11 名取柚花
前手航先生。
理知的で物静かで一見冷たい印象を与えるも冷静で頼りがいのある先生。
そして眼鏡。
まさにこの名取柚花の理想の男性。
前々よりお慕い申し上げておりました。
そして、今先生と同じ部屋にいる。
これはまさに運命。
前手先生がいらっしゃればゾンビなど恐れるに足りませんわ。
先程も男子生徒をゾンビへと押しやり私を助けてくださいました。
まさに白馬の王子様。
このような緊急時であっても的確な判断、指示。
まさに教師の鑑。
先程から小宮山の馬鹿が一々先生の言うことに反論していますが、あれは何なのでしょう。後であることないこと女子の間で吹聴して彼の人望を地に貶めて差し上げますわ。
さて、先生の提案によるロッカーによるバリケード。
早速取り掛からなきゃなりませんわね。
二人の愛の巣を作るために。
でも、若干名邪魔な方々がいますわね。
ドサクサにまぎれてどうにか二人きりになれないものでしょうか。
ガッシャ―ン!
なんということでしょう!
ゾンビが侵入してしまいました。
前手先生が取り押さえました。
さすがです!
瞬時の判断、危険を顧みない勇敢な行動。
素敵すぎます!
さらにゾンビが侵入してこようとしています!
前手先生は先程のゾンビを取り押さえています。
これは危機的状況なのではないでしょうか。
女子生徒のゾンビが窓枠を超えて入ってきましたわ。
あら、このゾンビは私の親友桃子ではありませんか。
なんということでしょう。
ゾンビになってしまっていただなんて。
そして私の前手先生に襲いかかろうとしている。
先程見たゾンビのように前手先生に噛みつこうというのでしょうか。
そんなことさせません!
ぶっ殺してやると思った時には既に行動は完了しておりました。
私はその場にあった椅子でかつての親友を叩きのめしておりました。
でもさすがはゾンビ、まだ動いておりますわね。
私の前手先生にさらに迫ろうとしております。
椅子の角を脳天に打ち込みましたところ、ようやく諦めたようです。
かつての親友にこんなことするなんて心痛みますが、すでにゾンビとなっていた以上、こうするしかなかったのです。私の前手先生に手を出そうとしたのですから当然の報いです。
おやおや、皆さん引きつった表情をされておられます。
ゾンビが侵入したのだから当然でしょうか。
「でかした!名取!」
なんということでしょう。
前手先生からのお褒めの言葉!
なんて幸せなのでしょう!
「どうやら脳にダメージを与えると活動を停止するようだ。」
さすが先生!的確な推理です。
「誰かこいつの頭を破壊してくれ!」
あらあら、誰も動きませんわね。
男子が二人もいるのに情けないですわね。
誰ものものかわかりませんがバットが転がっておりますわね。
これをちょっと拝借いたしまして。
グシャ!
ああああ!
なんということでしょう!
やってしまいました!
先生のお顔とお洋服と眼鏡にゾンビの脳漿をぶちまけてしまいましたわ!
これは許されざる失態!
「よくやった名取。助かったよ。」
お優しい!
なんてお優しいのかしら!
私の失態には一言も触れず、感謝の言葉を述べられるだなんて!
まさに聖人!
「さぁ、今のうちに早くバリケードを!」
そうですわ。
皆さん何を茫然としているのでしょう。
早く指示に従って行動しなさいな。
では私も作業に参加するとしましょう。
あら?
なんだか皆さん私から距離を取っているような。
私が前手先生から称賛されたことに対する嫉妬からくる行動でしょうか。
まぁいいですわ。
これからも私は先生のために尽力させていただきますわ。
決意も新たにバットを握りしめると、皆が一斉に後退った。