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ゆうかアプローチ  作者: 旭流遊
アプローチ1:二人きりの空間
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チュートリアル(1)

前回のあらすじ:漫画イラスト部に突入し、虹村くんの性癖を垣間見ました。

「さて、ここ座っていいかな?もうちょっと話を聞かせてもらっていい?」

 何事もなかったかのように話を再開する。わりと真面目に入部するつもりで来てるのだ。八割くらいは下心だけど。

「あ、ああ、どうぞ」

効いてる効いてる。一肌脱いだかいがあるってもんだ。

「ありがとう。じゃ、お言葉に甘えて」

虹村くんの左の席に腰かけ、虹村くんを正面に捉える。虹村くんもこちらに体を向け、正対する形となった。

 さて、この段階で入部に関してはクリアできたと言っても過言ではないはず。一人でしか活動してない部活に自分のことを好きだという異性が突然入部したいと乗り込んできたらどう考えても下心だし、いやまあ実際そうなんだけれども、断られても仕方がない。そういう意味で一か八かの大博打だったわけだけど、ちゃんと話を聞いてくれるということはそういう部分で許容されたと言えるだろう。

「活動は平日の放課後で土日は休み?」

「そうだね。まあ、これまでは一人だったからその辺適当だったけど。土日も顧問の先生は別の部活で来てるから活動はできなくもないけど休みにしてる」

「顧問って誰?」

「美術の山岡先生だよ。」

芸術は音楽を選択したからよく知らない。

「へえ、顧問の先生っていろいろ教えてくれるの?」

真意はそこではない。すっかり忘れていたが顧問が来る可能性を知りたいのだ。今のように大胆な、まあ先生からすれば乱れた服装だったり、行動をした場合、顧問が突然やって来るとまずいのだ。

「いや、基本的に不干渉だね」

よし、完璧。これで心置きなく胸をチラ見する虹村くんを堪能できる。座ってからは見やすくなったのか頻度が増えている気がする。黙っておくけどね。

「じゃあ、虹村くんが私の先生ってわけだ」

質問の意図を誤認させるべく、別の文脈で繋げる。今日の私、冴えてるぞ。いや、最近それで痛い目見てる気がするからあまり意識しないでおこう。油断禁物。

「そうだね。自分もまだまだだし、自分の作業もしたいから付きっきりでずっとなんていうことはないだろうけど」

「やった。上達できるようにがんばるよ、私」

右肩をぐるぐる回してアピールする。それを見る虹村くんの目はきょとんとしている。

「ん?どうかした?」

格好からしてどうもこうもしてるとは思うけど訊いてみる。

「いや、案外真面目なんだなって思って」

「ひどい、真面目じゃないと思ってたの?」

真面目だよこっちは。二割くらい。

「好きだって言われた手前、自意識過剰になってるのかもしれないけど、目的は僕にあるんじゃないかと思ってた」

「否定はしないかな」

八割くらい。

「でも、私も小学生の頃はユリキュアとかりぼんがーるのキャラを友達と描いたりしたくらいにはイラスト好きだよ!」

ほんの一時期流行ったんだよね。

「じゃあやってみる?」

「いいの?やる!」

「わかった。そうだな、えっと、ここに一式用意するか。ちょっと手伝ってくれる?」

 虹村くんが立ち上がり、机の反対側、奥手にまわっていく。ついていくとそこには七台くらいのパソコンが置かれていた。棚にはディスプレイやマウス、キーボード、コード類、そして虹村くんの机に置かれていたような板とペンがあった。

「じゃあ、これを持ってって」

 キーボード、ペンが差し込まれた板、マウスとコードを何種類か渡される。軽めのセットだ。対して虹村くんはパソコン本体とディスプレイを二回に分けて運んできた。


 みるみるうちにパソコンがそれっぽくセットされ、絵を描くソフトを立ち上げるに至った。虹村くんがキャンバスに適当な線を引く。

「よしこれでいいかな」

確認が終わったようだ。虹村くんに代わり、私が席につく。温かい。虹村くんの体温を感じるようでドキドキする。

「はじめに言っておくけど、慣れるまで難しいと思うよ」

ペンを持ち、見よう見まねで板の上に浮かせる。カーソルの位置を確認しておそるおそるペン先を板に擦りつけてみる。

「え、うそ」

驚くほどにぐにゃっとしていてすごく歪だ。

「ね、難しいでしょ?」

「むむむ……」

何度か挑戦してみるがやはり思い通りにはならない。

「人間の手は無意識のうちに震えていて、機械はそれをそのまま正確に捉えてしまうからこうなるんだよね」

「そうなんだ」

たしかによく見るとわずかに震えている気がする。

「その振動を打ち消すことで超パワーを手にする漫画もあったくらいだね。まあ、絵を描くぶんにはそんなに問題のないことだから単純な慣れとちょっとしたコツと設定でなんとかなるよ」

「慣れとコツと設定……」

「慣れはともかく、コツは素早く線を引くこと。シュッというイメージでやってみるといいかな。こんな風に」

虹村くんが私からペンを受け取り、見本を見せてくれる。シュッという音を立てて引いた線はたしかにきれいだ。

「すごい!私もやってみる」

シュッ。

「そうそう。うまいね」

「できた!」

まともな線を引けただけでちょっとした感動すら覚える。

「まさかこんなに早くできるとはね。ちなみに設定っていうのはここのところを弄ると線の曲がりやすさが変わるからやりやすい設定を見つけるといいと思う」

「なるほどね。ためしに変えてみようかな」

設定を適当に変えてみる。数字を大きくしてみよう。

「あーっ、たしかに違う」

手の動きより少し遅れて滑らかな線が表示される。イメージしたよりもずっと曲がりにくくて描きにくい。今度は数字を小さくしてみる。

「うーっ、ガタガタ……」

こちらは繊細なのかちょっとガタガタな線が出てくる。これもこれで難しい。設定を元に戻す。

「うん、これこれ」

ちょうどいい感じに線を引くことができる。設定は最初のがぴったりだったらしい。

「線の引き方がわかったところで、次はちょっと実践してみながらパソコンで描くときの基本的な部分について教えていこうかな」

今度は実践編らしい。ちょっとワクワクしてきた。

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