表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆうかアプローチ  作者: 旭流遊
アプローチ1:二人きりの空間
28/43

今日は調子が

前回のあらすじ:お休みの日は私がお弁当を作ることになりました。

 さて、日曜日。今日も今日とて部活に来たけど、今日の私は昨日までとは一味違うよ。まあ、見てなさい虹村くん。

「おはよう博樹くん!」

「おはよう」

違うそうじゃない。もう一回だ。

「おはよう博樹くん!」

「おはよう」

もう一回。

「おはよう博樹くん!」

自分を指さしてアピールする。

「おはよう堂島さん」

わざとかな?私は譲らないよ。

「おはよう博樹くん!」

「また何か影響を受けたかな?名前で呼んでほしいってことだろうけど正直堂島さんは堂島さんって感じだ」

どんな感じだよ。

「えー。私も呼び方変える練習してきたのに……」

「僕の場合いきなり本番だからね」

「じゃあ今から練習で」

「困るなあ。苗字呼びじゃダメなの?」

「ダメ。だって苗字なんて将来的に変わるかもしれないじゃん。そのときになって旧姓呼びとか新しい苗字で呼ぶより今のうちから名前で呼んだほうが便利でしょ?」

「たしかに……」

「私も名前で呼ぶからさ。ね?博樹くん」

「わかったよ……えっと優華」

「えっ、あっ……」

「どうかした?」

「いや、まさか呼び捨てだとは思ってなくて……。不意討ちだったから」

「ごめん。じゃあ、さんとちゃんどっちがいい?」

「呼び捨て、がいいかな……」

「え、でも……」

「うれしかったから。すごくドキドキした。だからこれからも優華って呼んでほしい」

「なるべくがんばってみるよ」

 よしよしよし。朝からいい感じ。着実に進展してる。たぶん。呼び捨ては想定外だったけどそっちのほうがうれしいし僥倖だと言えるだろう。


「博樹くん、そろそろお昼にする?」

 おなかがすいて集中が切れてきた感じがあるので、虹村くんを昼食に誘ってみる。

「そうだね。僕もおなかすいてきたかも」

「ふふん。早速用意してきたよ、お弁当」

今朝作ってきたお弁当を虹村くんに渡す。さっきまで謎の自信があったけど、いざ渡してみると口に合うかどうか急に不安になってきた。大丈夫だよね?ちゃんと味見だってしたし。……あっ。

「アレルギーとかないよね……?」

 まずい。この辺全く考慮してなかった。食べられないの入ってたらどうしよう……。口に合う合わない以前の問題だよ。まあ、お弁当代は用意してもらってるから最悪コンビニで買ってもらうことになるけど。

「大丈夫。アレルギーはないよ。作ってくれてありがとう」

よかったぁ。さっきふと気づいたからすごく不安だった。

 包みを開ける虹村くん。緊張するなぁ。

「あれ?ど……じゃなくて優華は食べないの?」

ちゃんと言い直してくれてる。うれしい。

「いや、反応が気になっちゃって」

「なんか見られてると緊張しちゃうよ」

「ごめん、チラ見に留めておく」

「それはそれで気になるからやっぱり……あー難しいな……」

「でも気になるんだよね。ほら、その、はじめてだから……男の子に食べてもらうの」

「えっ、あっ……あー、そっちか。僕も同級生の手作り弁当を食べるのははじめてだね」

そっちか、ってどっちがあったの?

「なにか変なこと言った?」

「いや、なんでもないよ。うん……」

なんでもないわけがない。そしてこれはむっつり隠すときのリアクションな気がする。

「はじめてだから、男の子に食べてもらうの……」

声に出して復唱してみる。

「あ、わかった!はじめてえっちするみたいな発言だと思ったんだ」

「なんか声に出されると変な勘違いしてた自分が一層はずかしくなるな。普通に考えて優華みたいな子がはじめてなわけないしね」

「いや、私まだだよ?博樹くんが初恋だって言ったじゃん」

「たしかにそうだけど……。優華みたいにかゎ……人気のある子は高校生にもなればすでに経験済みだと聞いたことが」

「言い直したけど今かわいいって言いかけたよね?」

「まあ、一般論ね。人気あるでしょ実際」

「それは否定しないけど、私自分のことかわいいって思うことはないよ」

「へー、そう」

「かわいいって思わなければかわいいなんて言わないんじゃないかなって思うんだよね」

「世の中いろんな人がいるんだなぁ」

「ねぇ。かわいいって思ったんでしょ?ねえ、ねえ!ちゃんと言ってよ」

「なんか今日すごく調子が悪いな。……かわいい」

 いいね、この響き。半分言わせた感じはするけどくすぐったくてクセになる。友達に言われてもよくわからないなぁって思うだけなんだけど、虹村くんに言われるのはまた格別な感じだ。

「堪能しました。ありがとうございます」

「なんかオタクみたいになってるね」

「へへ……私、博樹くんのこと大好きだしオタクかも」

じゃなくて。

「お弁当。早く食べよう?」

「ああ、そうだね」

弁当の蓋を開け、二段に分ける。反応が気にはなるけど、よくよく思えば見た目は普通な気がする。

「あー、これが女の子の手作り弁当か。おいしそう。写真撮っていい?」

意外と好反応で逆に戸惑う。うれしいような、はずかしいような。

「うん、いいよ」

「ありがとう」

スマホを取り出し、撮影する虹村くん。

「よし、じゃあいただきます」

「いただきます」

 まず手につけたのは出汁巻き卵。出汁とは言ってもうま味調味料なんだけど、ヘタに工夫するより絶対においしい。はず。

「おいしい。さすが、自信があると言っていただけあるね」

とりあえず無難なところはクリア。喜んでもらえているようで安心した。

 自分も出汁巻き卵を口に運ぶ。うん、普通にいい感じの味だ。他人の食べ方に口は出さないけど、とろろ昆布のふりかけをまぶしてあるご飯と一緒に食べるとおいしいのだ。手間はかかってないけど、二種類のうま味が口の中で相乗効果を引き起こす。とろろ昆布のふりかけはパッケージが大きいけどしっとり感がいい方向にはたらくから家でふりかけておけるというのもポイントが高い。今回はどのおかずも相性いいから、意識せずともおいしく食べられることだろう。


 ひじきとしいたけの煮物、鮭とほうれん草のバター焼きの両方についてもおいしいと言ってもらえた。さすがにブロッコリーとプチトマトは言わなかったけど。普段お弁当の感想を口に出しているわけじゃないから、きっと意識して褒めてくれてるんだと思う。

「おいしいって言ってもらえてうれしい。ありがとうね」

「いや、こっちこそありがとう。本当に料理うまいんだね。すぐに平らげてしまいそうだよ」

「もしかして少なかった?」

普段のサイズに合わせてみたつもりだけど、少し気になる。

「いや、全然。じゅうぶんだよ」

「そう?量を多くしてほしくなったら遠慮なく教えてね。前も言ったと思うけどそんなに手間は変わらないから」

「わかった。ありがとう」


「ごちそうさまでした。すごくおいしかったよ。ありがとう」

「やった!気に入ってもらえたようでうれしい」

 本当に食べるのが早かった。ダイエットのために量を減らしているとはいえ、私の倍くらいあったのに私より早く食べ終わってしまった。なんか男の子って感じ。

「ごめんね。日曜日にわざわざ作ってもらって、部活に来たのに自分のことばっかりで」

「いいよ全然。同人イベントのことはよくわからないけど、漫画がないってなったらたいへんだもんね。それに線を引くのも少しずつだけどうまくなってるし。なんなら博樹くんに会えて、こうしてお話できるってだけでうれしい」

「そう。んーでも気分転換したいから午後からはちょっと新しいこと始めてみる?」

「え、いいの?」

「うん。いろんなことができたほうが楽しいだろうし」

「やった。よろしくね先生」

 今日はすごくツイてる。順調すぎて怖いくらいだ。ただ、ここで調子にノるとまた気まずい雰囲気になることは学んだのでここからは守りの姿勢に入る。真面目にお絵描きに取り組むとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ