歓迎しているのか?
ヴェルメリオ国の王都は、最高に盛り上がっていた。
早朝早くから、朝食を出す店や露店がもう既に何件も開店していて賑わい、昼になるとより一層多くの人たちが街に溢れ、大きな通りでは必ずと言って良いほど音楽が奏でられ、小鳥までもが演奏に加わっているかのように囀っている。街の人々と観光に来たであろう外国の人も入り混じって音楽合わせて踊っている。
フィリウスは単騎で程々に休みながらも大幅に時間を縮めて、ヴェルメリオ王国の王都に着いた。
まずは宿を探したが、どこもが満室だった。仕方なく相棒のルーファスの手綱を握って王都を歩き回っていた。
途中途中、踊りの輪に引っ張り込まれ、仕方無しに周りの自由なダンスを真似ては見るもののぎこちない動きは周りで踊る子供たちを笑わせた。
出店を楽しみながらも宿を探し続けてはいたが、やっと見つけた一室だけ空いていた宿には、騎獣を休ませる場所がない。これ以上探す気にもなれず、さらに限られた自由時間を無駄にしたくもないフィリウスは、宿探しを諦め、目的を完全に町の観光へ変えた。
ヴェルメリオの王都に来るのは初めてだ。
人の口から例えられた想像の景色よりもこの国はずっと暖かく華やかで、住みたいと思えるほど美しく居心地もいい。
本当は、ヴェルメリオ国王の戴冠20周年の祝儀に皇太子のベルトランと三皇子のユリウスだけがヴェルメリオへ向かう予定だった。
だが叔父のウィンチェスタ卿も共に向かうと名乗りを上げ、それを許可した陛下が出した勅命には、しれっと自分と八皇子の名も記されていたのだ。
陛下の思惑は分からないが、叔父のウィンチェスタの目的は明らかだった。旅に同行する祝儀品の護衛兵の人選権をもぎ取り貴族の中でも上級層の子息、さらには顔がいい者ばかりで編成した。
祝儀に乗じ表向きは、ヴェルメリオ国王への挨拶をと言うが、本当の目的は、ヴェルメリオ国の次期女王となる、第一王女、フアナ・ゼノヴィア・ヴェルメリオに男をやることだ。
ヴェルメリオ王国の面積は、それほど大きくないがその国力は、帝国相手にしても引けを取らない。むしろ支援さえ出来るほどに作物も豊作で、蝗災もない。子供は健やかに育ち教育も十分、若い魔術師や兵士の育成も十分で軍力もある。他国、帝国にも引けを取らないその国力でどこにも屈することがないヴェルメリオ王国は、建国依頼ずっと中立の立場を貫いている豊かすぎる国だ。そんな国の未来の女王の王配の地位価値は計り知れないことを誰もが知っている。
ヴェルメリオ国王は言った。「王女の伴侶は、王女の成人後に王女が選択する。」
現在まだ17の王女は、もうすぐ成人を迎える。選択のときが近いのだ。
最後に王女に選ばれた者が勝者だと笑えるほどの貴族の息子や他国の皇子が、いい年になっていても成婚せずにいる。
掌上明珠の如く育てられた王女の話、噂は、自然と世界中に伝わっている。
幼い頃は“病弱で、長生き出来ないのでは”と幼い子供の命に対してかそれとも別なものに対してかは分からないが皆が残念そうに言っていた。
だが、王女の訃報が届くことはなく、近頃では“健やかに美人に成長なされた”や“今も体が弱く一年の大半以上を自室で過ごすらしい”などと色々様々、健やかだ、病弱だと伝わってきた噂に決着は付いていない。
それでも彼女との縁談を望む声は、生まれて今に至るまで消えていない。
山のようにあるであろう求婚の書状のその中におそらくは望んだこともない自分の名前の乗った紙も含まれているだろう。
フィリウスは、城下町を楽しみながら野宿できそうな場所を探した。
日も暮れ始め、適当な店でヴェルメリオ国の料理を食べ、ルーファスのご飯に上質な肉塊を買って、郊外へ向かった。静かな場所な上になかなか景色も高台の丘に向かった。
ヴェルメリオ国の気候が、春でよかった。夜は、それなりに冷えるらしいが、マントに包まってルーファスに寄りかかれば、寒くもないだろう。
ルーファスが上機嫌に肉にがぶりついている姿に笑って、寝そべれば夜空はまるで星の海だ。
その輝きを邪魔するものは何もない。あまりの美しさに見とれた。気づけばいつの間にかルーファスは、肉を平らげていて、もう夢の中へ旅立ったようで、ふすふすと鼻を鳴らしながら寝ていた。
スタミナが自慢の騎獣でも流石に疲れただろう。長距離を走った上に町中連れまわしたんだ。
フィリウスは、静かにルーファスに寄りかかってまた夜空を見上げた。そうして幾分もしないうちにフィリウスも、分からないうちに目が閉じていた。
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まだ幾らも眠っていないだろう。背中の包まれるように温かいこの温もりは長年の相棒のルーファスだ。
ふと、すこし寒く感じてもっと暖かい毛の中に埋もれたくて身動ぎした。
だが、その暖かい大きな枕が突然無くなったのだ。それに反応することもできず、間抜けにも転がって地面にぶつけた頭が揺れて痛い。
「あら、今日は先客がいるのね。」
獣の唸り声と一緒に女の声もして、声の方に反応して顔を上げれば、驚きで寝惚けた頭が覚めた。
真っ白な騎獣だ。その騎獣のすぐ後ろには赤い髪を一つに編んだ少女がいてこちらを見て微笑んでいる。ルーファスがその前を右へ左へとうろうろしていて、それを威嚇する白い騎獣は、少女を守っているのか牙を剥き出しにして、凄まじく威嚇している。
いつでも襲い掛かれる完全な臨戦態勢だ。
ルーファスは、白い騎獣に近づきたいようで、吠えられては少し離れ、まだ近づいては吠えられてと繰り返していた。
「ルーファス」
と呼んでやれば、ルーファスは、顔だけをこちらに向けて、また白い騎獣を見た。
もう一度呼ぶと今度はしぶしぶと言う感じてそばへ戻って来た。ルーファスの目はまだ少女と白い騎獣の方を気にしている。
「すまない。ルーファスが失礼をした。」
「いいえ。ルーファスというの?面白い子ね。」
気さくに侘びを受け入れた少女は、質素なスカートを穿いていて、手に大きな籠を持っていた。
ルーファスは俺に頭を撫でられつつも白い騎獣から視線を外さない。
白い騎獣と目があった。どうやら威嚇対象は、ルーファスだけでなく、俺もそこに含まれているらしい。臨戦態勢のまま敵意を向けてきているが、少女の前から離れない。
微笑んでいる少女は、白い騎獣を制する気はないようだ。
「あなたは、どうしてここに?」
「昨日、町に着いたのだが、宿がどこも空いていなくて、ここで野宿した。」
「あんなに宿が多いのにもうどこも空いていないの?まだ夜は冷えるというのにかわいそうね」
その声は、少しもかわいそうと思ってなさそうに聞こえた。
少女がこちらに向かって歩き出したら、白い騎獣がそれを咎めるように少女に向かって吠えた。
「シルディ、煩いわ。やめて頂戴」
シルディと呼ばれた白い騎獣は、呻り声をあげて少女を睨んでいるようだ。鼻の上に深くシワがよっていて牙が見えっぱなしだ。
「白い毛の騎獣は、滅多に生まれない上に他の騎獣とも群れず誰にも従わないと聞くが、すごいな。いい関係を築いているみたいだ。」
「そうらしいね、騎獣の世界のことは理解できないけど、彼女がこうして私の隣に居るのは皆が奇跡だと言っていたわ。めんどくさい性格なのシルディは、こちらこそ睡眠を邪魔してごめんなさい。」
「俺は、ロキだ。キュアノエイデス国から観光に来た。貴女の名を伺っても?」
少女は、隣のシルディを見て、クスリと笑った。
「私は、アン。この町に住んでいるわ。ようこそ、ヴェルメリオ王国へ」
そう言って、アンは微笑んで言った。
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>to be continued.