み明けの二学期にまた会いましょう。さようなら」

「さようなら」

 きたきたきた!やってきました、夏休み!

「博樹くん、夏休みだよ!夏休み!」

「元気だなあ。っていうか教室で話しかけてくるのめずらしいね」

「そりゃもう。興奮冷めやらぬってやつだね」

「おうおう、仲の良いこって」

「げ、理沙」

「げ、ってなんだよ。げ、って。親友とのしばしの別れを惜しみに来たというのに」

「何がしばしの別れだ。会う約束だってしてるじゃんか。絶対面白がって来てるに決まってる」

「でも愛しの虹村くんとは毎日会うんでしょ?」

「そらみろ。やっぱりじゃん。まあ、そうなんだけど」

「あ、あの。堂島さん、先行ってるね?」

「へえ、教室では苗字で呼ぶんだ?博樹くん」

「え、なになに?あんたら名前で呼び合ってんの?」

「そうだよ。ね?博樹くん」

「あ、うん、そうだね。じゃ、先行くから」

「俺と優華ちゃんの愛の巣へ……って感じかな?」

「僕は一人称俺じゃないし、優華もちゃん付けで呼んだりしない。それに付き合ってもないから愛の巣ではない!」

「ないない尽くしでツッコミがキレてるねえ、虹村くん。はじめて話した気がするけどなんか面白いね」

「理沙の面白いってイジりがいだけで決まってそう」

「てか、まだ付き合ってないらしいけど結構進んでない?」

「愛の巣で愛を育んでいるからね」

「優華も乗るな」

「ひゅーっ。いいねえ、呼び捨て。このちょっとキャラと合わない感じのギャップがポイント高いよ」

「そうそう。はじめて呼ばれたときはドキドキしちゃってさ。すごくいいんだよぉ、これがさあ」

「じゃあ、優華、理沙。僕は先に行くから」

「ほう、ほぼ初対面の私も呼び捨てとはなかなかイカした野郎じゃないか」

「そうだよ、博樹くん。なんで理沙も呼び捨てなの?!」

「え?なんでって、将来苗字が変わったときに呼び方に困るからって言ってたから……」

「天然か。カップル揃って天然バカップルなのか」

「私は天然じゃないよ!」

「僕たちはカップルじゃない!」

「あーはいはい。失礼しました。私もそろそろ部活だからお幸せに」

 嵐が去っていく。別れを惜しむどころか、からかうだけからかってあっさり部活へ行ってしまった。


「私たちも行こうか」

 他の子とも朝のうちに話したし、そろそろ部室に向かうことにする。

「理沙……って呼んでいいのかな?まあ、彼女いつも話してるの見るけど、実際話すとすごいパワフルだね」

 呼び方についてはもっともらしい説明を後で考えることにしよう。今のままでは女子と話すたびに最初から名前呼び捨てを徹底してしまう。

「たまにスイッチが入るとああなんだよね」

「その辺なんか優華の友達って感じする」

「え、うそ。思い当たる節は……たしかにあるね」

「でしょ?」

「でもさ、でもさ。最近おとなしくない?私」

「まあ、それは認めるけど。でも、ようやく普通の友達として付き合う気になってくれたとは言えなさそうな感じではあったよね」

「女の子にはいろいろあるんだよ」

 おとなしくしようと決めてから十日、特にアプローチをしないで乗り切った。よく我慢できたものだなあと思う。おかげで宿題も五分の二くらい終わったし、夏休みのアプローチ計画は予算的にもおよそ算段が整った。アニメも部活の作業中に流すことを覚え、見入るときは見入り、聞き流すときは聞き流しつつも話題としてはついていけるくらいの感じで三本視聴した。計画したイベントもある程度はラブコメの定番として誘いやすくなりそうだと思ったし、今度の同人イベントがモチーフになってそうなイベントが出てくる作品もあったからなんとなくイメージが湧いた。ガチャガチャうるさいだろうから虹村くんのいるなかイヤホンを装着して過ごすことになってもったいない気もしたけれど、メリハリをつけるという当初の目的や夏休みを堪能する楽しみを糧に十日間を耐え抜いた。

 つまるところ、私はわりと欲求不満な状態で、今日のアプローチはちょっとぶっ飛んでいるように感じる。ただ、これはタイミングの問題もあるのでこれを逃すと一生訪れないかもしれないチャンスだから多少難があっても敢行する。いちおう導入と段階的妥協ラインも考えてきたし、やらなきゃ後悔するだろう。

 部室に着いた。さて、虹村くん。君には今度私と下着を買いに行ってもらうから。覚悟してなさい!

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