第十話――策――
俺たちは現在、木陰から壁の様子をうかがっている。
「やはりここにとどまっていたか」
とケビンは言った。南側の門にいた敵の数よりもかなり多い。
「……ユージ、私たちは何をすれば良い?」
アイナが言った。
「まずこのままだと敵の数が多すぎて壁までたどり着けない。だから少し減らしてほしい。あと準備に時間がかかるかもしれないから、時間も稼いでほしい」
「……分かった、ユージを信じるよ。こっちは俺に任せといてくれ」
そう言うとケビンは弓兵に攻撃をするように指示を出した。それを見届け、俺は準備に取り掛かる。
当初は壁の様子によっては壁に直接スキルを発動しようし、壁を作り変えてしまおうかとも考えたが、壁の穴は思ったよりも大きく、考えなしにやっては時間がかかりすぎてしまいそうだ。その間に直接攻撃されてしまっては意味が無い。敵を完全に殲滅してから、というのも考えたが、その間に敵がどんどん中に入りこんでくる可能性もありいたちごっこになってしまう。
ならば、穴をふさぐために壁を作り直すのではなく、壁と同じ程度の大きさの材料を用意してしまえばよい、そしてそれを壁に押し付けスキルを発動してしまえばことが足りる。
……まあ、物理法則を無視しているだとか色々な疑問は募るが、森の中で道具がなくとも家具すら作れてしまうスキルだ、そのくらいのことはできるだろうし俺の直感も可能だと示唆している。
さて問題はその方法だ。当初は適当な見繕って手ごろな大きさにして壁まで運ぼうかと考えたが、予想以上に穴が大きかった。手で運べる大きさで分けていくとしたらいったい何往復する必要があるのだろうか。どうするべきか……。
――よし、ひらめいた。
「ケビン! そこをどいてくれ!」
「おうユージ! ……おわっ!」
危なかった、間一髪ケビンはかわしてくれた。
大量の材木を一度に運ぶ方法を思いついたはいいが、さすがに強引過ぎたか。
「ケビン! 援護してくれ」
「あ、ああ……というかそのデカイ玉はなんだ!?」
「木だ!」
「木!?」
大量の材木を一度に運ぶ方法。そう、材木で球体を作って転がしてしまえばいい。もちろんスキルあっての方法ではあるが今この段階ではこれがベストだろう。木を切り倒す代わりにスキルを作用、そしてそれを丸めてしまえば良い。あとはこれを用いて壁を塞ぐ。簡単な手順だ。
行く手を塞ごうと木玉の前にフェンリルが来ても、木玉はそれなりの重さがあるのでつぶれるのが落ちだ。ならばと俺本体を攻撃しに来てもケビンがそれを防いでくれる。思いのほかうまくいった。そうして木玉はかなりの速度に達し壁に……こんな速くて大丈夫か?
木玉が壁にぶつかる。轟音。大地が震える。敵も味方も一瞬動きを止め、時が止まったかのように感じた。
壁は……何とか大丈夫だ。すぐにスキルを発動させる。まばゆい光、尋常じゃない様子を察しフェンリルたちは俺に襲い掛かろうとしてきた。しかしそれはケビンやアイナをはじめとする仲間が守ってくれる。
時間はほとんどかからなかった。気が付いた時には、そこに穴があったのがウソのように、完成された壁が存在した。
見方が歓声を上げる。しかしそれはまだ早い。まだ壁の中に敵は存在するのだから。
「喜ぶのはまだ早い! 奴らを借りつくすぞ!」
すかさずケビンが声を上げた。それを受けて全員の動きが機敏になる。……さて、俺も戦うか。




