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ゆうかアプローチ  作者: 旭流遊
アプローチ1:二人きりの空間
25/43

ラブコメのヒロイン

前回のあらすじ:悪ふざけをしたら胸を触られてしまいました。

「失礼しまーす」

「お、来たか。今日は突撃しないんだね」

「突入する目的は昨日達せられたからね」

「それもそうか」

「そういえば、ステップはどこに置けばいいの?」

「ああ、この棚だね」

 私たちの席の後ろの棚を指さす。今日置いたと思われるステップ数冊がすでに置かれている。

「わざわざありがとうね。本当にいいの?」

「もちろん。家にあってもスペース圧迫するだけだからね。これからも少しずつだけど持ってくるから」

「うれしい!ありがとう!」

そう言いながら、朝にまだ持っておいてほしいと言われたステップの今週ぶんを棚に置く。たしかに一冊だけでもすごくスペースをとっていて、今棚にあるぶんと合わせたらそれだけでカバンが埋まってしまう。

「読んでみてどうだった?」

「いちおう全部目を通してみたけどやっぱり途中じゃよくわからないね」

「最初はそうだね。これからまた新連載とかも始まっていくから、そうしたら読みやすくなるかも。長く続くやつも読んでれば少しずつ愛着湧いてくるし」

「なるほど、となるとやっぱりここに持ってきてもらうっていうのはすごくありがたいね」

「じゃあ今日はどうする?別に読んで過ごしてもいいと思うけど」

「んー……いや、お絵描きするよ。せっかく来たんだしね」

実のところ昨日の続きがやりたくて仕方がない。案外お絵描き向いてるのかも。

「さて、と。始めますか」

 昨日と同じくスクールベストを脱ぎ、ボタンを開け、シャツの裾を出す。今日はキャミも着てるからそれもスカートから出しておく。

「それは今日もやるんだね」

「暑いからね。脱げる隙あらば脱いでいきたいよ」

「変態みたいな発言だね」

「やだなぁ、虹村くんの前だけだよ」

「そう。まあ、そっちのほうが集中できるだろうしいいか」

 お互いにやりとりがだいぶこなれてきた気がする。好意を伝えても虹村くんはそれほど反応しなくなってきたようだ。しかし私は知っている。どんなにわかっているつもりでも好きだと言葉を伝えられると心が揺さぶられるものなのだ。長期戦は覚悟してるからこれからまたゆっくりと伝えていけばいい。何度でも。いつか私のことを好きになってくれる日まで。

「そういえば、虹村くんは今日はなに描くの?またえっちなやつにするのかな?」

 いざ作業に取りかかるというところでちょっと気になった。

「いや、今日は漫画の原稿だね」

「私がいて恥ずかしくなっちゃった?」

「予定通りだよ。一ヶ月と少ししたら同人イベントがあるんだ。それに向けて一冊描くことになってて」

「同人イベント?」

「まあ、簡単に言えばプロじゃなくても冊子やグッズを作って売ったりできるイベントだね。今度のやつはその中でも最大級だと言われているんだ」

「へえ、じゃあ虹村くんもそこで冊子を売ったりするの?」

「いや、今回は知り合いに頼んで冊子を代わりに売ってもらうんだ。委託ってやつだね」

「そうなんだ……。どういう漫画を描くの?」

「ラブコメかな。ちょっと今の流行とは違うんだけどやっぱり好きなんだよね」

「ラブコメ好きなんて意外。自分は恋愛する気なさそうなのに……」

「まあ、スポーツ観戦みたいなものだよ。やるのは嫌だけど見るのが好きって人もいるじゃん」

「そういうものなのかな?」

「作中の男キャラに恋してるヒロインの無敵感みたいなのがやっぱり女の子のかわいさを引き立ててると思うんだよね」

「じゃあ私も無敵かわいい?虹村くんのこと大好きだよ!」

さあどうだ。よくわかんない表現な気もするけど気にしない。

「まあ……物語の中にいたらすごくかわいいと思う……かな」

いい反応。何気にかわいいってはじめて言われた気がする。かわいい、えへへ。甘美な響き……。

「うれしい……ありがとう」

 まだまだ虹村くんは私の好意を受け止めてくれそうにはないけれど、少しだけ光が見えた気がする。いつかは当事者として私を好きになってくれたらいいな。

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