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第十六話――修行――

「では村長、お願いします」


「ふむ、ではとりあえず準備運動として走ってもらいましょうか」


「どのくらいですか」


「私が良いと言うまでです」




 二時間が経過した。俺はまだ走り続けている。最初は快調に足を運んでいたが、次第にそれも重くなっていき、もはや呼吸もまともにできない。村長は、俺のランニングが始まった十分後には家の中に入っていき、以来顔を出していない。一度足を止めて休もうかとも思ったが、村長に俺のやる気を試されているような気がしてならないので体に鞭を打って走り続けた。


 そろそろ三時間になるんじゃないかっていうところでやっと村長が家から出てきて、


「よろしい、では五分休憩いたしてください」


 と言った。村長からはほのかに石鹸のにおいが香った。




 休憩後、今度はひたすらに筋力トレーニングのようなものをやらされた。トレーニングと言えば聞こえは良い気がするが、村の物資の運搬を押し付けられているような気がしてならない。しかも運んでいる途中に、「ではここでスクワットをしてもらいましょう」などと言ってくるからなおたちが悪い。最初拳を合わせた時から、この人は他人を痛めつけるときに快感を覚えるような人な気がしてならない。


 荷物を全部運び終えた途端、「ではこれを先ほどの場所に戻してもらいましょうか」と言われてぶん殴りたくなった。しかしここで反抗しても勝てるわけがなく、修行自体が永久に終わってしまうので、不満は小さなため息程度に収めておいた。荷物をもとの場所に戻したとき、疲れがピークに達し、足に力が全く入らなくなったのでその場に倒れこんでしまった。


「ふむ、では今日はこの辺で」


 と村長は言い、そのまま立ち去って行った。




 こんなトレーニングが一か月くらい続いた。その間に村の子供たちには掛け算、割り算の筆算を教えるところまで教育が進んだ。このころから何故かアイナまで俺の授業を熱心に聞くようになった。


 話がそれたが、村長には武道を教えてくれと頼んだのだがその気配は全くなく、どことなく俺の心中は曇り始めていた。しかしながら俺より圧倒的に強い村長の教育方針に逆らう気はさらさら起こらなかった。きっとこれは俺の基礎体力を上げるための修行なのだろう。そう自分に言い聞かせていたある日の事。


 その日は修行までまだ時間があり、子どもたちへの教育も休みにしていた。


「おいユージ!これはなんだ!」


「何って、掛け算だけど」


「カケ、ザン?」


 聞くところによるとケビンは、アイナが何かを紙に熱心に書き込んでいるのを見て、悪いとは思いつつそれを覗き見ると、なにやら訳の分からないものを書き綴っているので、それを心底心配し俺に相談してきたということだ。掛け算の用途を簡単に説明すると、


「なんと、こんなにも高度なことを教えているのか」


 とケビンはつぶやいたので、俺はこの村の行く先が不安になってしまった。




 ちょうどその日の夜。


「ふむ、では次の段階に移りましょう」


 と村長は俺に対して言った。荷物を運び終えた後、手持無沙汰になったので軽いストレッチをしていた時に突然にである。


 村長は何だか空手とも合気道ともカンフーとも似つかない、見たことの無いような一連の動きを俺に見せ、「これを真似て下さい」と言った。


 俺はその後に続いて同じ動きをして、村長はそれに対して二三修正点を話し、そしてそのあとは黙って見守っていた。一つの動きがある程度できると次の動きを教えられ、また同様のことを繰り返す。その日はそれだけで終わった。


 次の日の修行も、ランニングと荷物運搬――この頃になると、荷物を運んでいる時に後方伸身二回宙返り三回ひねりだとか無理難題を課された――をしてから、型の練習に入り、以後昨日と同じ。


 そんな日々がまた一か月続いて、子供たちは四則計算をマスターし、状況に応じて使い分けられるように自主的に文章題を作り合って、互いにそれを解き合っていた。

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