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異世界へと中二病患者が参る  作者: HH
お前は何しに異世界へ
10/10

大群の進軍


「だから、儂は虚言などしておらん!」

「いや……そうだとしても、来なかったこと自体は事実だし……」

「うぐっ……」

「……なぁ、王様。虚言は良くないと思うが?」

「……わかった。おそらく今日じゃ、今日、きっと大掛かりな攻めが来るのじゃろう」



 適当言ってる雰囲気があるが、仕方ない。どうやら今日は手違いが起きたのだろう。とりあえず俺達は、王様が用意してくれた、宿屋で今日は眠る事にした。取ってある部屋は二つあり、俺達はメンバーで別れた。



「明日、どうなるんだろうな?」

「……さあね」



 それにしても、なぜ今日は何も襲ってこなかったんだ? 俺達が来るまでは普通に一日一回の奇襲があったんだよな、俺達が来る前……なんだ? 何か引っかかるような気がする。いや、気のせいか? まぁ思い出せないなら気のせいか。

 俺はそう思って、眠りについた。



 後日。

 俺達は、再び門の所へ来ていた。こうしていたら、いつ来ても大丈夫だろう。王様の言葉に嘘が無ければ、今日、大規模な攻撃が仕掛けられるらしい、ちなみに王様は汗がやばかった。

 今日も来る気配が無かったら、本当に帰ろう。



「……ん? なんだ、何か土煙が……?」



 ファレンが何かに気付く。俺はそちらに目を凝らすが、何も見えない。どうやら何か力を使っているのかもしれない。もしくは俺には考えられない程、目が良いか、まあそこはどうでもいい。今、何かが来たと言った。つまり本当に大規模で来た可能性が捨てきれない。俺は刀を引き抜き、一気に前進する。その速度を保ったまま、もし敵ならば抜刀して切り裂き、違ったら、普通に通り過ぎよう――なんて思いつつ、俺は先に進む。

 大分、近づいてくると、それが魔物の大群だと言う事がわかった。それもかなりの規模。どうやら王様の見立ては間違いではなかったみたいだ。俺はそのまま刀を引き抜き、力を入れながら……一気に振りかぶる。



 その一撃は『風斬』になって、魔物を襲う。俺はそのままフッと手の力を抜く。すっぽりと抜けた刀が魔物の額に突き刺さる。俺は即座にその近くまで行き、刀を掴みながら、引き抜いて、さらに他の魔物を切り裂く。



「やっべぇ、こりゃ一人じゃ無理だ……!」



 俺はバク宙して、後退する。そしてそのまま一気に逃げ出す。一旦他の連中と会ってから、他の魔物を倒さなくてはならない……! しかもこの中に、知能が高いボスのようなヤツも居るのだろう。さすがにそれを相手にするのは、骨が折れる。

 俺が近づくよりも先にどうやら異常を察知していたようで、俺の所まで来ていたようだ。



「アンタ、一人で突っ走りすぎ……今だけは仲間なんだから、もっと私達を頼りなさいよ」

「そうだよ、確かに君に比べたら、僕はまだまだかもしれないけど、もっと僕を頼ってほしい」

「……何言ってんだ、お前……俺よりもっと強いだろうが」



 俺はそう笑いながら言って、刀を強く握り、魔物の大群に攻め入ろうとした瞬間だった。



「……私の一撃はさぞ、効くだろうな」



 眩い光が発せられる。俺の後ろから恐ろしい程の光がある。その力はおそらく俺の想像通りだろう。



「一撃で終わりだろうが」

「何、心配いらない。魔力吸収があるからな、これが今の私が出せる最強だ」

「そーか、だったら遠慮はいらない……本気でやれよ」

「言われずとも――!!」



 その瞬間だった。魔術を発動した瞬間、魔力吸収の筒がバリンッと割れる。そしてそれが一気にフェールの身体に収束されて、そのまま先程よりもさらに凄まじい一撃が穿たれた。その力は大したモノで、魔物の大群の大半が消滅した。



「……どうやら、私の魔力相当強いようだ」

「そうみてぇだな……」



 魔道具程度じゃ、フェールの力は抑えられないようだ。音を出しながら崩れた魔道具を見ながら、どうやらフェールの魔力は普通とは違うというのがわかった。やはりハイ・エルフというのはそれだけ特別な存在なのだろう。



「よし、魔力は使ったんだ。フェールは下がってろ」

「いや、私はまだ戦えるぞ」



 そういえば、単純な肉弾戦もそこそこ、こなせるヤツだった。だがそれはあくまでも体調が完全な状態での話だ。今は魔力を使い果たしたばかりで、目に見えて疲労してるのがわかる。息も切らしているしな。



「いや、無理しなくていい。あと少ししかいないんだ。あとは俺達に任せて、そのまま待っててくれ」



 俺はそう言い、残っている魔物をファレン達と倒していく、そうやって葬り去っていたら、突如、背後から激痛が迸る。



「ぐぁっ!?」



 俺は思わずうめき声をあげ、後ろを振り向くと、背後に両足で立っている犬耳をつけた少女がこちらを睨みつけていた。そしてそのまま凄まじい速度で、こちらに迫ってくる。俺はとっさに刀でガードしたが、どうやらそれも見切られたようで、グルッと体を捻らせ、刀をすり抜けて、俺の首筋に噛み付こうとした瞬間に、俺はその犬耳少女に蹴りをくれてやった。キャンッと犬の鳴き声を出しながら、グルッと一回転して、着地する。運動能力はなかなか高いようだ。



「何者だ? お前だけ他の魔物と違うな……」

「……」



 少女は無言のまま、鋭い眼光でこちらを睨み、一気に飛び掛ってくる。俺は刀を前に突き出して、確実に殺すための突き。

 だがその飛び掛りはフェイクだった。少女は急に身体を方向転換させ、俺の懐へ飛びついてくる。そしてその距離で、眩い光が発せられた、身を守ろうと構えるよりも早く、少女は炎の魔術で俺の身体を焼き焦がした。



 腹部が爛れ、熱いというよりも痛みが勝っている。おそらく腫れているだろうな、なんて考えながら、痛みによりフラフラと足元がおぼつかなくなり、倒れそうになるのを耐える。そして最後の力を振り絞り、思い切り刀を叩きつけた。ギャンッとさらに声をあげて、俺はなんとか、耐え忍んでいたが、ドサッと倒れこみ、意識を手放した。










●●●●●









「……」



 広がる視線の先は見た事のない天井だった。なんてありきたりな事を思うよりも先に自分の腹部を見ると、包帯が巻かれていたが、どうやらそこまで酷い事にはなってないようだ。というかこの包帯はどちらかと言うと、火傷よりも、他の傷の部分の方が多い訳だし。



「……」



 俺はベッドから身体を起こし、そのまま立ち上がろうとしたら、隣にフェールがいた。



「……」



 俺は思考が吹き飛びそうになったが、なんとか元に戻す。一体どうなってるんだろうか。思考回路が正常になってないのか、もしくはこれは夢か、驚いてみたものの、おそらく俺の事を心配して、こうして隣で寝ていただけだろう。目も少しだけ赤くなってる所を見ると、少しだけ悪い事した気分になってしまう。

 なるべく起こさないようにしながら、俺は掛かっていたコートを抱えて、この部屋から静かに出て行く。



(魔力を使い果たした後だし、あんまり起こさない方が良いよな)



 そんな事を思いながら、ここはおそらく医療室か何かだったのかと思いながら、ここは王城ではあるようだ。おそらく兵士用なのだろう。さて王様の所まで行って報告とかしなきゃならないのか? いやもうそれはファレン達が終わらせてるか。

 そういえば、アイツらはどこだ? アイツらもそれなりに傷が深かったはずだが……。



「タツマっ!」



 ファレン、リイン、パニアが近づいてくる。他の連中も包帯をしていた。そして表情から読み取るに、おそらく今回は俺達の負けなのだろう。



「よぉ」

「……だ、大丈夫だったかい?」

「あぁ、まあな。というかお前達こそ大丈夫か。結構酷いみたいだな」

「あぁ、まあたいした事はなかったよ。君が一番酷いみたいだしね……君にそこまで大怪我をさせたのは、おそらく狼人族だと思う」

「狼人族?」

「あぁ、狼のような耳をした亜人だよ。身体能力にかなり長けていて、おそらく亜人の中じゃ、単純な肉弾戦は最強だよ」

「なるほど……だったら、アイツが親玉か……」

「多分、そうだと思う。今回は僕達がいたから、被害はこの程度で済んだけど、あの数は王様から見ても、異常だったらしいよ。本当に感謝していた」



 感謝……か。でもどうせ、また明日引き連れてくるのだろう……。次会った時は、どうする。1対1じゃ勝てないのか? ……いや。そんな弱気でどうする。俺は混沌と終焉を齎す者だろうが……。というか俺を殺さなかったって事は、相手もよっぽど切羽詰まってたのか? 大半を一気に刈られたからな、俺をやったのは、せめてもの報いっつー訳か。



 ガチャッと医務室の扉が勢い良く開かれる。フェールは焦った表情をしながらこちらを見る。その瞬間にホッとした表情をしてすぐにキッと目つきが鋭くなる。いろいろとせわしないなんて思いながら。



「フェール大丈夫だったか?」

「……」

「? どうし――」



 すると勢い良く抱きつかれた。俺はとっさに事に反応できずに、目を白黒させていたが、すぐに状況を理解して、フェールの頭を優しく撫でてやった。やっぱり知り合いが傷つくのは、嫌だって訳か。



「……あまり心配させるな」

「悪い」



 俺はそう言って、静かに待っていた。

 その後、フェールと別れ、俺は一人で部屋に篭っていた。



「ふぅ……」



 真夜中。明日もおそらくあの大群が来るのだろう。なかなか手ごわいヤツも居る。力が足りない。あの数相手だったら、俺の力は不足すぎるのだ。他の連中は強い、だが俺は弱い。俺だけが弱い。



(なんて、悲観的になってても仕方ないか……)



 気持ちを切り替え、次の戦いに備える為に、俺は早く寝る事にした。






●●●●●





 朝。目が覚めると、騒々しい音が聞こえてくる。俺が部屋を出て、近くに居たスーツを着た執事のような人に話しかけてみると、今まさに魔物の大群が迫ってきていると、それを聞き、俺はすぐさま着替えて、門の所まで走っていった。



「なんで、俺を放置してた?」

「なっ、来てしまったのかい……」

「当たり前だ、それとも邪魔だとでも?」

「い、いや……そういう――いいや、はっきり言おう、傷がまだ完治してない君は居たって邪魔になると思うよ」



 思ったよりもはっきりと言うものだから、少しだけ気圧されてしまう。だが、俺は引く訳にはいかない。つまりは、こういう事だ。傷など大した事が無い事を証明すれば良いのだろう。 



「フッ、俺がこの程度の傷でくたばるとでも? 俺は混沌と終焉を齎す存在……『カオス・オブ・アルティマ』だからな」



 俺はさっさと向こうへと――土煙を舞っている方へと走り出す。俺は刀を握り締め、目の前に広がる光景に多少だけ引き気味になる。数が数だ。恐ろしいと言う気持ちを抱かない方が不思議だ。だが、俺は――『カオス・オブ・アルティマ』だッ!! バッサリと刀で切り裂きながら、進んでいく。



「ぐっ!?」



 俺は肩を思い切り噛みつかれる。肩を見ながら、苦い顔をする。すぐに腕を振り、そのまま魔物を吹き飛ばし、次にその魔物を切り裂く。さらに次に次にと魔物を切り裂いていく。

 体力など無視して、ただただ無心に切り裂いていく。その瞬間、後ろから突然羽交い絞めにされる。完全に動けなくなる。後ろに居る相手は、俺よりも遥かに筋力がありそうなヤツだ。実際、俺は動けないでいる。



「こ、のやろっ……!?」



 その瞬間、目の前にいる巨体な魔物に体当たりされそうになる。俺はゾワッとする。死ぬと思った瞬間。体当たりしようとしていた魔物がバタリと倒れる。

 羽交い絞めもいつの間にか、緩くなっている。見ると、後ろにはリインが居た。



「まったく、アンタって本当のアホなの?」

「僕は君に追いつくのに、必死だからね……こんな所で死なれては困るよ?」



 どうやら俺は助けられたようだ。思った以上にこういうのは悪くない。



「死ぬわけないだろ。あとアホじゃない……意地っ張りではあるが」



 と刀をリインの後ろにいる魔物に刺す。咄嗟の出来事にリインは驚きの顔を隠せないでいたが、俺はそんな彼女にしたり顔してやる。



「これで貸し借りはなしだ」

「そんなのは気にしてないわ」



 そう言ってはいるが、多少なりとも不服そうな顔だ。そんなリインに対して、ファレンは少しだけ困ったような顔をして、すぐさま敵をバッタバッタと薙ぎ倒す。



「さぁ、僕達の戦いはまだまだこれからだよ」

「次は負けないわ」

「……そうだな。さっさと再戦だ」



 相手は強い上に多い。だがこれだけの戦力が揃えば負けない。次こそは負けない。俺のこの気概こそが大事だと言うのが、俺にはわかっている。まあ、相手の実力はこちらよりも上だと言うのもわかってるんだけどな。

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