02 常澄恭一郎
時間は僅かに遡ります。
俺は常澄恭一郎。
燃えるような真っ赤に染めた髪を炎のように逆立てているのが俺のトレードマークだ。
常に熱く燃えるハートをうまく体現できていると俺は思っている。
隣にいるガタイのいいやつは山王下流之介。
家が隣同士の幼馴染だ。
お互い「キョウ」、「リュウ」と呼び合っている。
巷では「キョウリュウコンビ」なんて呼ばれている。
広めたのは俺だけどな。
今、俺たちは学校の屋上にいる。
この学校最強の男、羽生先輩を待っている。
羽生先輩は喧嘩に強い。
本人は喧嘩などに興味がないようだが、降りかかる火の粉を払っていった結果、最強の称号を手に入れてしまっていた。
勝手に取り巻きも増えていった。
その取り巻きたちが弱い者いじめをしている。
それを先輩から戒めてもらおうと呼び出したのだ。
「羽生先輩、本当に来るのか?」
リュウが聞く。
「ああ、ちゃんと書面を手渡しておいた。」
「何て書いたんだ?」
「果し状、今日の放課後屋上に来られたし。って書いておいた。」
「来るわけないだろ。なんで喧嘩のお誘いなんだよ。」
「にゃに?強い人を呼び出すときにはこう書くってどこかで見たぞ?」
「・・・。」
どうやら勘違いをしていたようだ。
「それ、手渡したのならその時言えば良かったんじゃないか?」
「・・・。」
しまった。
その時、階段へと通じるドアがカチャリと開いた。
ほらほら、来た来た。
俺の想いは通じたんだ。
現れたのは一人の女生徒であった。
羽生先輩じゃなかったか。
しかし、こいつは・・・。
山立姫子?
クエスチョンマークが付いたのはいつもと様子が違うからだ。
パソコン部に所属している彼女はコンピュータとプログラミングをこよなく愛し、休み時間にはその手の書籍を読みながらニヤニヤしている。
特殊なオーラを放ってはいるが、比較的目立たない部類の女子だ。
見た目は可愛い部類だが、その独特な雰囲気のせいで男は寄り付かない。
ちなみに俺と出会うとなぜか過剰にきょどる。
こいつに何かした覚えはないのだが。
俺、そんなに怖いのだろうか?
そんな山立が今日は燃えるような真っ赤な髪の色になっていた。
「あいつ、あんなにファンキーだったっけ?」
「お前が言うな。」
さらに目つきがおかしい。
何かを決心した目だ。
強い意志を感じる。
鼻息も荒い。
威圧感が半端ない。
視線は完全に俺を捉えている。
真っ直ぐに俺に向かって歩いて来る。
俺の前まで来ると立ち止まった。
「常澄くん!」
「はい、なんでしょう!?」
俺の名を呼ぶ声に込められた強い圧に思わずあとずさる。
山立は腕を俺に伸ばした。
俺は反射的に両腕で顔面を防御しようとしたが、彼女の手には白い封筒があった。
「これを読んで欲しいっす。」
封筒を受け取って目をパチクリさせていると「今!」と急かされた。
封筒の中には一枚の便箋が入っていた。
目を通すと「いつもあなたのことばかり考えています。」とか「あなたのことが気になってしょうがありません。」とかまるでラブレターのような文言が並んでいる。
というかラブレターだ。
ラブレターをもらうなんて初めてのことだ。
正直ちょっと嬉しい。
切ない気持ちが文章から読み取れ、ドキドキしてしまう。
いつもの山立であれば、恥じらいながら書き綴ったのだろうなと想像できる。
しかし、眼前で鼻息も荒く、獲物を狙う肉食獣のように俺を見据えるこいつと結びつかない。
ラブレターを読み終わり視線を前に向けると、こちらを凝視している山立の顔。
「お付き合いしてほしいっす。」
告白された。
いつもの山立からの告白であれば、俺はオーケーしてただろう。
しかし、今日の山立は言いようのない殺気じみた威圧感を放っている。
「・・・えっと。」
助けを求めるようにリュウに視線を送った。
「おめでとう。」
リュウは祝福の笑顔を送ってくれた。
違う。そうじゃない。
視線を正面に戻すと山立は姿勢を低くし今にも飛びかかろうとしていた。
というか飛びかかってきた。
「にゃ!?」
俺は反射的にそれをかわした。
そして逃げた。
本能がヤバイと警告している。
おれは一目散に階段まで走った。
振り返ると山立は追ってきていた。
「返事聞かせてほしいっす!」
返事言う前に飛びかかってきたろう!
俺は階段を全力で駆け下りた。
体力には自信があった。
しかし、山立との距離は縮まらない。
一階まで降りると廊下を全力疾走し上靴のまま玄関から飛び出した。
その時、屋上で何かが光った。
「何だ?」
俺は振り返り屋上を見上げた。
俺は山立に捕獲された。