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12 新沼かなで

 困りました。

 明日の授業で使おうと思っていた元素周期表。

 ここにあると思ったのですが。

 この資料室は乱雑にものがしまってあって探すのが大変ですね。

 まぁ、しまったのは私ですが。

 生徒たちに示しがつきませんね。


 あら?職員室の方から大きな声が聞こえます。

 なんでしょうか?


 ドアを開けると十数人の生徒が先生方を抑え込み我先にと噛みついていた。


「ひっ!!」


 その声に反応し生徒たちは一斉に声の主、新沼かなでの方を向いた。


 これはどういう状況でしょうか?

 不良たちが職員室を襲撃とかいうのとは違う異様な雰囲気でした。

 噛みついていた?

 複数人で?

 それに生徒たちの眼の色もおかしかったような。

 訳が分かりませんが身の危険を感じます。


 咄嗟に資料室に戻ってしまいましたが、非常にまずいです。

 この部屋は職員室と隣接しており、ドアはここのみ。

 カギはありませんし、窓もありません。

 まずは身の安全を確保しなければなりませんが逃げ道がありません!


 唸り声が近付いてきます。

 これはただ事ではありません。

 ドアを思い切り叩いています。


 バキィ!


 複数人による重圧に耐えかねてドアは決壊した。

 破壊されたドアとともに雪崩れ込むようにゾンビたちが資料室へと入り込んだ。

 ゾンビたちが辺りを見渡すもそこに新沼の姿はなかった。


 ギリギリ間に合いました。

 咄嗟にロッカーの中の段ボールを引きずり出し中に隠れることができました。

 しかしこれでは完全な袋小路。

 しかもロッカーから出した段ボールが真ん前に。

 普通に考えてこのロッカー開けますよね。

 あぁ、神様。


 ・・・。

 ・・・・・。

 ・・・・・・・。


 開けませんね。

 ウロウロしている気配はあるのですが。


 私の頭もだんだん冷静になってきました。

 少し整理しましょう。


 まず考えられるのが壮大なドッキリ。

 しかしこれはいくつかの状況が否定しています。

 まず倒れていた中に薮坂先生がいました。

 薮坂先生はこういった冗談は全く通じませんし、協力するとは思えません。

 そして彼らの眼。

 白目の部分が灰色に濁っていました。

 ドッキリであるならカラーコンタクトを使うはず。

 眼球タトゥーという技術で白目部分を着色することができるとは聞いたことがありますが、そこまでするとは思えません。

 更にドアを破壊して入ってきたことについても、ドッキリで学校の設備を破壊するなんてもっての外です。

 最後に、いつまでたってもネタ晴らしがこないこと。

 ドッキリであるならば恐怖心を煽るに煽った状況でネタ晴らしすべきです。今更来られても私はすでに冷静になっており完全に機を逸してしまってます。


 ドッキリではないとしますと、この状況は見たそのままなのでしょうか。

 化学の教師である私がこういう判断をするのはどうかとも思うのですが、これはホラー映画さながらのゾンビなのではないでしょうか。

 この考えが間違っていればそれに越したことはないのですが、身の安全を図るためには悪い考えに基づいて動かなければですね。

 まず、確かなことは彼らは人を襲うということ。先生方を抑え込んで噛みついていました。そして私に気付いて襲いかかってきました。これは間違いありません。

 なぜ噛みついていたのか。映画のゾンビでは食事のため、あるいは噛むことによって仲間を増やすための2パターンだと思うのですが、あの状態の生徒たちが十数人いたことを考えるとおそらく後者でしょう。

 彼らには知性が感じられないということ。唸っているだけで会話をしている様子はありませんでした。資料室のドアも鍵がありませんのでドアノブを捻るだけで開きますのに破壊して入ってきました。このロッカーにしても隠れるとしたらここしかないという場所なのに開けようともしません。

 私の声に反応してこちらを向きました。つまり耳で聞いて、目で見ている。少なくとも聴覚と視覚で私を認識していました。ゾンビ同士で噛み合ったりしていないようでしたので人間とゾンビを識別する何かがありそうですね。


 つまり、ここから脱出するための条件をまとめますと、音を立てずにゾンビの視界に入らないように移動することが条件になります。


 ・・・無理ですね。

 資料室内にいるゾンビは今のところ私には気付いてはいませんが、ここから出ていく気配がありません。外で大きな音でもすれば出て行ってくれるかもしれませんが。


「失礼しまーす!うわっ!」


 生徒の声!

 職員室に誰かが来ました。いけません!

 ゾンビたちが声に反応し職員室の方へと移動する様子が伺えます。


「いけません!職員室に入ってはいけません!」


 やってしまいました。

 生徒の声に反応して思わずロッカーから飛び出し大きな声を出してしまいました。

 教師としての使命感とかそう言ったものを考えた結果ではありません。衝動的に動いてしまいました。 


 まだ資料室に残っていたゾンビたちが一斉にこちらを振りむきました。私の姿をしっかりと認識したようです。今からロッカーに入っても手遅れでしょう。

 

 自分の身を守るという目的からは大きく外れた行動を取ってしまいました。

 これから自分の身に起こるであろう恐怖。

 それよりも、せめて、今の生徒だけでも助かってくれればと考えている自分に驚きました。

 どうやら自分で考えていた以上に教師だったようです。


 こうなったらやりきるしかありません。

 ゾンビたちの注意をひくために、ロッカーをガンガンと叩きました。

 さっきの生徒が逃げる時間をかせぎます。

 

「早く逃げなさい!」


 ゾンビたちが私に迫ってきます。

 あの生徒は逃げられたでしょうか。

 生徒を救うことにこの命使えたのなら教師冥利に尽きるのですが・・・。



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