一回限りのパーティメンバー
「……ふわぁ」
俺はバーで何杯か飲んだ後、確か、宿屋に向かっていったはずだ。残り僅かな金を握り締め、宿屋で一泊だけできる残金だったから、一日だけ泊まり、金を貯め、もう一度、ここに泊まろうと思っていた。
実際、この宿以外にも宿はあるのだろうが、ここはいろいろと設備が整っていて、結構過ごしやすいのだ。それに――。
「あ、久遠さん。おはようございます」
「フッ、おはよう」
「あ、朝食はもう用意してありますから」
清楚な彼女は俺に対して、笑顔でそう言う。元の――いいや、ここでは何も言わないでおこう。
俺はそのまま進められるがまま、食事をし、さっさと済ませる。温かいスープと硬いパンは非常に相性がピッタリと言わざる得ないだろう。だが俺はそんなモノよりも、朝食からいきなり燻製肉を用意された事に驚いたが、これは何の肉なのだろう?
おそらく魔物の肉なのだろうが、まあどうでも良いか。
「……さて」
俺はコートをはためかせ、さっさとギルドへと向かう。やはり俺の中で、ああいう仕事は心地いい。やはり、本来の俺に戻れるからだろうか……またあの仕事しなくてはならないのか……。死に掛けて、あの程度しか稼げない……はぁ、っと……フフ、ならば、さらにクラスを上げればいいだけの……事……あ、その前に――。
俺はあの店に行ってみた。確か、俺の琴線に触れる。良い仮面が――あ、無くなってる……ま、いいか。俺はコートを翻し、さっさとギルドへ向かった。
●●●●●
「さてと、何をすべきか……」
依頼を眺めて、一人ブツブツと喋っていると、後ろから声を掛けられた。俺はチラリと後ろを向くと、そこに立っていたのは、勇者ご一行だった。名前は――そういえば知らなかったか、ただ確か、聖剣使いだとか。
「どうかしたのか?」
「あの、僕達と一緒に組んでくれませんか?」
「……フッ、貴様も気付いてしまったか、本当の『俺』を――そう、この姿は仮の姿……本来の力を引き出した俺は――この世界に混沌と終焉を齎す事すら、余裕だろう!」
「……あぁ、えっと」
少しばかり困惑した表情をする聖剣使い。フッ、俺の本来の姿の片鱗を感じ取っているのだろう。さすが聖剣使いだ。だが、俺はその力を遥かに凌駕してる。
「ねぇ、本当にこの人でいいの? もっと良い人いそうだけど……」
そう失礼な事を言ってくる。それに同意と言わんばかりに首を縦に振っている紫髪。フッ、普通の人間にはわからぬだろう。俺の力というものは。
「で、でも、僕達と対等に接してくれそうな人はこの人しか居ないんだよ?」
「まったく、ファレンにも困った所があるのよねぇ……」
「だったら仕方ない。私はファレンに従う」
「ま、しょうがないか」
後ろ頭を掻きながら、渋々といった感じだが、どうやら納得してくれたようだ。にしてもなるほど、俺に話しかけてきた理由は他に誰もいなかったからか、やはり特異点の俺は他とは一線を画していると……そういう事のようだな。
●●●●●
聖剣使いがいくら居るとはいえ――まさかいきなりAクラスの依頼を申し出るとは思わなかった。魔物はミノタウロス。頭部が牛でその下からは大きな人型の姿をした魔物だ。結構有名だろう。そしてミノタウロスの特徴としては、まず大きな斧を常に持っているらしく、それをミノタウロスの馬鹿力と合わさり、風圧のみでも真っ二つにされる事もあるそうだ。と言う事はつまり斧を振ってきたら、ひたすら避け続けなければならないという事だ。さすがミノタウロス。危険すぎる。馬鹿力の割りに動きも俊敏らしく、本当に厄介な生物らしい。ただ一つだけ良い点と言えば、単独行動が多いという事だ。たまに2体で動いている事もあるそうだが、それは滅多に無い事なので、おそらく大丈夫だろう。
馬車でミノタウロスが生息している場――洞窟へ向かっていく。
「じゃあ、まだ自己紹介してなかったね。僕はファレン・シャーラムア。こっちが――」
「いいわよ、私達は自分でするわ。私はリイン・タルアム」
「私は……パニア・バレイット」
「俺は、混沌と終焉を齎す者――『カオス・オブ・アルティマ』」
「本名でお願い」
ギロッと茶髪の子に睨まれたので、ふんぞり返ってた姿勢から、正座の姿勢に整えて。
「クオン・タツマです。ちなみにタツマが名前です」
「わかった。タツマ。今日から僕達はパーティだ。しっかりと連携して行こうね」
「コイツができるかな? ちょっとおかしい所あるし」
さっきから妙に突っかかってくるな。ま、いいが。この反応はなかなか懐かしい。いや、もっと酷かったか。俺は思いを馳せるように、前の事を思い出す。どうやら軽いホームシックにかかっているようだ。本当に足を引っ張りかねない。こういう思考は他の方へ飛ばしておこう。
馬車でそれぞれ時間を潰す。ファレンは俺に気を使うが、女性陣二人がどうやらかなり嫌がっているようで、まあおそらく本能的に何かを感じ取っているのだろう。さすがだ。
「……」
シーンとした静寂に包まれている馬車の中――いいや、正確に言うと、俺の周りだけか、あの三人は三人で会話しているからな、俺だけが一人という訳か、やはり孤独を好む者としては、こういうのは心地良いな、決して悲しくないからな……これだけはしっかりと伝えておくべきだと思ったから、言ったまでだ。
●●●●●
「暗いな」
「大丈夫だよ。パニア。お願い」
コクンと頷くだけで返答し、人差し指から小さな炎を出した。おそらく魔術だ。なるほど松明などを用いず、魔術で明るくするのか、魔術は結構、便利なモノなのだな。
(俺は水しかやった事ないな……多分、イメージすれば大体はできるんだろう。一応、魔力は引き出して貰っていたはずだ。あとは封印を解放し、本来の俺を――)
「ねぇ、何ボサッとしてるの、早くして!」
多少の苛立ちを孕んだその言い様を特に気にせず、俺は短く返答。
「わかった」
先頭がファレン。その後ろに俺で、その後ろがリインとパニアだ。魔術ならなんでもござれのパニアとリインはファレンと共に補助に回る役らしいが、今回は俺もその役に入る予定だ。なんだかんだ、今、封印されている俺よりもファレンの方が強いだろうしな。しかし、ここは思ったよりも広いのだな。洞窟自体は入り組んでいるが、俺達四人が並んでも、問題ないスペースはある。
「……ん? 今、何か感知に引っかかったな?」
ファレンが何かを感じ取ったようだ。俺は刀を握り、ファレンが見ている方を見てみると、確かにおかしな雰囲気は見えてくる。ファレンは感知を持っているのか、欲しいな。なんて思っていると、足音が聞こえてきた。全員が即座に臨戦態勢に入る。相手はなかなかの実力を持っているが、所詮は一匹。俺達は四人も居て、その上聖剣使いが居る。これだけの実力者が居るのだ。そうそう負けはしないだろう。
「グモォォォォォォッッ!!」
お、おぉ、響く……洞窟の中の所為というのもあるのだろうが、しかも洞窟全体が若干震えているぞ。さすがAクラスと言うべきか。俺は刀を持って、迫り来るミノタウロスを相手に、刀を使って、振り下ろした斧となんとか拮抗する。だがそれもすぐに終わり、勢いに負けて、俺は飛ばされてしまう。狭い洞窟だった為、その勢いに押されて、洞窟の壁へぶつかってしまう。背中を思い切りぶつけてしまい、咳き込む。
「ぐ……っ、クソッ……ッ!!?」
ヤバッ! 目の前に勢い良く迫ってくる斧を振りかざしたミノタウロス。俺の異世界生活はどうやら終わったようだ。まぁ、ここで死ぬのも悪くない……か、なんて思う訳がねぇ! 俺は素に戻り、本当に本能で避けきる。
そんな事をしてると、やっと残り三人も動いてくれる。さすがに一体に絞って迫ってくるとは思ってなかったのか、少しだけ呆気に取られていたのだろう。まず、パニアが炎魔術を使い、魔法陣から勢い良く炎が飛び出される。魔術的なモノなので、酸素不足とかは大丈夫だと思う……多分。その次にリインとファレンがミノタウロスに攻撃を仕掛ける。聖剣は凄まじいと言うべきか、ミノタウロスの鋼のような肉体に一瞬で傷をつける。炎に対しては、ほとんど無反応なのを見たら、おそらく炎は効かないのだろう。ミノタウロスはそれに気にした様子を一切見せず、斧を勢い良く振り回す。その勢いは風圧でも真っ二つにしてしまう。その情報を事前に知っていた二人はとっさに屈んで、避ける。そして完全に後ろを向いたミノタウロスに向かって、俺は刀を一直線に突き刺し、そしてそのまま斜めへ。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ」
倒した。倒したのだ。こんな所はさっさと出たほうが良いと前を向いた時だった。俺の顔は青ざめていた。後ろから、迫っていたのだ。もう一体のミノタウロスが――、俺はとっさに叫んだ。
「避けろッッ!!」
その叫びにいち早く現状に気付いたファレンがとっさに二人を抱きながら、横へと飛ぶ。ミノタウロスが放った風圧は洞窟の壁に大きな傷を生むだけで済んだ。俺は刀を握り、そのまま大きく振る。原理はミノタウロスと同じだ。ミノタウロスは筋力によって風圧を生み出してるのではない。アレは魔術だ。だからこうして壁に大きな傷がついたのだ。魔力の流れから、それを読み取った俺はそのままそれを応用して、自分でも放ってみた。どうやら以外に簡単なようで、かなり威力は弱いが、それでもやれる事はできた。だがミノタウロスの鋼の肉体には傷は一切つけられず、まだまだ威力不足を感じる。俺は刀を一度、鞘へ戻した。
「抜刀術って知ってるか?」
ミノタウロスに俺達の言語が通じるはずもないだろう。だからこれは独り言だ。
俺はそのまま勢い良く、刀を抜刀し、その勢いと共にミノタウロスの頭部を切り落とした。
「……ふぅ」
刀を肩に置いて、俺は仕事で一段落ついたサラリーマンのように息を吐くのだった。
●●●●●
ミノタウロスのツノを切り落とし、俺達は馬車の中に戻っていた。戻るのには時間が多少掛かる。もう夜も遅いという事で、馬車の中で宿をとって明日、帰る予定だ。
眠っていた俺はふと、目を覚ました。御者の人が隣で寝ており、前に三人が居たはずだったのだが、今はなぜか居なくなっている、俺は馬車から出て、アイツらを探していた。特に何も考えず、居なかったから探しただけだった。足音を殺している、なぜならここは森の近くに止めてあるからだ。さすがに道の真ん中で寝泊りはしないだろう。
そのまま歩いてると、やっと声が聞こえてきた。
(なんだ?)
「だから、結局、ファレンはどっちが良いのよ!」
「いや、だからこういう話を今するのは……」
「私はこの停滞してる関係が嫌なのよ! はっきりできないの!? まさか二人同時とかが良いって訳?」
「い、いや……そうじゃなくて……」
(……なんつーか、アレだな。男を取り合うって……なんつーか、アレだな……アレだよ。爆発しろよ)
俺にもそれなりに彼女を作りたいとか思っている。だがしかし、俺には封印されている力が、普通の人間とは違うからやはり――俺に彼女を作る事など、できんっ! 俺はそのまま足音を殺して、馬車へ帰って寝た。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想、批判、指摘、あればください。