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紡ぐ  作者: Licht
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抗えそうにない

まだ日が昇って間もないだろう。空がまだ完全に明るくなっていない。

思ったよりも寝ていたようだ。


「あなた達の睡眠を邪魔したお詫びによかったら、朝食を少しご馳走するわ。ルーファスの朝食だけど」


アンの言葉に瞬時に意を唱えたのは、またシルディだ。

さっきよりも怒りを感じるのは気のせいか。


「いっぱい持ってきたから、大丈夫よ。あなた一人の分にしては多いし、食べ過ぎると太るでしょ?さっきから怒ってばっかりね。顔も不細工よ。」


完全に怒らせたい人の発言だ。

けれど、シルディは、唸るのをやめ、剥き出した牙も閉まった。


アンは、平らなところに布を敷いて、籠の中の物をひっくり返すようにして出した。

騎獣の食事は、主に生の肉だ。骨が付いている物を丸かじりするのだが、アンが出した物は、大量の土の豆のように見える。

「それは何だ」

「手作りの騎獣のご飯だけど、見たこと無い?肉と野菜が入っていて栄養が高くて腹持ちも良いと好評なの。シルディ、ルーファスと一緒に食べるのよ。いいわね。ルーファスもおいでこれは、よく噛んで食べるのよ。」


どうぞ。と言ったアンにシルディは、不服そうだったが、言うことを聞く気はあるらしい。

ルーファスはアンに呼ばれ、すぐに機嫌よさそうに尾を立てて近づいていった。


ルーファスは、茶色の豆の匂い一度嗅いでから一口食べた。カリカリとした音が聞こえてくる。

またすぐにもう一口と食べた。尻尾は完全に制御を失って左右に振れている。

本当にどれもこれもルーファスの気を引きすぎだ。威嚇していていながらも鼻を突き合わせるようにして同じ場所からご飯を食べている美しい白い雌の騎獣に土の砂利かなんかにしか見えないどうやら物凄く旨いらしい正体不明のご飯。


アンは、ニヤニヤとした笑顔で二匹を見て、ルーファスの頭をひと撫でして俺の方へ来た。


「座ってもいいかしら?」


聞いてきたアンに自分のマント地面に広げてからどうぞ。と返事した。

アンは、また微笑んでマントの上に座った。

「ありがとう」


ルーファスとシルディを少し笑った顔で観察している。

「いい子ね、ルーファスは」

「これ以上、ルーファスを誘惑してくれるな。キュアノエイデスに徒歩で帰ることになる。」


「それは良いわね。また、一つ楽しい話が増えるわ。」

そう言った俺にアンは、鈴のように笑った。


「いつも、騎獣の食事のためにここへ来るのか」

「たまに。ここは静か綺麗でしょ?家の中や騎獣の小屋でご飯を食べさせるより良いじゃない。私もシルディもお気に入りの場所よ。特に朝誰もいないからここを丸ごと独り占め出来るし」


「知らなかったとはいえ、貴方の時間を邪魔したな。すまない。」


アンは、律儀な人ねと言って、またクスクスと笑った。

「ルーファスは凄いわ。シルディに凄まれても怖気づかない。ただの鈍感でもなさそう」











ルーファスも俺も十数日に渡り、旅の疲労で疲れてはいたが、見知らぬ地で不覚になるほど熟睡はしない。

わずかな物音にも気付けるはずだ。だが、アンとシルディと言う騎獣の気配に全く気がつかなかった。


自分は、魔力と気配を感じとるのが上手いと思っている。

誰かが近付けば、気づける自信があった。


けれど、気付かなかった。アンの纏う雰囲気に彼女が気配を消して近づいて来たのかも確証が持てないほどに魔力の動きを感じなかった。

そしてどのぐらい、眠りこけてる俺達を見ていたのかも分からなかった。


アンは、城下の娘達が着ている服と同じようなデザインのシンプルな服を着ていて、真っ赤な髪と深いエメラルド色の瞳に日の光がそれをキラキラと照らしていて、思わず、見入ってしまった。

目じりが少し釣りあがっていて、挑発的な目が印象的で美人だと思った。


「あなた達の睡眠を邪魔したお詫びによかったら、朝食を少しご馳走するわ。ルーファスの分だけだけど」

唸り続けていたシルディがアンの言葉を聴いて、びっくりしたように振り返って反抗の声を上げた。


「一杯持ってきたから、大丈夫よ。シルディ怒ってばっかりね。顔がブスになっているわよ。」


怒った相手を宥めたいのか、さらに怒らせたいのかよく分からない。

けれど、シルディは、牙を閉まった。


騎獣は、人の言葉を理解するほどに頭が良く、友好的。それ故に自我を持っていて、束縛されることが嫌う。

騎獣と信頼関係をしっかり築いて主と認めてもらえば、共に戦える生涯の相棒になる。そんな仲なのだろう。


俺とルーファスも、その生涯の相棒だ。

もう10年以上共にいて、誰にも崩されない信頼関係が出来ていると思っている。


だが今、ルーファスは、俺のとなりに腰を下ろしてはいるものの、視線は、真っ白で美しいシルディから外れない。

ただの興味なのか、それとも恋なのかは正しく読み取れない。


その姿をみていると自然に、恋する騎獣に捨てられる人の話が頭の中を過ぎった。


15年以上を共に過ごした、相棒..戦友とも呼べる騎獣が、ある日突然、姿を消して、探してようやく見つけた先では、若い娘の家に住み着いてすっかり家族の一員のように馴染んでいて、迎えにいったはずが鶏獣を餞別だ。とでも言うように渡された。そんな話・・または、相棒を捨て恋した隣国住まいのメスもとへ旅たった騎獣の話。


悲劇なのか、喜劇なのか、定期的に新しく騎獣に捨てられた騎士の話が皆を笑わせたり酒場を賑わしている。


捨てられるほうはたまったもんじゃない。


今にも、その悲劇が自分の身に起きようとしていることを感じて、背中から変な汗が吹き出てきている。

俺とルーファスの未来を左右しようとしている当のシルディの態度は、相変わらずだ。

は、もうこちらに興味を失ったのかアンの持っている大きな籠に鼻寄せている。

シルディという名だ。恐らく..いや、確実に雌だろう。




シルディは、ルーファスに唸りとガンを飛ばしながらも一緒に餌を食べている。主人に言われたからと言って騎獣は、認めない相手と鼻先をつき合わせて一緒のご飯なんて食べない。

それでもあの餌に食らいつくのは、プライドよりも食い意地が勝っているんだろう。


シルディの威嚇に耐性が出来て来たのか、ルーファスは、ムシャムシャと食べるのが止まらない。しかもかなりご機嫌に尻尾まで振っている。

それに気付いたシルディの唸り声が倍増する。完全に火に油を注いでいる。


「本当に面白い子。」

そう言いながらも、シルディの不機嫌を楽しんでいるようだった。

朝日の光がアンの深いエメラルドの瞳の奥を照らして、見たことも無い綺麗な宝石のようで、その輝きから目を逸らせなかった。


ふと、微かな違和感を感じた。


一瞬の事で気のせいに思えたが、深く意識を集中させるとその正体を確かに捕らえた。アンの魔力だ。


大きさに決まりある自身の魔力の器を無理やり大きく広げようとしているのだ。

魔力を嵐のように乱回転させて、器を広げる行為は、誰が聞いても、狂ってる行いだというだろう。

魔力を自在に操れる凄腕でも、そんな危険は冒さない。はっきり言って、自殺行為だ。



「力が欲しいのか、それとも死にたいのか」


アンを見つめたまま、はっきりと問う。

クスクス笑っていた、アンの表情が消える。こちらを振り向いたアンの深い緑の瞳に正面から捉えられ、自分もしっかりと目をあわせた。

やっと、アンという少女の心に少し触れたような感じがした。


さらに集中すれば、アンの器の状態が見えてくる。器は至る所に傷が付き、かなり無理をしている。一刻も早く止めた方がいい状態だ。

「自分の魔力を体内で暴れさせて器を大きくしているのだろ?そんな乱気流のようにするなんて、死にたいのか」


「貴方も鈍くないのね。私は死を望んでないわ。」

アンは、観念したように素直に認めた。


「だが、焦りすぎると自滅しかない。もうかなり危険な状態だ。すぐに魔力を止めて器の修復に努めたほうがいい。」

「あなた、お節介過ぎるんじゃない?」


深い緑の瞳がどんどん冷めていくようだ。


「俺も同じことをした。だが、そのやり方は、自滅に向かっている。」

互いの目を捕らえたまま、時間が流れていく。アンは譲らない意思を示してきている。


目を先に逸らしたのは、アン。

「・・判っているわよ。それぐらい。だけど、時間がないの。あと2日でやれるところまでやらなければ、いけない。」

そう言った、アンの表情は決意に満ちている。

アンの魔力の動きが加速していく、心を乱し始めている証拠だ。


唇の色が薄れ、微かに脂汗を滲ませはじめている。

「2日か・・俺が手伝おう。」

「え?・・な・・んん!!」


引き寄せたアンの体を拘束して、アンの魔力に直接干渉する。

アンの体中の魔力の動きを停め、自身の魔力を流し込んだ。


静かにゆっくりと傷ついたその器を労わるようにそうしているとアンの器の大きさが多少見えてくる。自分と同じか、それ以上の器の大きさだ。

平和なヴェルメリオの国に住みながら、なぜこんなにも力を求める。悲しく思う気持ちと異郷の地で偶然に出会った不思議な少女の気持ちを一つ理解もした。

言いようの無い、歓喜の気持ちが全身を駆け巡り、アンを守りたいとも思う。彼女がこれ以上、自分を傷づけないように。


アンの器に魔力を送り続け、ようやくその器が満たされた瞬間だ。強く押しのけられたと同時に、左頬に強烈なビンタをもらった。

振り返った時には、アンはもう駆け出していて、シルディを呼ぶと、素早くその背に跨って、走り去っていく。


アンの姿が、見えなくなる前に一度だけアンが振り返ったように見えた。



ヒリヒリと痛む頬を擦りながら、先程まで感じていた感覚を思い返す。

自分の魔力がアンの中に流れ込む感じ、彼女の体温と表情と声。


彼女のなかに自分の魔力の色が居着く様。アンの色が今も傍にあるように感じる。


目の前でルーファスも首を伸ばして走り去ったシルディの方を見ている。


ルーファスと一緒に今すぐ追いかけようか、、

そう考えた自分に驚いた。


どうやら、ルーファスだけでなく、俺もヴェルメリオの地で恋の罠に落ちてしまったようだ。






>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>to be continued.

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