虹は綺麗だった
「……ほぉ」
辺りを見回してみたが、特にこれと言った魔物は居なかったが、それよりも面白いものが見られた。まずは、木だ。あまりしっかりと見てこなかった所為か、見てみると、なかなかの魔力を持っている木々が存在する。さすが『神樹の森』というべきか。というか、この森には雨上がりにはそういう魔物を呼び寄せるのだろうか。
「ん? あれは……」
あれはミミズか? しかも――。
「お、おい。なんだあれ!? 見たこと無いぞ!!」
「え? あぁ……そうだな」
テンションが上がっている。けど俺的にはあまりテンションが上げられる状況じゃないぞ。というかどうしてこの世界は俺の世界よりも大きいのばかりなんだ。あれだって俺の腕ぐらいの太さがあるぞ……。
「おい、何をす――――」
俺は目を疑った。フェールが初めにしたことは、あのミミズをいきなり二つに引きちぎったのだ……しかも素手でだ。やはり森生まれとはこういう所があるのだろうか……。俺はただ眺めていただけだが、次にフェールはそのミミズから出てきた液体を眺めて、臭いを嗅いでいる。それをした後、顔を渋めて、そしてミミズを置いて、そのまま眺めていると、その真っ二つにされたミミズが二つに分裂した。なんというか、再生能力が凄いというのが、わかった……。
「やはり、魔物は面白いな!」
「あ、あぁ。そうだな……」
なんというか百年の恋も冷めそうな、そんな趣味を暴露しているフェール。いや俺はそもそも惚れてなど居ないが、とりあえず若干引き気味な顔をしているに違いないだろう。
「……や、やはり気持ち悪いか?」
「いや、そうだな……はっきり言えば」
「……そうだ、な。だ、だったら、やめようか……な。こういう事」
「? なんでだよ」
「は? いやだって、貴様が嫌がるなら、と」
「まぁ、確かに人の嫌がる事は良くないが、自分が好きな事を曲げる必要は無いんじゃないか? そもそも俺は他人の嫌がる事を散々して来た訳だし、親に何度やめろと言われた事か……」
片目が疼きだし、俺はとっさに押さえる。いやもしかしたら思い出したくない記憶が蘇ったから、こうなったのかもしれないが。俺がそういうとまるで何かに目覚めたかのように。
「そ、そうだな。そうだよな!!」
「あ、あぁ……だが、俺の居るまでは極力やめて貰えると俺は助かる」
「そ、そうか。そうだな、うん。そうしよう」
どうやら納得してくれたようで、俺達はそのまま先に進んでいく、すると、目線の先に大きな虹が掛かっていた。雨上がりでこの天気だ。どこかにはあると思っていた。キラキラとした虹を見ながら、フェールは驚いた顔で――。
「レインボー・バーンだァァァああああああああああああ!!」
と言って、全速力で走り出していた。
●●●●●
レインボー・バーン。それは魔物だ。しかもかなり上位種であり、雨上がりにしか見る事ができない魔物の中でも特に有名で、かなりの実力者でも単体で倒すのは不可能らしい。先程聞いていたばかりなのだが、これはラッキーと言うべきなのだろうか。
俺はとりあえず駆けたフェールを追いかける為に走る。
「ゼェ、ゼェ、ゼェ……お、お前。早すぎ……」
「話には聞いていたが、本当に実在していたんだな……」
レインボー・バーンを目の前で見ると、やはり虹のようだ。アーチを描いた虹を見ながら、やはり意思があるのか、こちらから逃げるように離れていく、それが珍しい理由なのかもしれない。
「待てェェェェええええええええええええええええ!!」
迫真だ。かなり迫真だ。正直怖い。
「お、おい。どうするつもりなんだ?」
そう軽い気持ちで聞いてみた。すると、若干興奮した顔で――。
「解剖する」
ゾワッと今まで以上に背筋が凍る思いだった。だが、今の彼女を止める事はきっと俺では不可能だろう。たとえ魔力扱いが下手で、全力で撃ってしまうような彼女だが、実力は本物――無理だ。あの奇行は俺じゃ止められない。
「……まあいいか」
腕を組みながら、俺はただそれを眺めているだけにした。どうやらレインボー・バーンの移動速度はそこまで速くないようで、このままここで待っていても問題ないだろう。実際、もう既に追いついたフェールはレインボー・バーンに攻撃を仕掛けている。何度か殴りつけて、特にそれ以外は何もして無い。危険すぎるだろう。
「……ああああああああああああああああッッ!?」
叫び声が聞こえた。それはフェールの声だった。それは殴りつけた瞬間だった。俺は焦りながら、駆けだす。そうしたら、殴った手が真っ赤になっていたフェール。俺はそれを見て、驚きながらも、安否を聞くと。
「いや、聞いた通りで少しだけ驚いただけだ……」
知っていたのにやったのか……なんという探究心。
「それにしても、触ったら、ここまで火傷するぐらい熱いみたいだが、どうして近づいてもそれがわからないんだ?」
そんな当たり前の疑問を持っていたが、よく考えたら、魔物なんてのは意味不明なモノだ。もしかしたら触った瞬間に熱を発するとかそういう効果があるのかもしれない。
「だったら、少しだけ魔術を使ってみるか」
俺は掌を前に出し、魔法陣を展開させ、一気に魔術を放出する。使ったのは水系統の魔術だ。一番初めの蛇口を勢い良く捻ったような威力ではなく、一般的に魔術と呼ばれそうな程の威力は出ていた。魔法陣は魔力が大きくなればなるほど大きくなるようで、魔法陣の大きさがそのまま魔術の威力と直結する。それを考えれば、フェールはかなりヤバい実力を持っている事になるだろう。
そして噴射された水が当たった瞬間に、ジュワッと蒸発する。どうやら一切意味が無いようで、何気に今まで見て来た魔物の中ではかなりの実力を有しているかもしれない。見た目はただの虹だが、実力はそこらの魔物の何倍も強いとか意味がわからん。
「……どうするんだ?」
「うーん……一部だけ切断できればいいんだが……」
「切断か……よし、この刀で……」
久々に使う刀。俺はそれでバッサリと切り裂く。思ったよりも簡単に切断できた事に驚く。もしかしたらこの武器はかなりのチート武器かもしれない。俺はそう思い、自分の刀を見ていると、バッサリと斬れた部分はフワァッと砂のように消え去った。え? と思った瞬間だった。
そのまま斬られた部分が生え出す。わかった。この世界の大体の生物はきっと驚異的な生命力があるみたいだ、というか多分こうしなきゃ生きていけないぐらいこの世界は過酷だという事だろう。
「……うん。まぁ……」
俺はなんとなくこの世界の事情の一端を垣間見た気がした。
「……なんとも、この世界は甘くない世界だ」
俺は空を見上げてそう言う。というかこんな事をしている間にもあの魔物はどんどん先に進んでいるのだが、どうやら驚異的な再生能力がある所為で、やはりこうして近くに居る内にどうにかしなくてはならないようだ。さて、いい加減どうにかしないとな……。
「うがあああああああああああッッ!!」
フィールが叫ぶように魔法陣を組み立て、さらには発射しようとしている。
「ど、どうする気だ!?」
「最後の実験みたいなモノだ……あのレインボー・バーンが消滅したらどうなるか、私は気になるッッ!!」
「や、やめっ!!」
俺が叫ぶよりも先に、この魔物に攻撃を仕掛けたフェール。個人的には俺が逃げた後とかにして欲しかったのだが――。そうして攻撃を仕掛けた後、完全に灰になるのだと、予想をしていたのだが、その予想は悪い意味で裏切られる。
ゴォォォォンッッ!!! という凄絶な爆発。それはすべてを飲み込む爆炎と化し、すべてを飲み込む最悪な衝撃となった。
俺達二人はそれを真正面から喰らったのだ。むくりと起き上がってみると、灰まみれになっている以外は特に損傷もなく、身体が軽い火傷状態になっているだけだった。五体満足という状態は幸運としか言い様が無いだろう。
「おい、フェール」
「なんだ……」
「今度から、一人で魔物を探索してくれ」
「……わかった」
俺はなんというか……何も思わず、ここから街に戻るのだった。当然、街ではあの爆発の所為で騒然としていたが、すぐにその理由も判明し、とりあえずは厳重注意で捕まる事は無かった――。この世界の警備の緩さに感謝しながら、俺は疲れた身体をお湯で洗い流し、睡眠につくのだった。
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