下僕と主人
「……ん、んぅ」
目が覚めた――? 俺は自分が目を覚ました事に疑問を抱きながら、起き上がる。周囲を軽く見回すと、そこには少女が居た。身長は俺よりも多少小さく、俺の胸の辺りに頭がある。民族衣装のような服装をしており、耳が尖ってる金髪の少女だった。瞳は翡翠色をしており、その姿はまさに幻想的な。
「おい、貴様。なんだ、人の顔などジッと見て」
「いや、あの……ハッ! だ、誰だ。お前は……?」
いかん、いかん。あやうく素になって会話する所だった。
「ん? 私か? 私は最強のエルフさ。貴様が先程、苦戦していたロード・リザードを一瞬で消し去ってやったよ」
「……マジかよ」
「あぁ、マジだ。大マジ。にしても貴様弱いな。あんなのにてこずってたのかぁ? というかアイツも弱すぎて、一瞬だったし。お前ってアレな、雑魚だな」
素直に腹立つなコイツ。っといかん。仮にも助けてくれた人に対して、このような事を思ってはい
かん……。えっと、とりあえずどうするか、お礼言って、去るか。
「すまなかったな。助かった……それじゃ」
「ちょっと待て」
「なんだ?」
「貴様、仮にも命の恩人に対する礼がなってないのではないか?」
チッ、やはり騙されないか。ならば仕方ない。
「だったら、俺が倒したハイ・リザードの報酬をお前にやろう。それなら問題ないだろう?」
「ロアなど要らぬ。それよりも貴様、私の下僕となれ」
「……は?」
意味がわからない。この世界そのものを変革させてしまう程の力を有している俺に対して、コイツは今なんと言った? 下僕だと、ふざけるんじゃない。俺の本来の力が出せれば、貴様程度など――。
「まさか、嫌とは言わないだろうな?」
「いえ、まさか。下僕をさせていただきます」
さすが、今戦うのは分が悪いぜ。本当にあのロード・リザードを倒したんだろうし。クソッ、だが今だけだ……俺が本来の力を完全に制御できれば貴様をぶっ殺してやるからな。それまでせいぜい寝首を掻かれないよう、用心していやがれ。
「私は、フェール・ストマーフ。よろしくな。お前は?」
「俺は世界に混沌と終焉を齎す者――『カオス・オブ・アルティマ』だが、俺の事はタツマと呼べ、真名で呼ばれたら、落ち着かんからな」
「わかった。ではタツマよ、行こー」
「あぁ」
俺は短く返事をした。
●●●●●
「……はぁ」
ため息しか出ないし……。
「お、ここはアルフードの街か。結構、栄えてるから。物品には困らなさそうだな」
「そうなのか」
初めて街の名前知った。どうやらエルフだからと言って、変に絡まれるなんて事はなさそうだな。まあだからってここでエルフを見た事はあまり無いが。関係ないだろう。
俺はギルドで依頼達成を報告し、依頼報酬『50000ロア』を貰う。さすがに今回は敵が悪かった。ロード・リザードなんて倒したのを証明できるモノがあれば、凄い報酬を貰えたんじゃないか?
だが消し去ってしまったらしいから、それは無理か。
「ありがとう」
俺は短く礼を言って、立ち去る。金は50000ロア……これならば、もう一部屋を一週間分大丈夫だ。
「おい、これからどうするんだ?」
「これからとりあえず、お前の分の――」
「お前じゃなくて、フェールと呼べ」
「……フェールの分の宿を取りに行くのだ、フェールが金を持っていれば話は別なのだがな?」
俺が聞くと、フェールは懐をゴソゴソと探り、ロアを乗せた掌を見せてくる。たった500ロアだけがそこにあった。俺は額に手を押し当てて、そのまま。
「わかった、宿代はやはり俺が出そう。初めからそのつもりだったしな」
どうせ、こんなちびっ子には金など用意できない事はわかっていた。だがそれでも俺が驚く程の戦闘力を有している。おそらくギルドで大稼ぎするのも楽勝だろう。
「むっ、悪いな……」
「気にするな」
どうせ、そんなのが気にならなくぐらいは稼げるのだからな。
だが、とりあえず今日は宿で寝よう。もう疲れた。
●●●●●
夜。俺はふと目が覚めてしまった。夜風にでも当たるか……。などと思い、俺が外に出ると、この宿の庭で何か物音がした。俺はそちらに近づき、泥棒でも入ってきたのかと、身構えていたら――そこにフェールが居た。俺は安心感に身を包まれながら、そちらに寄ろうとしたら、小さな声が聞こえてきた。
「大丈夫大丈夫大丈夫……」
ボソボソと大丈夫と繰り返している。俺は後ろから、
「何が大丈夫なんだ?」
「キャッ! な、なんだ……タツマか。驚かさないでくれ……」
「俺は別に驚かしたつもりは無いんだがな。それより何が大丈夫なんだ?」
「な、なんでもない」
隠そうとするフェールを見て、何やら言いたくない事なのだろう。ならばこれ以上詮索するのは野暮というものだ。
俺は静かに隣に座り、空を見上げる。濃紺に浮かび上がる点の光が浮かび上がっているのを見て、この世界も前の世界とそんなに変わらないというのを自覚させられる。俺は死んだ。だがコンテニューした俺にとっては、別にどうでもいい事だ。過去の世界に未練が無いと言えば、嘘になる。死にたくなかったなんて当たり前の思いだって、浮かんでくる。だけどそれでも、俺はこの世界で生きていかなきゃならないんだ。そういう風にできてるとわかっているから、別に何も思わない。
「……フッ、胸を貸して欲しい時はいつでも俺の前に来るんだな。好きなだけ貸してやる。俺はでき
る下僕だ」
「……フ、フン。いらぬわ」
「そうか? ならいいが」
俺はそう言い、立ち上がり、部屋へ戻る為に宿の方へ宿の入り口に向かう。っと、その前に。
「おい、お前もいつまでもそこに居るなよ。風邪ひくぞ」
「フン、エルフが病気になる訳ないだろうが」
「そうかい」
そう短く返事をすると、振り返り、宿の部屋へ戻った。やわらかいベッドに包まれながら、俺はすぐ眠りにつくのだった……格好つけたけど、あれってかなり恥ずかしいな……。アイツが哀愁漂う事してっからだっ!! そんな事を思いながら、俺は悶々とながら、眠りにつくのだった。
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