表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紡ぐ  作者: Licht
7/15

愛した色は、どこにも無い

“全く..お前は、しょうがないやつだな”

“俺がお前を愛してやる!俺の愛は全部お前一人にやる!”

“当たり前だろ、俺は、あんたのヒーローなんだから。だから、ちゃんと俺を呼べよ、いつでもどんなときでも必ず駆けつけるから”


夢の中に現れる彼は、いつも笑顔で、私の傍にいてくれて、たくさんの話をしてくれる。私は、彼からいつももらってばかりで、何も返せないなに。彼は、幸せそうに笑っていた。

彼の温もりを感じたいと思ったとき、言葉にしなくても彼はすぐに抱きしめてくれたり、手を繋いでくれる。どうして私の気持ちがわかるのかと聞くと、“俺がお前のヒーローだからだ”と照れくさそうに笑った。


ああ、彼が好きだ。彼のその笑顔がいつも私を支えてくれている。



“ああ、どうして・・どうして、俺を呼ばなかったんだ・・・どうして!!”

彼の声が震えている。

地面に倒れて動かない私の体を抱きしめて泣いている。その姿を自分は離れたところから見下ろして、彼の傍に寄ることも触れることが出来ない。彼に自分がここにいると伝えることも。

青白く生気が無い自分の顔に彼の涙がぽたぽたと落ちて止まらない。その一粒一粒がナイフのように私の心臓を刺していく。


彼が苦しんでいる。その苦しさが痛いほど伝わって全身が張り裂けそうだ。お願い、泣かないで。

私は、ここにいる!

どんなに呼んでも叫んでも彼の目が私を捉えてくれない。泣いている彼から自分が見えない力でどんどん引っ張られ離れていく、嫌だ。離れたくない。ねぇ私はここにいるよ!


足掻いても足掻いても彼から、離れていくばかり、苦しい、苦しい。

“アンナ・・”



「待って!!」

見開いた目は、止まらない自分の涙で視界がはっきりしない。呼吸も乱れて上手く空気が吸えない。苦しい。両手で鼻と口を覆って、何とか呼吸を落ち着かせようとした。涙が止まらない。苦しい。

これくらいの苦しさが何だ。彼の苦しさは、計り知れないのに・・ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・



カーテンの隙間から見える外の色はまだ薄暗い。もう少ししたらさらに明るくなって朝日も昇るだろうか。

やっと落ち着いて、ぼうとその隙間を見つめていた。起き上がるのが酷くだるいが、ゆっくりベットから抜け出して、化粧台の前に座るとそこには笑えるぐらい、ひどい顔をしている自分が写っている。泣き腫らした眼に涙の後が顔中に散らばって、乾き始めている。


こんな風に魘されて起きることは少なくない。何年もの間、続いていることだ。

夢の中はこの世界にない景色で、別の異世界だ。その世界で生きた女の記憶の断片がいつも私を苦しめている。


初めて見たその異世界の夢は、今でも良く覚えている。

魔力と魔法の存在するこの世界に生まれてもうすぐ3歳になる頃、自分の魔力が体内で暴走して、酷い熱を出した時だった。どの医師も暴走する魔力に手を施すことが出来ず、祖父と父様の二人がかりで治療に当たったという。

王妃の母が今でも、“あの時は、本当に死んでしまうのではないかと・・”と目を潤ませて震えている。

生死を彷徨った10日間、その間に見た異世界の景色の夢を見たのは、ただただ恐ろしく、断片的に見るその女の人生が、痛みと血に濡れていて、生々しくて、怖くて、目を背けることも出来なかった。

夢の中に逃げ場はなく、助けてと叫んでも叫んでも夢から覚めることも出来ず、救いは無かった。


そして、ある日の夢の中に彼が現れた。怖いだけの夢の中で世界で彼は笑っていた。笑顔がキラキラとしていて、彼の温もりだけが苦しい終わらない悪夢の救いだった。

それからもずっとその異世界の女の人生の夢を見続け、12歳になった頃、自分が知らないはずの知識とこの世界に存在しない言葉と原理の考えを自分が無意識に呟き、披露していたことに気がついた・・あの女の人生、知識も全て、あの男の人の笑顔も・・


全てあの女の人の物で、あの女の人は私自身だと確信した。


大きな鏡の中に写る自分の姿は、前世の自分の姿とは、全く違う。鏡に映っているのは、綺麗な鮮やかな真っ赤な髪と深いエメラルド色の宝石のような瞳。

前世の私も赤毛だったが、その色は、薄汚れていて、全く綺麗じゃなかった。瞳の色も泥を写しているような汚い色。それでも彼は朝日に照らされた私を見て、女神のように綺麗だ。と言った。

ずっと一緒に居よう。彼とした約束を破ってしまった私を彼は、きっとすごく恨んでいるんだろう。だから、罰として、自分は全く違う世界で前世の記憶を持たされたんだ。大好きな彼も彼の黒い瞳も黒い髪もないこの世界で・・・


この世界の成人年齢は、平均18歳。平和な国を物語る年齢設定だ。

貴族では、大体15歳までに婚約、成人を迎えたら、結婚式を挙げるのが一般的な中、王族の第一王女に生まれた私が、まだ17歳の成人前とは言え、婚約すらしていないのは、前代未聞とのことだ。今までは、国王の父様が守ってくれた。だけれど、もう自分の身は自分で守れるようにならないといけない。

自分自身が守りたいものを守れるだけの力を手に入れなければ、この世界で愛してくれる人たちを守れない・・大切な人たちを守る力を・・もっと大きな力を手にしないと。


私の生まれた国、ヴェルメリオ王国は、他国の民から平和な国で住みたい夢の国。と言われている。

だが、それは、この国の王が自身の魔力を放出して、気候に干渉し、国を守っているお陰だ。そのことを知らない人間から見れば、天災がなく、作物も他国へ支援できるほどに豊かに実り、国土の山々には、多くの鉱物も良く取れる。まさに恵まれた理想の国だ。


他国が、様々な天災などに苦悩する中、その国の権力者がどんな目でこの国を見ているかも容易に想像できる。今までも他国の侵攻に応戦したことも少なくない。


この国が一人の王が在ってこそ、その上に成り立って恵まれた土地であることを知らない馬鹿どもは、常に飢えた獣のように目を光らせて期を待ち構えている。


ヴェルメリオ国王の持つ、国一つ丸ごと庇護下に置けるほどの魔力は、絶対的な秘密だ。他国の権利者に限らず、知られてしまえば、人に与えるのは、ただの恐怖でしかない。巨大な力持った人間に恐怖した人間の考えることは、二つだ。


“平伏す”か“排除”だ。



父に家族に守られるばかりの17年間だった。

沢山の人が無条件に自分を愛してくれる世界。

これからは、その大切な人たちが傷つかないように私が守っていく。


前世の無力な私のままじゃない。今は、努力で実る力があるのだから。








>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>to be continued.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ