第二話――秘められし力――
「どうします、先輩。やっちゃいますか?」
これはやばい、じつにやばい。姿を見なくても声だけで分かる。このやっちゃいますかは明らかに俺に対していったものだ。大体こんな感じでへへへと笑いながら話す内容は悪だくみであるし、その対象が俺であるならそれは生存危機に他ならない。
「ああ、相手は丸腰、しかも弱そうだ……久しぶりのカモだな」
その言葉を受けて僕は飛び起きた。辺りを見渡す……どうやら森の中のようだ。辺りには木やら草やらが生い茂っている。……頭が少し痛む。色のない世界から着色された情報量の影響か、時空だか何だかを超えた影響か。さっきの声の主は? 視線を右へ左へとせわしなく動かし、相手の姿を捕捉しようとする。……いない。いや、まさか。そして気が付く。必要な眼球運動は左右ではなく下方向であったと。
俺の腰ほどしかない身長、黒々とした長いひげ。他でもないドワーフの二人組が俺のことを見上げていた。
「やっちまえ」
先輩らしき方が口を開く。へいと威勢よく返事して子分が弓を構えた。マズイと思った瞬間矢が射出される。貫かれる痛みに僅かながらの抵抗をしようと体を身構える。しかしいくら待てど痛覚が刺激されることは無い。おかしいなとまた正面を向くと今まさに俺に刺さろうとしている矢が! うわっという情けない声と共にそれを避ける。
「なんだあいつ! 今の動きは……」
「と、とにかく射るんだ」
先輩ドワーフが剣を抜きながら命令する。なるほど、あいつは弓を持っておらず遠距離の攻撃は出来ないらしい。後輩ドワーフは命令通り次々と矢を放つ、ように思えたがその動きを妙なほど鮮明に捉えることができる。そして飛んでくる矢の速さも遅く十分に避けることができた。
「バ、バケモノ」
そう言って後輩ドワーフは弓を投げ捨て、短剣へと持ち替えた。遠距離の攻撃が通じないと見たのだろう。しかしドワーフたちはこちらに向かってくる素振りを一切見せない。無理もない、怖気づいているのだろう。
こちらとしてもわざわざ近づきたくもないし好都合だ。いくら相手の動きが見て取れるからといって、格闘経験がまるでない俺にとって近接戦闘は無謀に思えた。したがって可能な限りこの距離を保ったまま戦いたい。何か投擲できるものは……身の回りにあるのは土と草と木ばかり。投げつけるにはむかないものばかりだ。その時、ふとスキルのことが頭をよぎった。
スキル”創造”。使い方は本能的にわかった。このスキルを使うことによって、何か道具やら家具やら料理やらなんでも作り出すことが可能だ。しかしそのためには材料を用意する必要がある。
今手元にあるもの……土? 土でできているものってなんだ? 土、土……土器!
「縄文土器だ!」
そう言って地面に右手を当てスキルを発動させる。この土が縄文土器を作るのに向いているのかどうかは知らない。だが不思議とできると確信できた。光り輝く右手、それに呼応し変質する土。複雑に形を変え最終的には土器が完成した。縄目文様、見覚えのある形。教科書で見た縄文土器そのものだ。
ってこんなものを作ってどうするつもりなのだろうか。ドワーフたちは、
「こ、こんな魔法見たことねえ」
と騒ぎ始めている。後輩ドワーフに関してはすでに戦意を喪失しているのだろうか。先ほどから体全体が震えている。まあ、先輩ドワーフの方ももうひと押しすれば良さそうだ。
有効かどうかは分からないがとりあえず投げておくか。そんな軽い気持ちだった。大した力も入れずに縄文土器を片手で投げる。不思議とフォームは軽やかだった。そうあくまでも軽く投げたつもりだったのだ。そんな気持ちとは裏腹に、縄文土器は俺が想定していたスピードをはるかに越えて先輩ドワーフに突き刺さった。
「せ、先輩ー!」という叫びが森中に響き渡った。