ハイ・リザード
「……んぅ」
目を薄く開くと、そこには三人の姿があった。どうやら話はまとまったらしい。俺は軽い朝食を作る事にした。一応、火を起こす方法も心得ている。それに魔術を使えば簡単にできるだろう。
材料は馬車に行く時に一緒に用意しておいたから、大丈夫だろう。俺はちゃちゃっと、用意する。まず火を起こし、鍋の中に水を入れる。それに粉末を入れて、下処理済の肉を入れる。そのままグツグツと煮立たせてく。
それからパンを用意し、燻製肉も用意する。作ったのは結局スープぐらいだったな。
「人数分はこれで良しか。おい、お前ら、起き……」
「良い匂いだね。もしかしてタツマが作ったのかい?」
「まぁな」
「へぇ、案外家庭的な部分があるじゃない」
「……おいしそう」
「私も食べていいですかね?」
貴様もか、御者よ……、いやいいけどさ。
「全員分用意してある。好きなだけ食え」
俺達は朝食を済ませて、馬車で街まで戻る。まさか一泊する事になるとは思ってなかった。まあ宿屋代がなくなって良かったと言えば良かったか。節約ってのは必要だからな。やっと依頼を終わらせ、街に帰り、首を回して、少しばかり疲れが残っていた。だがその前にギルドに向かわなくては――。
ギルドに向かい、ミノタウロスのツノを二本。
「しっかりと均等に分けてくれよ?」
「当たり前だよ。むしろ君の方が多くたって良い。僕達はあまり役に立てなかったからね……」
「ふっ、注意を逸らす事はできていだろうが。まだまだ若いのだからな」
「アンタだってまだまだ若いでしょ。まあ私達よりは年上かもしれないけど……」
「そうだな。17なんだが、全員は俺よりも下なのか?」
「えっ!? と、年下?」
素っ頓狂な声をあげるリイン。なんだ年上だったのか。
「ちなみにいくつなのだ?」
「18よ」
「僕は19」
「……18」
大して年齢変わらないよな。てっきり全員俺と同い年かと思ってたら、一年ほど早く生まれていたのか。という事は敬語で接すべき所だが。
「そうか、まぁ大差ないんだ。そこまで気にする事もないよな」
「まぁ、そうだね」
俺達はそう会話を終えると、報酬として16万ロアが手元にある。これを四人で分ける場合、4万ロアとなるのだ。
俺は正直言って嬉しかった。あの時の報酬よりも全然良い。しかも二匹という事で8万も上乗せされているからな。一匹8万とはボロい仕事である。
「……君は、ここに住んでいるのかい?」
「ん? いや俺はここには……まぁ、冒険の最中と言う感じか。俺は放浪してるんだよ。世界中を混沌と終焉に導く為にな」
「混沌と終焉を齎すにしては、私達を助けてくれたりしてたけどね?」
「あ、あれは……フッ、俺の部下になるかもしれない者が居なくなっては困るだろう? それだけの話さ」
「ハハハ……僕達は明日にはこの街を発つ。もし縁があれば、またね」
「あぁ、その時は酒でも酌み交わしてやるよ。この混沌と終焉を齎す……カオス・オブ・アルティマがな?」
こうして別れる事になった四人だった。俺はまた同じ宿屋に向かい、さっさとチェックインを済ませて、今度は一週間だ。一週間の場合はどうやら25000ロアらしい。安い安い。嘘。あと5000ロアしか無くなった。ちなみに10000ロアは宿屋に向かう最中の買い物で消えた。袋とかいろいろ買っておいたのだ。
●●●●●
「今日もギルドか……」
Aクラスは無理でもBクラスならばいけるかもしれない。なんて俺は思い始めていた。俺はさっそくギルドへ行き、Bランクの依頼を受ける。受ける依頼は『ハイリザード』。リザードマンのさらに上の種類で、この近くに生息するリザードマンの中ではかなり強いらしく、武器や防具を身に纏っており、それは道中で死んだ兵士達から奪っているとされている。そのリザードマンはこの通り、そこそこの知能があるらしく、新参者などが調子に乗って、依頼を受けたら、そのまま――などもあるらしい。まさに俺の事じゃないか? それ。……いや、まあ。つまりそこそこの実力を持っているという事だ。
「……『ハイ・リザード』討伐を受理してくれ」
「はい。わかりました。それではクオン・タツマ様の依頼を受理させていただきます」
「すまないな……それじゃ、行くとするか」
俺は黒コートをはためかせ、ハイリザードが出没する『森』へと行くのだった。場所はそこまで遠くないので、徒歩だ。森に着き、さっさと中に入って俺はハイリザードの住処を見つけようとしたのだが、こういう作業をやっていると、ファレンの能力は羨ましかったなぁ。あれは魔力の流れを読んでるのか? よくわからないので、俺にはできそうにないな。
ガサゴソと森の中を詮索する。魔力で水を少量出して、喉の渇きを潤す。さすがにずっと森の中を入っていると、体力を奪っていくようで、徐々にではあるが、目が霞んでいる。
日の光が徐々に上へと突き進む。昼前だと言う事で、腹も減ってきた。そういえば、朝食を食った後に何も食わずに歩いてるからな。だが何か食べれる物など持ってきてない為、どうする事もできない。一度、ここで休むべき――か。
「ふぅ……」
森の中で切り株に腰を置き、ふぅ……とため息を吐く。それにしても、まだまだ先は長い――か。クビクビと水を飲みながら、魔法陣から飛び出る水の恵みに感謝しながら、美味い……。
「……ん?」
ガサガサと言う音と共に向こう側を見てみると、想像通りと言うべきか、さっさと終わらせてしまおう。休憩していた分、体力も回復しているしな、相手がどれだけ居ようが、関係などない。
俺は刀を握り締め、抜刀する。剣を振り回し、首や胴など斬れば、そのまま死んでしまうような、そういう場所ばかり狙っていく。さすがにこの世界に来て、こういう事に慣れてきたのか、何も思わなくなってきたな。
「ふぅ……」
20近く居たハイ・リザードはすべて倒す事に成功した。さてと、ツノは袋の中に入れたし、問題ないか。ふぅ、さすがに疲れた。俺は先程の切り株にもう一度座り込む、その時だった。音が聞こえた。ガサッという草木を掻き分けてくる音だ。俺はそちらを見ると――。
「アレ? 俺のガキ共が死んでる」
ゾクッと声を聞いた瞬間に背筋が凍る。見た目はおそらく他のリザードマンとそう大差無いが、体格が二倍程、大きくなっている。そうして、俺達の言語をさも当然のように扱っている、それだけの知能があるという訳だ。
「……お前か、お前が俺のガキを殺したのか?」
「あぁ、俺は混沌と終焉を齎す者――『カオス・オブ・アルティマ』だからな」
「ほぅ」
目つきが変わる。それはまるで新しい玩具を買って貰った子供のように無邪気で、その無邪気さは理解してない残酷さを孕んでいた。
「だったら、俺も自分の名前を言っとくかァ……『ロード・リザード』……俺はお前達の言うリザードマンの王種だ」
王種……つまり、リザードマンの現時点の最終到達点。マズイ、見ただけでわかる……次元が違うと言うべきなのか、だ、だが俺は世界に混沌と終焉を――。最後まで言う前に、俺の頬に強い衝撃が走る。殴られたのだ。木が背中に強く打ちつけられ、意識が飛びそうになったが、なんとか持ち堪える。たった一撃で――この威力。
「……ま、ずいな……」
「なんだァ? 程度が知れるなァ? まあ人間だしな、この程度か」
「チッ、あまり舐めないでもらいたいな?」
刀を強く握り、一気に跳躍する。そしてロード・リザード目掛け、刀を一気に振り下ろす。その魔力の塊が斬撃となって、一気に降り注いだのだが、それを意図も容易く受け止めるロード・リザード。そして跳躍した――それだけは分かった。それだけは見えた。だが次の瞬間にはもう既に、その場に居らず、見失ったと思ったら、背後から強い衝撃が襲いくる。踵落としを喰らったのだ。
カハッ! と咳き込みながら、地面へと叩きつけられる。立ち上がれない。もう本当に無理かもしれない……死ぬ、のか。
その悟った瞬間だ。
光が瞬いた。
強い光だった。俺は上を見上げる余裕すら無かった。ただ、これが最後の……。
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