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第四話――迫る影――

「フェ、フェンリルだ!」


 門番の声。それすらを置き去りにするような速度で俺は振り返る。


 回転の瞬間は、まるで絵の具が滲んだかのように歪み、あいまいに見えたが、180°の回転をほぼ終えるころには相手の姿をはっきりととらえることができた。


 狼? いや、それにしては大きすぎる。そしてこいつは俺が知っている狼とは決定的に違うものを持っていた。


 真紅の血に濡れたような目。そこには黒目すら存在しない赤一色。創造主はこいつを作り出した時に、色を塗りこむのを疎かにしたのだろうか。そんな感想すら抱いてしまうほどに生気の感じない、無機質な血の色をしていた。


 すぐさま俺は短剣を握りしめる。フェンリルの鼻先はすでに俺の目の前にあり、今まさに俺の顔面にかみつこうとしている所だった。咄嗟に身をかがめてそのプレッシャーから顔をそらす。それでいてなお相手の動きはゆっくりに感じられ、まだ時間的余裕すら存在する。


 一瞬で見えた勝利への道筋、俺は手にしている短剣でフェンリルの喉元に斬撃を食らわせた。飛び散る血しぶき、フェンリルの目よりも鮮やかな色をした雨が降る。


 飛びかかってきた勢いはそのまま失われることがなく、フェンリルの体は俺の頭上を越えていき門番の体へとぶつかった。門番はその衝撃をいなすことができず地面に倒れこむ。


「な、なんだ! 今の動きは! まるで見えなかった……」


 驚きを隠しきれない。門番は目を見開いたまま、体はおろか表情すら変えることはできない様子だった。


「ふう、危ない所だった」


 そう言いながら門番に手を貸す。門番は一瞬握ることを躊躇したが、直ぐに俺の手を握り返し、体重を預けてきた。見た感じ門番は結構な力で俺の手を引っ張っているようだったが、見た目とは裏腹に嫌に軽く感じた。もしかしたらこの人、見た目によらず軽いのかもしれない。


「いや、まだだ」


 門番は嫌に落ち着いた声でそう言った。


「フェンリルが単独で村を襲うことなどまずない。おそらくこいつは偵察のつもりでここまで来て、ついでに隙だらけだった俺たちを襲ったのだろう。だとするならば、すぐに奴らの群れが来る。一度中に入ろう」


 そう言って門番は門を開き、俺を招き入れた。


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前はケビンだ。助けてくれてありがとう」


「俺は裕二です。よろしくお願いします」


「おおっと、敬語なんてやめてくれよ。俺らはあのフェンリルに対峙した仲だろう? もっとも俺は何もできなかったが……。まあそれはともかく、一緒に戦った戦友なんだからさ」


 ケビンは笑顔のままこちらに語り掛けていた。


「まずは一連の流れを村長に伝えなければならない。悪いけど一緒についてきてくれないか、ユージ?」


「ああ、構わない。行く当ても何もないからな」


 そうして俺らは村の中心部へと歩き始めた。

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