第十二話――誤解――
「まさかあんたが一時間で女ナンパして家に連れ込むヤリ○ンだとは思わなかった!」
とアイナが騒ぎ立てる。
「だから違う! これは誤解だ!」
同様に俺も声を荒げた。大声が叫び声を呼び、またそれが怒号を呼ぶといった感じで、火種から家具が燃え、やがて家全体が延焼していく様を見せつけられている――俺自身当事者ではあるが――ようにも思えた。
「え~私のことは遊びだったの~」
そして断言する。これは放火だ。今現在もガソリンをまき続けている者がいる。常識的な思考回路と落ち着きさえ持っていれば、こんな棒読みすぐに棄却できるだろうに……、しかしそれを今のアイナに求めるのは無理な話だろう。もう消火器で消し止められる火の大きさではない。この炎上は結局、ファイアーファイター(ケビン)が駆けつけるまで続く羽目になった。
苦渋の末考え付いた言い訳はこうだ。アテナは俺の妹、実は俺がこの村に到着するよりも先に村の中に入り込んでいて、つい先ほど家に来た。そこにアイナが乱入、勘違い、炎上し大混乱になったと。三十秒で考えたにしては良くないか?
「しかしこの村、あまり広くないし出入り口には門番がいるから、こんなことめったにないんだけどな」
とケビンは言った。
「実はアテナはアサシンなんだ」
と適当な嘘をつく。さっきの仕返しだ。
俺の発言は多少なりとも影響力を持っているそうで、三者三様の表情の変化を見ると少し気分が晴れる思いがした。アテナは少し口をとがらせ、ムッとした表情をしている。ケビンは少し顔をしかめ、村の警備を強化しなくては……などとつぶやいている。アイナは先ほどの騒ぎのこともあってか、怯えた目でアテナのことを見ているので、
「お前、今夜殺されるかもな」
と脅かしてみた。これもささやかな仕返しだ。アイナは一つ身震いをした後、ごめんなさいとつぶやき続けた。それを見てぷっと噴き出すケビン。さすがにこいつには冗談だと気が付いているらしい。
「まあいい、ならこの家は二人で使ってくれ。親父の方には俺から話しといてやる」
そう言ってケビンは去っていった。
アイナは相も変わらずそのままだったので、さすがにかわいそうになりネタ晴らしをすることにした。
「ごめんアイナ。嘘だから、ゆるして」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
「どこから嘘だったの?」
さて、正直に言ってしまえば話したこと全てが嘘になってしまうのだが……と考えていると、
「妹ってところから、ぜーんぶ」
とアテナが横やりを入れてきた。ああ、アイナの震えが止まると同時に、俺が積み上げてきたもの(ウソ)が音を立てて崩れ去った。
「不潔! 変態! 不純異性交遊!」
アイナが騒ぎ始めて振出しに戻る。もう同じ言い訳は通じないだろうしどうしようかなぁ……。
「もう良い! 私もここに泊まって監視するから!」
……何故そうなる。乙女の純心を理解するのは村を救った勇者ごときでは無理なんだなとあきらめがついた。
アテナはというと、ただニヤニヤしてこちらを向いているだけ。そうこの女神、所詮物事が面白いように進みさえすればそれだけで満足するたちなのだ。
長い夜になりそうだなと思い、頭を二、三掻いた。




