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ゆうかアプローチ  作者: 旭流遊
序章(アプローチ0):初デート
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虹村くんの述懐

前回のあらすじ:虹村くんに付き合う気はないと言われてしまいました。

「申し訳ございませんでした。無神経な発言をしました」

私が席についてしばらくすると虹村くんは深々と頭を下げた。

「頭を上げてよ。虹村くんは悪くないのに」

そう、勝手に勘違いして勝手に舞い上がり、押しつけた期待と違ったからって勝手に落ち込んで。こうして頭を下げられるとなんだか虚しい気分になってくる。

「いや、悪いことをしました。女性に、いや、人に対して不適切な発言でした」

虹村くんは頭を上げない。

「それに……いや、ここからは勘違いかもしれないんだけれど……」

虹村くんは頭を上げ、こちらを見て続ける。

「僕は、堂島さんが僕のことを好きかもしれないと思っていた。にもかかわらず、そうであった場合に特に傷つけてしまうような発言をしました。本当にごめんなさい」

虹村くんが再び頭を下げる。え、バレた……?

「一昨日話しかけられたとき、買い物に誘われたとき、連絡先を交換したとき、もしかしてと思った。いや、そのちょっと前からなんとなく見られているような気はしていた。だけど、勘違いだろうと思っていた。理由が見当たらないから。僕はさっきみたいに人に偉そうに言えるほど容姿がいいわけでもないし、勉強も運動も特別できるわけじゃない。堂島さんとの接点があるわけでもなかったし、クラスの人気者どころか悪い噂も流れているくらいだ。だから、変に勘違いしないで純粋に僕と友達になってくれようとしているんだと思うことにした」

「悪い噂?」

「ああ、知らなかったのか。僕は漫画イラスト部なんだけどほかの部員は全員辞めちゃったんだ。真面目にイラストとか漫画を描こうって言ってただけなんだけど、他の部員には合わなかったみたいで……。でも、僕の言っていることは正論だからって他の部員たちは辞めていった。端から見れば僕が頭おかしくて追い出したみたいに思われても仕方がないよね。自分のことだから敏感になっているだけなのかもしれないけど、たまに悪い噂が聞こえてくるんだ」

たしかに聞いたことがある気がする。虹村くんが漫画イラスト部と聞いたときに何か引っかかっていたのはおそらくこれのことだろう。

「そんなこともあってか友達ができなくて、特に趣味の話に付き合ってくれるような人はいなかったんだ。そんな僕に堂島さんが声をかけてくれた。趣味の話をしようと言ってくれた。うれしかった。もしかしたら惚れられているかもしれないなんて思ったりもしたけれど、可能性は薄いし、純粋に友達になってくれるという可能性を信じたくなった。そうであるほうが都合がいいからすがりつきたかった。現実の女の子と付き合うつもりなんてなかったから。僕のことが好きなだけで趣味には興味がないなんてことになったら寂しいし。見極めたかった。確かめて確信に変えたいと思っていた」

私が虹村くんに恋人になってほしいと思っていたように、虹村くんは私にただの友達になってほしかったのか。

「だからうれしかったんだ。紹介したアニメにハマったと言ってくれて。徹夜してまで見てくれて。語りたいと言ってくれて。そして結論を焦ってしまった。ボーイッシュな服装だったり、妙に距離感が近かったり、アニメの話で盛り上がったり。異性としてではなく友達として接しようとしてくれているんだと勝手に勘違いして浮かれた」

私の何気ない行動が誤解を招いてしまった。

「そして創作の女の子と現実の女の子、間接的には堂島さんを比べ、けなすような発言をした。堂島さんの反応を見てやってしまったと思った。失礼な発言をしたと。すぐに弁解した、つもりだった。けれど違った。僕の個人的な意見だという弁解は堂島さんをより傷つけることになってしまった。友達として付き合うことを求めてしまった。落ち込んで、涙声になる堂島さんを見るまで気がつけなかった。そうだよね、好きな人にそんなこと言われたらつらいよね。告白したわけでもないのに付き合う気はないと言われて、暗に友達でいてほしいと言われて。無神経な発言だったと思う。ごめんなさい」

虹村くんがまた頭を下げる。

「もしかしたら勘違いかもしれないとも思ったけれど、堂島さんが泣きたくなるくらい傷つけたんだから、間違っていたときの恥くらいは覚悟するべきだと思った。外れてたらはずかしいけど笑い飛ばしてくれたらうれしいな」

 相手が自分に惚れているなんて仮定、外れていたらはずかしいことこの上ない。自意識過剰もいいところだ。それだけの覚悟をもって私に謝ってくれた。思っていることを話してくれた。私も覚悟を決めなくちゃ。

「……勘違いじゃないよ」

話そう。私の思いの丈を。

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