第七話――開戦――
「で、俺は何をすればいいんだ?」
村長との一件を終え、先ほどフェンリルとエンカウントした正面門まで歩いている最中にケビンに問う。
「ああ、ユージには一次攻撃が終わった後、残党を狩る部隊に配属してもらいたい」
作戦の流れはこうだ。まず門の内側、矢倉の上から弓による攻撃を行いフェンリルの数を減らす。しかしフェンリルは執念深いため、数を減らされてもなかなか退散しない。また、遠距離だけの攻撃だと限界があるため、ある程度まで数が減ったら残党狩りに出る。これが俺の役割だ。
「分かった。……しかしこう見ると、壁も老朽化しているな。大丈夫なのか?」
最初この村に訪れた門の付近と違い、この辺の壁は大分ぼろが出ている。
「ああ、問題ない。フェンリルは村を襲う時も南側の門――つまり俺たちが出会ったところだな――からしか攻めてこない。生息している森に近いからだろうな。だから南側だけ防備をしっかりと固めておけば大丈夫なんだ。それに……」
「それに?」
「……じつはこの壁を設計した技師はもういないんだ。そして設計図も無くなった。だから作り直すことができないんだ」
「なぜ居ないんだ? それに他の技師でもことが足りないか?」
「いや、話せない。これ以上は法に触れる」
そう言えば分かるだろう? とケビンは言った。
最初は何のことだかさっぱり分からなかった。しかし考えを巡らせると思い当たる節はあった。ああそうか、ケビンは俺が異世界から来たと知らないんだ。つまりケビンは、(俺が知らない)この世界の共通認識についての話をしているのだろう。その共通認識が何なのか気になったが、ことを荒げたくなかったので納得したふりをした。
そうこうしている内に南側の門へたどり着いた。
「よおケビン! 遅かったな。あいつらも待ちわびているぜ」
矢倉の上から勝気な黒髪の少女が言葉を投げかけてきた。すぐに行く、とケビンは矢倉に登り始めた。俺も後に続く。
「紹介する。俺の妹のアイナだ」
そう言ってケビンはアイナの頭をポンと叩いた。
「いつまでも子ども扱いするな! ……で、こいつは?」
「俺は裕二だ。よろしく」
「ユージにもフェンリル討伐を手伝ってもらうことになった」
「はあ? こんな弱そうなやつが?」
そう言うとアイナは短めの髪を揺らしながらこっちを向き、キッと俺の目を睨みつけた。
「そんなこと言うなって。ユージはこう見えて俺の命の恩人なんだぜ。それに親父も一泡ふかされたしな」
ケビンがそういうと、アイナはさらに怪訝な表情をする。まあ仕方ない気もするが……というよりユージ、こう見えてとはなんだ。
「ふーん、まあとりあえず信じてやるよ。で、ユージは何をする予定なんだ?」
「ああ、俺はフェンリルの残党を狩ることになった」
「ほー、じゃあこちとら、高みの見物をさせてもらうよ」
と言うと、アイナは自身の弓を見せつけるように差し出してきた。せいぜい死なないようにな、とアイナはケラケラ笑う。ああ、せいぜい気を付けるよ、と俺も自嘲気味に笑った。
「じゃあそろそろ始めるか」
とケビンは言い、そして矢倉の上にいる人たちに合図を出す。門を挟んで隣にある矢倉にも指示を伝えた。どうやらこの戦いを取り仕切るのはケビンらしい。
「よし、俺らも下に降りるか」
そのケビンの言葉とほぼ同時、各々弓を射り始めた。フェンリルの悲痛な声も聞こえる。
――戦いが始まった。