提案
前回のあらすじ:虹村くんに告白して玉砕しました。
「それじゃあまるで恋することが、好きな人と付き合いたいと思うことが悪いことみたいじゃないか」
虹村くんは目に涙を浮かべながら熱弁する。
「僕はそう思うことは普通だと思うし、そのために努力した堂島さんが悪いなんて思わない。むしろ感謝すべきだと思う」
「でも……」
「たしかに、僕の望む形ではなかった。けれどそれは逆も同じで、僕は堂島さんの望む形で関わることができなかった」
たしかにそうだ。
「これはたぶん、どちらかが悪いとかそういうことじゃなくて、お互いに求めるものが違っただけなんだ。ただ、それをここでどちらかに合わせようとするのもよくない気がする」
どちらにも合わせない……つまり、恋人にも友達にもなれないってことか。
「じゃあ、ここでさよなら……?」
フラれたんだし仕方がない。仕方がないけれど割りきれない。
「堂島さんがそうしたいなら……」
嫌だ。嫌だよ。ずっと一緒にいたいよ。だけど言えない。言っちゃいけない。今まで告白してくれたみんなが私を想ってしてくれたように、私も潔く身を引かなければいけないんだ。みんなもこんな気持ちだったんだよね……。本当にすごいなぁ。強いよ。私も、みんなみたいに強くなれるかな……?
「このままじゃ虹村くんの迷惑になるから……。これでおしまいにしたほうがいいのかなって……だから……」
「ちょっと待って。僕はそんなこと望んでないよ」
「え、でも友達としてもダメってことなんじゃ……」
「そうじゃなくて、無理に僕に合わせなくていいって言いたかったんだ。このままただの友達になってほしいって言ったら僕のわがままだけを押し通したことになってしまう」
えっ、え?どういうこと?
「楽しかったんだ。話してくれて。できるならこれからも仲良くしたい。だけど、いきなりただの友達として接してほしいなんて酷だと思うから。無理させるみたいで嫌なんだ」
言いたいことがまだ掴めない。すごく気を遣ってくれていることだけはわかる。
「だから、ただの友達か恋人かを今決めてどちらかが合わせるんじゃなくて、とりあえずはお互いが思うままに仲良くしたいと思ってるんだ。もちろん、強制ではないから堂島さんが嫌なら諦めるしかないけれど……。僕は堂島さんとこれからもいろいろ話したい」
「つまり、お互い相手に求める形は違うけど仲良くしたいと思っているなら仲良くしようってこと?」
「うん」
「本当にいいの……?」
「むしろ僕からお願いしたい。これからも仲良くしてもらっていいですか?」
「私も、一緒に仲良くしたい。これからもよろしくお願いします」
「ありがとう。うれしいよ」
ここでふと疑問が浮かんだ。
「ただの友達として接しなくてもいいってことはいっぱいアピールして好きになってもらう努力をしてもいいってこと?」
虹村くんは少し困ったようすだ。
「そういうことになるかな。程度をわきまえてもらえたら気の済むまでやってもらっていいよ。まあ、なびかないと思うから諦めてもらうっていうのがおすすめなんだけど」
勧められはしないけどいいんだ。最後の言葉はちょっと悔しいけど、チャンスが残っていることはうれしい。
「虹村くん、大好き!私、絶対に諦めない!絶対に好きになってもらう!」
満面の笑みで宣戦布告した。そう、これは戦いなのだ。ただの友達になってしまうか、恋人になれるか。
「元気になったようでよかった。望むところだよ。絶対に堂島さんと普通の友達になってみせる」
勝負だ。虹村くん。




