ロード・パラサイト
依頼ランクX。ついに到達した最高難度を誇る依頼だ。描いてあるのは、どれも単体ではあるが、強そうな化物ばかりだ。
たとえば、『ロード・メタルアント』。かなり強固な蟻のような魔物のメタルアントと呼ばれる種族の王種だ。つまり『ロード・リザード』と同じという事だ。この世界の一般的な常識に当てはめて、最強種はロードとつくらしい。ただ、時々オブとつく魔物も居る。その場合は魔物としての種族が上位だった場合らしい。たとえば『ロード・オブ・ドラゴン』というドラゴン種の最強種が居る。
「……それで、どれにする?」
「『ロード・パラサイト』。これにしよう」
パラサイト……つまり、寄生虫だ。しかもその王種だ。
「……いや、やっぱりSにするとか、なぁ?」
「何を怖がっている。私は最強だぞ。ロードを一体倒しただろうが」
確かにそうなのだが……。念には念をという言葉が存在する。つまり、そういう楽観している時が一番危険なのだ。
だが、実際問題。力関係ではあちらの方が明らかに上だ――という事は、やはり命令を聞く以外に存在しないという事になる。
「はぁ、ロード・パラサイト……倒しに行こうか」
「当たり前だ。フッ、私の魔術で一蹴よ」
●●●●●
ロード・パラサイト。
パラサイト種で最強の魔物。単純な戦闘でも勝てなければ、パラサイトと言うだけあるので、魔物に寄生して戦うタイプの魔物だ。しかも上限を最大値を上回らせ、強さ的に言えば、完全にXランクだ。基本的にこの存在が確認されれば、すぐに討伐の対象となるのだが、強さが強さだけに王都から精鋭軍でも要請されなければ、不可能だ。
「森の奥の方に居るのか……」
「普段はあまり人間には近づいてこないらしい。だが、ロード・パラサイトが操っている魔物は割りと近くまで来るらしいからな、新人はそれを気をつけなければならない」
確かに、それは危険過ぎるな。早急に討伐するべきだな。黒コートを翻し、さっさと行こうと思ったら、木の枝に引っかかってしまった、いそいそとそれを取る姿は、まったく格好良くない。若干萎えながら、トボトボと歩いていく。
「そういえば、この森ってどれぐらい広いんだ?」
「かなりの広さだ。そもそもこの森は『神樹の森』と呼ばれ、神の樹が天空を突き抜けて、そびえ立ってるだろう?」
そういえば、今まで気にした事が無かったが、あの樹にそんな逸話が、なんだか途端にこの森が格好良く見えてきたぞ。俺はそんな事を思いながら、先に進む。前を歩いてるフェールはなぜか魔力の流れが激しく循環している。森の中の力を吸い取っているのか、もしかしたらエルフはここのどこかで生活しているのかもしれないな。
エルフはやはり森のどこかで隠居してるのだろうか、目の前にエルフが居るが、聞くのもなんだか。
「……ん?」
「おぉ、現れたか……」
息が荒い魔物。目が血走っており、何かに操られてるかのような魔物だった、見た目は完全に狼型で、そのまま爪を駆使して、こちらに襲い掛かってくる。それをとっさに避けると、後ろにあった木が完全に切断され、切り倒される。斜めに切り倒されたその木を見て、戦慄しながら狼を見る。
「ほう、やはり強くなっているようだ……かなり危険だな」
「あぁ、だが俺の手に掛かれば、すぐさ……」
正直に言えば危険ではあるが、なんとか勝てる程度の敵ではあるだろう。俺は掌から雷を放つ。魔力を雷に変換したのだ。これならば威力が弱くても、ダメージを与える事ができるだろう。その思った通り、バヂッと電撃を喰らい、狼型の魔物が雄叫びをあげる。そのまま本気で、刀を切り裂いた。
バッサリと切り裂かれた狼型の魔物の血が頬につき、それをすぐに拭き取る。少し気力を吸われたかのように、ドッと疲れが襲ってきた。一体何が起きたか、自分自身も理解できてないが、とりあえずそれを堪えて、先に進んでいく。
何体も何体も、倒していくと、疲れがさらに上がっていく、汗をダラダラ掻きながら、刀を杖のようにしながら先に進んでいく。
「な、何なんだ……?」
「お、おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ……まだ、後……少しぐらいは」
変だ。頭が痛い……風邪……? いや違う……おかしい、狼型……魔物と戦うまでは普通だった。いつだ? 俺の身体に何かが入り込んだ? いや違う。そんな訳が無い。
そんな事を考えながら、先に進んでいく。そうしてしばらく先に進んでいくと、ゾクッとした気配を感じる。奥に居るのだ。ロード・パラサイトが居たのだ。見た目は人間に無数の触手をつけたような見た目だ。正直に言えば、気持ち悪い。
「……ぐっ!?」
その思った瞬間だった。俺の思考がグチャグチャになる。なんだこれ……!?
●●●●●
「どうやら、見つけたようだな。さっさと狩るか……」
私が魔力を溜めて、一気に放出しようとしたら、それを邪魔する存在が現れる。ソイツはすぐ横に居たやつだった。
「……ッ!? 何をする……ッ!」
即座に気付く。操られているのだと、目が血走っており、筋肉が少しだけ膨れている。随分と筋肉質になったようだ。これが上限を超えた人間と言う事だろう。
タツマは剣を抜き放ち、一気に私の方へと突進してくる。私はそれを軽くいなす。いくら強くなったとは言え、私とタツマでは元々種族的な差が大きい。エルフは種族的に言って、魔力の量が尋常じゃない。そして私はハイ・エルフ。魔力とさらに身体能力も尋常じゃない。私のだからこそ、私は最強なのだ。
「だが……さすがに下僕に対して、攻撃はあまりしたくないが……」
剣を避けながら、一発だけ顔面を殴る。これで正気に戻れば幸運だが、やはりそこまで甘くないようだ。避ける避ける避ける。攻撃を避けながら、できる限り、攻撃を与える。何度攻撃を与えようとも、やはり大本を叩かなければならないのか、そう思い、チラリとロード・パラサイトに視線を合わせる。それに気付いたようで、ニヤリとこちらに薄気味悪い笑みを浮かべる。まるで、何か罠を張り巡らせたかのような、そんな表情をした瞬間だった。
辺りから、ガサゴソという音を立てながら、現れたのは、魔物の軍勢だった。どれだけの数が居るのだろう。私を囲むように、数十体という数の魔物、それは本来ならば、恐怖の対象でしか無かっただろう。それに、タツマもソイツらの仲間だ。さて、本当にどうしてやろうか……。
「お……俺ごと、やれ……ッ!!」
「……ッ!? き、貴様。まだ正気を保っていたのかっ!? 大丈夫か!?」
「あ、あぁ……だ、大丈夫とは言い難いが……な、なんとかな。お、俺の事は気にするな……何、簡単にやられはしねぇ……だから、やれ」
「だ、だが……」
「やれっ! 広範囲で尚且つ、攻撃力が最大のヤツを喰らわせろッッ!!」
決意は固まっている瞳だ。だが、私をあまり舐めるな……。
「お前にはそこまでダメージを与えず、尚且つ、すべてを叩いてやる……!」
「……ふっ、それじゃ、頼む……がっ!?」
そうして、意識を失ったかのような、生気のない瞳で再び、私に襲い掛かってくる。私は空高く跳びあがり、そして掌からいくつもの魔法陣を発動させる。
「喰らいなさい……ッ!」
強烈な光の塊から光線が放たれる。光魔術はこうした攻撃方法もある。これはかなりの威力がある上に、放てば、広範囲で一斉に敵を殲滅する事ができる。この攻撃ならば、人間にはほとんどダメージは喰らわない。
私は辺りに居るすべての魔物をぶっ殺した後、ボロボロのまだ生きていたロード・パラサイトに近づく。
「さぁ、私の下僕を助けて貰おうか」
「……ぐ、ぐぎ……よ、予想外……貴様……何者」
「ただのエルフよ」
フッと笑ってやると、ロード・パラサイトは憎たらしいモノを見るようにして、消滅した。大体の魔物は光には弱い。だからこそ、こうして即座に倒す事ができた。だが、まぁ……私の、体力も……。
●●●●●
俺は……。
目が覚めると、そこは森林が広がっていた。それだけじゃない。所々焦げた跡がある。もしかしたら、フェールがなんとかしてくれたのかもしれない。俺は立ち上がり、フェールの姿を確認する為に、辺りを見回す。先程のような嘔吐感や気持ち悪さは無い。おそらく俺はロード・パラサイトの操られていたのだろう。もしかしたら狼型の魔物と戦った時の血が原因かもしれない。そんな事を考えながら、歩いていると、やっと倒れているフェールを見つけた。
ゾクッと言い知れぬ不安感に包まれた俺は、即座に駆け出し、フェールの心音を確かめる――――動いている。
「おい、大丈夫か……」
静かに揺らす、あまり強く刺激しない方が良いとなんとなく聞いた事があるからだ。実際、一切動かさない方がいいかもしれないが、だが予想に反して、即座に目を覚ます、フェール。
「お、おい。フェール……大丈夫か?」
「……大丈夫だ」
「なんで、気を失ってたんだ? 相打ちになったのか?」
その瞬間。俺はある事に気付く。目をカッと見開き、驚愕を露にすると、フェールはまるで予想通りという顔をする。それを不思議に思いながら、思い切って聞いてみた。
「おい、フェール……お前、魔力残って無いぞ!? は、早く戻って休養しねぇとっ!!」
そう言って、腕を掴んで、引っ張りあげて、抱っこする。大きさが大した事ないので、すぐに持ち上げる事ができた。そもそも筋力とかその他諸々上がっている俺にとっては、この程度は何の事は無い。
フェールは驚きつつも、それに従っている。そして意を決するように言った。
「わ、私は……欠陥品なんだ」
「は?」
さすがにいきなり言われた言葉に理解が追いつかなかった俺は素っ頓狂な声をあげてしまった。欠陥品とはつまり、どこか欠損がある不良品という事だ。さすがにこんな時に嫌味は言わないと思ったが、言葉を聞く限り、嫌味にしか聞こえない。あれだけの魔術を発動させておきながら、自分から不良品だと言うなど、ふざけるな、俺はどうなる。
「私は……魔術を放つ際、全身全霊で撃ってしまう。そういう風にできているのだ。言ってみれば、私は魔術操作が凄まじく下手なのだ。私はいろいろな魔術を使えるが、その能力自体は全力で使ってしまうから……その、日に一度しか撃てないのだ」
「なんだ……そんな事か」
「そ、そんな事だと? わ、私がこれにどれだけ苦労させられた事か、わ、私がもっと操作が上手ければ、お前もこんな危険な目に遭わせずに済んだのかもしれんのだぞ」
「……危険な目に遭ったのは、完全に俺の不注意だ。次からは出血にも気をつけよう。だから気にするな。お前は存分に休むんだ。今日の所はな。欠陥品だろうが、なんだろうが、お前は俺の主人なんだろ」
その言葉を言われ、ハッとしながら、即座に口を開く。
「そ、そうだな。わ、私はお前の主人だ。これは主人命令だ。絶対に私はお前から離れるつもりはないぞ。……初めて、私を認めてくれたヤツだからな……」
「おう」
そんな相槌を打ちながら、やっと正式に俺達はパーティメンバーになれた気がした。
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