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お前の望んだ異世界とは?

「ほおう、此度の我の敵はお主らなのか」

 城門から魔王と思われる化け物が一歩、また一歩と歩いてくる。


 魔王が歩くたびに味方が次々に傷を負っていく。


「さぁて、もの共ついさっきこの城はロードただ一人になった。我を倒せば全てが終わる、だがそれがただの人間風情で出来るのかね?」

 くる…… 地面が棘のように固まって私に襲い掛かった。


「其方がこの軍勢を率いる者か、確かに強い、だが彼の国の雪濠の魔導士や我ほどではないがな」

 魔王は不敵な笑みを浮かべた。

 

「魔王軍領主とお見受けいたす」

 最後の戦いだ。出し惜しみしても仕方が無い…… 剣を振るい、斬撃を飛ばす。


 周りの土が壁を作り斬撃を受け止める。

「いかにも我がこの城のロード、そしてこの世に存在する人ならざるモノの王、魔王イスカンダルだ」

 壁になっていた土が半分に割れ、棘状になり、左右から回転しながら攻めて来る。


「アドミラ帝国騎士、ミツルギ カレン」

 回転する棘を真っ二つにして魔王との間合いを詰める。


「ふっ、よくぞここまで来た。だがお前らは臆病者だ。何故我が王の間まで攻めて参らなんだ」

 魔王イスカンダルに向かって鋭い一閃を放つ。魔王は地形を一気に荒れ狂う茨の海のように変化させ攻撃を阻むと同時に、一斉攻撃に切り替える。


 これならいける…… 


 棘の穂先を斜めに切り落とし、蔓のような土の上を駆けていく。

 前からくる攻撃を剣で流し、すぐさま後ろの鞭のようなしなった攻撃を飛翔して回避し、今まで渡っていた土と相殺させる。

 ……そのまま落ちる力に身を任せて迎撃にくる先ばかりが尖った棘を両断……


「ここからなら止めれるものは無いだろ」

 渾身の一撃を振り下ろす。


「ふっふっふっ、流石は我が友を倒した人間なだけある。だがやはり臆病者よ。騎士なら何故我にもっと間合いを詰めてこない。あの王国の魔導士だって正々堂々と戦いを挑んできたぞ」

 魔王は剣をもって私の一撃を防いでいた。


「ふっ、それはどうかな? 魔王よ、私が賭けたのはここからだ」

 魔王の後ろに降下したシュンが剣を振り下ろす。


 流石の魔王だな…… あのような後ろからの奇襲が行われても、地面を壁にして剣戟を防いだ。


「背水の陣とは愚策も愚策」

 後世にも残る戦下手の愚将が最後に行ったと言われている、戦術。

 川に阻まれて、撤退も満足に出来ず、兵の士気も下がり、味方の全てが川に落ちるまで戦いを止められなかったというなんとも間抜けな戦術だ。


「お前らのセカイではな……」

 しまった……

 地面から鋭い棘が伸びて来る…… 逃げようにも左右からも。


 体に強い衝撃を覚えた…… 私が後ろに飛ばされて、老人たちが庇うように前に出て来た。

 止めろ何をしている…… グレイ……

「さようなら、お嬢様」

 目の前で私より遥かに年上の老人たちが血飛沫を噴き上げた。

 私はあの老人たちによって庇われたのだ。


「いいや、まだ死ねん」

 彼らは自分の腹に深く刺さった、触手を手で掴み止めて見せたり、体を貫かれながらも剣を振り破壊した。

「お前らの死、絶対無駄にはせぬ」 

 倒れるグレイの背中から斬撃を放った。斬撃を遮るものは何もなく魔王へと一直線に吸い込まれていった。


「なに…… だがまだ手はいくらである」

 魔王は腰の黒刀を抜き迎撃に打って出ようと……


「俺の事も忘れて貰っちゃ困る」

 後ろの土壁が壊れ、魔王の背中に剣が突き立ったと同時に魔王は青い雷に包まれ、悲痛に満ちた声を上げながら足をよろめかせる。 

 追い討つように斬撃が到達し、魔王は袈裟懸けに斬られる。


 よし! 魔王に致命打を与えた。


「この程度で魔王イスカンダルを倒せるとでも? 随分と安く見てくれたな」

 やばい…… 絶対に何かが来る。


「我は負けない…… 我が負けてしまったら仲間達は何処へ行く…… 一度神に背いてしまった彼奴らの魂は何処へ行くというのだ。しかし我が生きている限り彼奴らは我が心の中に宿っている…… 家臣たちの思いも憎しみも無念も後悔も…… そして喜びも…… 全部が全部ここにあるのだ、だから我は彼奴等を背負っている限りは負けることなど許されない」

 斬られたローブの隙間から黒い影が蠢き、いつしか魔王から血が流れる事は無くなっていた。


「お前それは……」

 この力、見た事がある。


「お前たちの討ち取った我が友の力だ」

  そう言って魔王は地面を暗黒で包む。


 魔王イスカンダルを中心に六つの氷塊が暗黒から浮かび上がってきた。


 氷塊の中の者達…… よく見たら皆首がない。


「魔王幹部……」

 後方の兵士が騒めきに包まれた。

 なんとなくだが、物凄くやばい……

 剣を振り払い魔王の頭目掛けて斬撃を飛ばす。


「蛇龍メルクリウス……」

 首の無い、分厚そううな鱗に包まれた、氷塊に眠る大蛇が突如闇に包まれ消えた。 

 

 ローブから覗く魔王の体が、蛇のような硬い鱗に覆われ手には研ぎ澄まされた鋭い爪が生えてくる。

 

 魔王は私の斬撃を鱗で覆われた腕で受け止める。


「くっ、かなり威力を削がれたか」

 魔王は腕から血を流しているが、すぐさま影で修復できるほどの軽い怪我になっている。


「猿王チョーカイ……」

 全身を剛毛で覆われ、人の持てないような棍棒を片手に仁王立ちして眠る尻尾の生えた首なしの獣の氷塊が砕け散った。


 魔王の前にさっきの朱に染められた長い長い棍棒が突き立った。


 はや…… 

 

 魔王は棍棒を手に取り速攻で攻めて来た。離れていた私と魔王の距離が一瞬にして狭まった。どちらかというと人間に近かった体も、野性的ながっちりとした体になり腕も結構伸びている。


 重い……

 魔王の叩き付けを剣で受け止めるが、堪え切れず弾き飛ばさせてしまう。


「カレンちゃん」

 シュンが叫んだ。

「暗黒騎士モルドレッド」

 大剣と大盾を装備した、赤と黒のマントを羽織った、禍々しい黒い鎧に身を包んだ首なしの騎士の入った氷塊が黒き光に包まれる。

 

 体勢をよろめかせながらも、空中で斬撃を放つ。


「モルドレッドめ、こんな鎧を着ていつも戦っていたのか」

 魔王はローブを脱ぎ捨て、黒い鎧を身に纏った瞬間、鎧の隙間から漏れ出た、朱い(あかい)液体によって黒鉄は彩られた。


「だが不思議といつもより身体は動くな……」

 私の斬撃を大盾で防ぐ、と同時に盾に施された宝石で出来た目が怪しく光り斬撃を撃ってきた。

 

 弾き返されただと…… 私の体は地面に打ち付けられ何度か地を転がる。


 やばい…… こんな地に伏した状態じゃ受け止めきれない。


 私の剣技の切れ味は私が一番知っている。


 首根っこを掴まれ引きずられた。

「ふう、あぶねぇ」

 

 立ち上がって見てみると寒気が体を駆け巡った…… 地面をバッサリとあの斬撃は切り裂いている。


「感謝するぞシュン」

 奴にこの技をむやみやたらに撃つとかえってこっちが危険な状態に陥る。


 騎士共は皆魔王に向かって突進し、剣を交え、弾き飛ばされている。


「お前ら! 離れろ」

 剣にいかづちを宿したシュンが離れていく騎士をよそに魔王に斬りかかる。


「未熟な太刀筋だ…… 魔女ウェヌス」

 杖を持った老人のような肌を持つ首なしの死体が突如消えた。


 シュンの足元が闇に包まれ明らかにシュンの行動が遅くなった。

 

 やばい…… 彼奴死ぬぞ。

「無詠唱で術が使えるとは流石だぞ」

 体が勝手に動いていた…… シュンの脳天に降り注ぐ棍棒を陛下から授かった剣で受け止めた。


 重い…… 重い…… 潰される…… シュンの一撃がイスカンダルに向けて放たれたが、枷となる筈の鎧を着ていてなお空中に飛翔し、一回転しながら攻撃を躱した。


「やば…… 一瞬体の動きが遅くなった」

 シュンが声を上げる。


「目くらましや足止めなどの戦闘補助系魔法を得意とする魔女ウェヌスの魔術をあいつは使えるようになっていやがる」


「クソデバフ野郎ではないか」

 シュンは大きな声を上げて叫んだ。デバフ? なんだそれ。こいつはしょっちゅう帝国語の中におかしな言語を入れて来る。


「何が糞デバフじゃぁい、我の仲間を侮辱するのは万死に値するぞ」

 なんだ…… 何で此奴いま会話が成立した?


「軍師アレース」

 首が取られ、片腕が捥がれ、死して尚未だ軍配を握り続けている、赤い皮膚を持つ化け物の埋まる氷塊が闇に染まった。


「あれぇ? 何にも変わってないじゃん。ぷぷ……」

「煽るな。お前はそれが出来る立場か」

 シュンの頭に拳骨を喰らわせた。

 

「奴はその頭で幾たびも、古くから我を支えてくれたのもだ。奴の力、意志その他全てを我は受け継いでおるわ」

 魔王は棍棒を地面に突き立てシュンの煽り染みた疑問に答えた。

 

「さてそろそろ勝負を決しようではないか、転生者」

 剣を振り上げ、魔王に向かって突撃する。


「止めろシュン…」


「お前も日本から来たのかっ」

 シュンは手に稲妻を纏わせながら呟いた。


「悪魔タナトス」

 今までよりも一段と低い声で魔王は幹部の名を呼んだ。

 猿王にも負けずとも劣らない、巨大な体躯を持ち、肩からは大きな大きな翼を生やした首なしの悪魔のいる氷塊に魔王は手を触れた……


 魔王の肩回りから蝙蝠に似た巨大な翼が生え、体を宙に浮かせた。


「騎士王バベル」

 翼を羽ばたかせたまま棍棒を振り上げ体当たりをしてくる。


「シュン回避だ」

 世界が…… 地面が黒々とした陰に包まれ、そこに剣が突き立った。


 剣に阻まれ上手く回避が出来なかったシュンは魔王の体当たりをもろにくらい、尖った爪に腹を突かれ吹き飛ばされる。

「そんな昔の事もう忘れちまったよ」

 魔王はその化け物染みた巨体を浮かせながら呟いた。


 はぁ剣の上に落ちなくてよかった…… 例え柄の上だとしてもあの勢いで落ちたら、無事ではいられなかっただろうな。

 宙を大きく舞ったシュンは味方の騎士たちの集団に落ちて来た。

 

「やばい…… 化け物だ」 

 恐怖の線が切れたのか、騎士たちが魔王に背中を向け走り逃げ始める者も出る。


「お前は逃げぬのか? ミツルギ カレンよ」

 魔王は嘲るような口調で問いかける。


「私がここから引くときはお前が死ぬ時だ」

 

 大きく空から旋回して、私目掛けて突進してきた。


 重い…… 体が拉げそうだ…… このまま押し続けられれば後ろの剣に足を持ってかれる。

 初代皇帝の剣と猿王の棍棒、越しにお互いの力比べが行われている。


 互角と言いたいところだが、正直体がやばい…… それに魔王の籠手の付け根辺りから生えている鎧すらも容易く貫いてしまう爪が此方を刺し殺さんと伸びて来る。


 戦いは賭けだ…… 戦いの何処でそれに出るかが勝負を決する鍵となる。


 いけるか…… 剣を押さえる手を片手に変え、腰の剣を抜き、斬りかかる。


「やらせはせんわ」

 魔王は棍棒を押す力を弱め、黒々とした盾で攻撃を受け止める。


 これを待っていた……

 盾を蹴って、後方に飛び距離をとる。


 魔王は棍棒で追い討ちを掛ける。 ここを躱す……

 魔王は棍棒の邪魔にならない様に盾を引き、渾身の一撃を躱され、身を乗り出した状態になっている。

 此処しかない、今しかない。魔王は私の攻撃から逃れようと羽を動かし始める。


 両手の剣を空中で振り下ろす……


 魔王の両腕が鎧ごと切断され、剣が密集する地点に打ち落とされた。

 柄でもあの巨体には大きな傷になったであろう。


 魔王は息を荒らげる。

「なぁに、これは死していった仲間たちが大事に使っていた武器の数々…… 主君である我が仲間の剣一つも受けられなくてどうする」

 魔王の腕が鎧ごと再生する。

「今までに志半ばで倒れた魔王軍の仲間達よ…… 死して尚今一度我に力を貸してくれ」

 怪異と成り果てた魔王の体が闇に包まれる。


「メルクリウスの鋭い爪と剣のも弾く鱗、チョーカイの強靭な肉体と剛腕、モルドレッドの着る者の戦闘力を何倍にも上げる鎧、ウェヌスの全てに対応できる強化魔法、アレースの敵の戦術をも見抜くまなこ、タナトスの空を自由に駆け回れる翼、バベルの強者共を終焉に導いてきたつるぎ

 魔王の前に黒い黒い影が現れそこにシュンとの戦いでバベルが最後に使った大剣が突き立った。


「これで勝負をつける気だな…… 乗ってやろう」

 そういって私の眼前に二本の剣を突き立てた。


「お前…… その手は……」

 私は口角を上げ笑顔を作った。


「つい先日討ち取ったつわものが使っていた手さ」

 世界中に冷たく乾ききった風が流れた…… 日は陰り、草木は揺れに揺れた。

 後ろの街で大きな大火が上がる。


 お互いに睨み合いが続く…… 


「カレンよ、一つ我が家臣軍師モルドレッドの心理を読み取る眼でお前を見てやろう……」

 

 私の心に込み上げる、黒い黒いヘドロのような塊…… 耳がキーンと痛み、目にくり抜かれた様な激痛が走る。

 頭が痛い……


「お嬢様…… 私たちが悪かったです。止めて下さ……」

 木刀で男達をを絶命させない様にじっくりじっくり攻め続けている私。

 全身に痣が残るように、消えない痛みが体に残るように、拭えない心の傷を一生抱えるように

 親指を突き立て目に……

 笑っている…… なぜああも私は優しい笑顔をしているのだ。

「いいよ、先生達許してあげる」

 少女はまだ残るあどけなさとは裏腹に心ではこいつらを許してはいなかった。

 明るい表情になった彼らを一斉に撲殺していき、一人だけあえて残し、甚振り続ける……


 幼い頃からそうであった…… 虫かごに入れた虫を揺するって虐めるのに楽しみを感じてしまっていた。

 大切にしていた人形が誰かの手によって引き裂かれているのを見て感動してしまった。


 そしてそんな自分が怖かった…… それから自分の狂気がいつ暴走してしまうのかと毎日毎日恐怖を抱いていた。

 私を殴った父親が戦場に向かっていった日、痣まみれの、青紫色をした私は神に祈ってしまった…


『いつか父をこの手で殺す機会を……』

 

 私は怖かった。こんな私が力を持ってしまったことが、こんな私が清く正しい騎士をやっていることが。

 だから私は無理にでも女らしくあろうとした…… でもそれだけじゃ駄目だっつた。

 毎日毎日心の中で何かに祈り、願い続けた……

 戦場に行かせてくれ。 もっと殺したい。 もっと、もっと人の最後が見たい。誰か私に殺されたいものはいないのか……

 怖い…… 助けて…… 誰か…… 誰か…… 誰か私を……



「ほおう。面白い考えをしとるなぁ。まるでバベルだ。彼奴は人間であった頃から自分の心の中の狂気を日々抑えられずに苦しんでおった。そして私に勝負を挑んできた。 ————為にな」

 魔王は剣を取り私に向けた。


「さぁ勝負の幕引きだ。暁のワルプルギスももうしまいじゃ」

 魔王は何もないところで剣を振るった。


 え…… 魔王の剣から斬撃が走った。


 すぐさま、地面に刺さった剣を抜き斬撃を受け流す。


「私の能力は2つある。他人の能力をコピーし、そして我の能力を他人に付け継がせることが出来る力だ。よく聞け、騎士ミツルギ カレンよ。私の本当の名前をお主に名乗ってやる」

 魔王はまた斬撃を放つ……


「ミヤノ シンジだ」

 斬撃を受け止めるが、剣を纏った地面が茨状に暴れくねり私を追い込んでくる。


「そうか…… 魔王イスカンダル、いやミヤノ シンジ…… お前もやはり日本からの転生者だったのか」

 腹から血をダラダラと流しながら、シュンは体をフラフラとさせながら立ち上がる。


「いかにも小僧よ、私は日本で会社員として真面目に働いていた…… しかしある時、その会社の出世頭のミスを新人である私に押し付けられ私は入社1年と経たない間に会社を辞めさせられた。そして高卒である私に再び手を差し伸べてくれる会社など無かった…… そして私は樹海に身を投げた…… そしたらここにいた」

 何言ってんだこいつ? 

 魔王は標的を変え負傷しているシュンに向かって茨を放った。


「そうか…… 俺は自分からも学校からも逃げて逃げて逃げまくった結果、自分が嫌になり、ある時…… 試しに部屋で首を吊ってみた…… 目を覚ますとそこに俺のいた世界は無かった」

 シュンの方の茨状の棘に向かって斬撃を放ち破壊する。


「ミツルギ カレン、相手にとって不足なし、いざ!」

 魔王の振り下ろした剣を躱し、一刀かまそうと剣を振るう。

 剣を突刺し盾代わりにし、棍棒を取り横に薙ぐ……

 棍棒を飛び上がり躱し、腕に向かって斬撃を放ち両断する、刹那……


 魔王のもう片腕が腹に突き刺さる…… 痛い、痛い、熱い、熱い。

 腹が刺し傷の辺りが燃えるように熱い。


 まだ…… いける……

 剣を腕に突刺し、初代皇帝の剣で爪を切断する。


「とったぞ」

 魔王は口に灼熱の焔をチラつかせ、私目掛けて放った……

 爪が腹に残っている。痛い、痛い、体が思うように動かない。でもいける!


 後一撃なら……

 刺突の体勢で剣を構えて炎の中に突っ込んでいく。


 先駆けの斬撃が炎を切り裂き、初代皇帝の剣が魔王の中心に突き立った。

 魔王は失った腕の回復を諦め、爪を回復させ、横っ腹に向かって刺してきた。


「どうやら刺し違えてやることは出来なさそうだな……」

 魔王は痛みに堪えた声で私に向かって言い放った。


「いいや、それはどうかな? やれシュン」

 後方でフラフラしているシュンに言い放った。


「でもこれじゃぁ、カレンちゃんも……」

 意識がやばい…… 血を流し過ぎている。魔王の爪はドンドンと体の奥深くに入り込んでくる。


「私の事はいい…… お前はこの戦いを始めた者だ、ならばしかと責任を取って……」

 私を……

 この男の口車に乗せられるふりをして、グレイを、彼奴らを殺してしまった私を……

 

 どうかこの私を……


「分かった」

 シュンに背を向けている為、彼奴の顔が見えない。いまあいつはどんな顔をしているんだろうな。

 きっと泣いているだろう。彼奴弱いしな……


「小僧、私を倒していいのか? 例え持つべきものに生まれ変われるとしても、あの辛い辛い現実に戻りたいのか? 人間だった頃の私は先代の魔王をの生殺与奪権を握ってしまった時に気が付いた。 どうしてこの世界の転生者は皆魔王を殺さないと思う? それは皆この世界で満足しているからだ、この世界には全てがある。望むものは自身の力で大抵は手に入る、俺たちは満ち足りているのだ、俺たちはあの怖い世界を知ってしまっている、だから体があの世界に帰るのを拒んでいる。だから俺は魔王になった」


 世界が光を失い。薄暗く、淀んだ世界になった。

 

  魔王は、地面を動かしそれを防ごうとする。やらせない…… 突き刺さった剣を横に薙ぎ内臓を残された力でかき回す。


 黒雲からそれが落ちてくるまで一瞬だった。



 体に今まで感じたことも無い衝撃が走る。


 世界が光に満ち溢れ、輝きを取り戻した。空は晴れ晴れとし……


 やっと私の願いが叶う…… やっと私は死ぬことが出来る……


「それでも尚戻りたいと申すか? お前の望んだ異世界とは何だ? お前の望んだ転生とは何んだ?」

 魔王は消えそうな声で呟いた。


「お主名を……」


 長年待ち続けた……


「・・・・・・」


 ―――私を殺してくれる人を……

 

「太田隼だ」


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 その時この世界から二つの命が消えて亡くなった。

 騎士ミツルギ カレンと 魔王イスカンダルこと転生者、宮野 真司は絶命した……


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