体質異常
私の体に異変が起き出したのは、3歳になった時からだと、お父さんにいつだったか教えてもらった。
それまでは普通の女の子だった。
肌がとても白くてキレイで、お母さんとよく似ているね、って保育園の友達や先生に言われるのがとても嬉しかった。
でも、5歳になってから月日が経つにつれ、私は周りから『肌が透きとおっているように見えるね』と言われだした。
私はそれが不思議で仕方なかった。
自分の目ではお母さんと同じ、白くてキレイな肌にしか見えなかったから。
そんな私が7歳になったとき、お母さんやお父さんから、小学校には通うことはできない、と辛く悲しい顔で告げられた。
そしてお母さんから、こめんなさい、と涙を流しながら言われた、ぎゅっと私の事を抱きしめながら。
ああ、私は普通の子とは違うんだ、この透き通っているように見えるらしい、お母さんと同じ白くてキレイな肌が。
何で、何で私にだけなの。
私の目には、ほんとにただ白くてキレイにしか映らない、大好きなお母さんと同じ色の肌なのに。
私はお母さんの腕の中で泣いてしまった。
でもこの時、私は強く思った。もうお母さんやお父さんを悲しませない、と。
お母さんの腕の中から顔を出した私は、自分の手のひらで涙を拭って
力いっぱいの笑顔で
「うん、大丈夫だよ」と
涙目の笑顔で応えたのだった。
この頃から、私の体の異変はどんどん進んでいった。
それは、お父さんやお母さんがビデオカメラをまわしたり、写真をとる事が多くなったからだ。
お母さんやお父さんは、レンズを介して私を探すことが日に日に増えていった。
そして9歳になって、私はとうとう見えなくなったらしい。
お父さんやお母さんは、ビデオカメラがないと私の姿は探せなかった。
私は、透明人間となったのだ。
お母さんやお父さんは、いつか訪れると覚悟していたと思う。
だって私が見えなくなっても、普段通りに思える仕草を私に振る舞っていたから。
私はそれを壊しちゃいけない、守らないといけないと思った。
悲しませたくなかったから。
だからずっと私も普段通りに思えるように振る舞っていた。
私が10歳になったとき、ある大きな出来事が起きた。
妹ができたのだ。
お父さんから写真とビデオを見せてもらった。
とても小さくてかわいくて、私もお母さんみたいに触れたり、ギュッと抱きしめたりしたかった。
でも私は心に決めていた。
妹には会わない。
そしてこれからは、お母さんやお父さんにも会わないと。
「少し話したい事があるんだ」
と、お父さんから力なく言われたとき、私は
「ここで暮らすよ」とすぐに返事をした。
「紗綾花……! どうしてそのこと」
「妹のためだもん。私がそばにいたら、同じように見えなくなっちゃうかもしれないし」
私は明るい声で可笑しそうな雰囲気を出すよう努めた。そのまま言葉を続ける。
「私もう10歳だし1人暮らし大丈夫だよ。それに家政婦さんも来てくれるんでしょ。私、家にいること気付かれないようにがんばらなきゃだね」
「すまない。ずっとではないんだ……。また、必ず一緒に暮らそう」
そう言ってお父さんは私を探るように両手を動かす。
私に触れると、引き寄せてぎゅっと抱きしめてくれた。
このとき私は、壊しちゃいけない、守らないといけないと、もう一度強く心で思っていた。
だから、もう家政婦さんを辞めさせるわけにはいけない。
お母さんやお父さん、妹のためにも、私は家族にこれ以上迷惑をかけたくなかった。
悲しませたくなかった。
決意を新たにし、家政婦さんを待っていた私の所にやって来たのが
彼だった。