力を下さい……
シュンの能力ってこんな都合よくいくものなの?
この地形的に、カレンちゃんをフレンドリーファイアしそうなんですけど……
体よ、動いてくれ…… 出ないと彼奴が死んでしまう。
あの剣に触れてから体がどうもおかしい…… 噂には聞いた事があるがこれが持ち主以外を拒むと言われている呪印の施された剣なのか?
敗因は父の剣であったか。
丸腰の彼奴がどうやって戦うというんだ。どうか私の事は気にせずそのまま逃げて欲しい。
遠の昔にもう神には祈らないと決めた、我が帝国には神など存在しない。天の将軍は戦う者にしか、その加護をもたらさない。
そしてどうだこの様、私は戦うことをもう諦めている。
これでは…… ダメだ……
ありったけの力を全身に込める。
もういい、どんな醜態をさらしても私は戦う……
「おい、バベルまだ私は戦えるぞ」
大きな声が出せない。
やばい…… やばい…… 私の剣とはこんなに重かったのか、鎧とはこんなに重厚なものだったのか。
体が押しつぶされそうだ。
視界がぼやぼやする。
平原の遠くに行ってしまった、バベルが此方を見て振り返る。
「御美事也! 人であるお前はまだ戦おうとするか」
この野郎…… ゆっくり歩いてくるなよ。
剣を地面に突刺し、歩き……
一瞬意識を失っていた。あの鉄仮面が歪んで見える。まだ死ねぬ。
「どうした、ホラホラ我に掛かって来いよ。早く斬りり込んで来いよ」
くっ、止まるなよ。バベルの肩回りに黒い影が出来て手が再生する。
足がもつれる。
もう無理だ、せめて後一太刀。後一太刀だけでも、そうそれで私の願いは……
いやまだ叶わなさそうだな。
これが最後の力だ……
大きく一歩を踏み出し、足を縺れさせながら今出せる全力をもって剣を飛ばす。
「あとは…… 頼んだぞ……」
地面に打ち付けられる。もう力すら入らない。
剣はバベルの上を行き、バベルの後方に突き立つ。
今の私よりは奴の方がよっぽど戦力になるか…… あんま変わんない気もするけど。
「ああ任せられた」
落ちた剣を手に持ち、地面ごとバベルに斬りかかる。
バベルの鎧にその一刀は弾き返される。
「ふっ、いつまでもつかな」
展開は明らかに押されている、奴が地面の剣を使いだしたらシュンお前は終わりだぞ。
「知ってるか? 俺のいた国の男子は皆妄想の中では百戦錬磨のチート使いなんだぞ、うぁちょっと待って」
ああこんな時にもそれか……
「必殺! リュウサンバクダン」
バベルの鉄仮面に向かって丸い陶磁器が投げなれる。
ああなんか私たちが忙しくしていた時に何やら新兵器開発とかいってやってたな。
地面の剣を抜き、二刀になった状態で丸い陶磁器を両断し、もう片方の剣でシュンの一撃を防ぐ。
シュンは身を捩らせて、バベルの後ろに出る。
「逃げるぞ、カレン」
止めろ…… 止めてくれ…… その手を向けるな。全身に寒気が走る。
そそくさと私を持ち上げ、逃げようとしたとき……
「重っ」
私はまたしても地面に打ち付けられた。おい、女の子である私にそんな事をゆうな。しかも戦場で。
「後ろ……」
振るわれた剣戟をシュンは受け止める。
「……もういい、私は捨て置け」
「俺はなぁ」
私に背中を向けて、バベルと対峙しているシュンは大きな声を上げる。
「前いた場所で大した努力をしてこなかったんだよ、大した努力もしてないくせに万策尽きたような口ぶりで無理だった理由を語り出し、すぐさま諦め、その癖あほみたいな大きな大望を抱いて、持つべきものに嫉妬し、持たざる自分に失望して。いつもいつもいつも逃げる事しか考えていない自分が嫌だったんだよ。それでも俺は変われなかった、いや歳を重ねるごとにそれはもっと酷くなっていって、現実から身を背け、閉じこもり、俺は俺を諦めちまったんだよ」
ふっ、此奴らしい話だ。
「そん時に俺は毎日毎日思ってたんだ……」
「小僧、なげーよ」
バベルは連続攻撃をシュンに仕掛けた。
シュンの鎧がどんどん削られていく。シュンの右腕から血が漏れて出た。
「もう… い…… い……」
『異世界に転生したら絶対本気を出すと』
シュンからダガーナイフが放たれる。
ダガーナイフはすぐさまバベルに撃墜される。と同時にシュンの大振りの横薙ぎが鉄仮面に向かって放たれる。
奴の仮面が割れ……
「うっ、化け物だな」
もうそこには顔は無く、影のようなゆらゆらするものの中に目だけがギラギラと輝いている。
「そうだ、何か文句でもあるかぁ」
シュンに向かって蹴りが放たれ、突き飛ばされる。剣が手から離れる。
剣を取ろうとした這いずっているシュンの手に鋼の纏った足が落される。
「お前を殺すのは止めだ、お前の前でこいつを殺すとどんな反応をするのか楽しみになってきた」
バベルは剣を引きづり私に向かって近づいてくる。シュンよお前はよくやった。それに私の願いももうすぐ叶う……
「止めろ、止めろ」
シュンはバベルの足にしがみついて少しでも時間を稼ごうとした。
「お前は… 逃げろ……」
シュンに向かって微笑んだ。彼奴男の癖に泣いているな。
「決めたじゃねぇか、俺」
バベルの足が止まる。
「力が欲しい…… ダメだなこれじゃ、まーた他人を頼っちまった」
剣が振り上げられる。これで全てが終わりだ…… 目を閉じる。
目の裏には、屋敷の皆々、親友達、皇帝陛下、そして私の……
「言ってたじゃねぇか、異世界行ったら、本気出すって。もう諦めないって、欲しいモノ全て手に入れて、守りたい者全てを守るってぇぇぇ」
剣の降りて来る音がする。
「・・・・・・」
―――オオタ シュンさん貴方のその一途な心に免じて力を授けましょう。
世界に轟音と共に新たなる祝福が授けられた。
目を閉じていても分かる、奇跡が舞い降りたのだと。
恐らく騎士としての本能的なものだろう、突如大きなものの存在を感知したバベルは大きく後ろに後退して距離を取る。
シュンの手が青白く幻想的な色に輝いている。
シュンはダガーを放つ…… 地に落ちている私の剣を抜き、ダガーを打ち落としたバベルに一撃を加える。
剣と剣が重なり合い、何故かバベルが地に膝をついている。
バベルにダガーを突刺し、距離を取る。
「小僧、何処でその力手に入れた。その力…… 魔王に似ているな」
剣を投げつけシュンから距離をとる。
「この場所だとどこに逃げても俺の力の射程内だぞ」
間合いを詰めて来た、敵に向かってパチパチと音を立てる青白い光を放つ。
光は刺さってダガー目掛けて一直線に進む。
原因がこれかと、バベルは刺さったダガーを投げ捨てる。
「もう一度忠告しておく、この場所だと何処にいても危ないぜ」
地面が闇に包まれ、剣が皆消えていく。そしてバベルの前に大きな大剣が突き立つ。
「これを待っていた…… こーゆシュミレーションは完ぺきなんだぜ」
シュンは手に宿していた光を空の黒雲に向かって放つ……
「楽しいぞ、楽しいぞ、こんな感情は魔王と戦った時以来だ。嬉しいぞ、世界はまだこんな強者に満ち溢れているのか、さぁ幕引きだ」
突き立った剣を抜き、距離を一気に詰めて来る。
————世界が光に包まれ、轟音が轟き、落雷がバベルに向かって落ちて来る。
……しかしシュンの雷は外れた。
「我勝機見えたり」
バベルの剣がシュンの頭に……
落ちた電流を自分の手に引き付けると、剣に宿らせ大きく横に薙いだ。
―――勝負が決した。
鎧に身を包んだ大男が大地に伏した。
シュンの手から光は消え、剣を地に突き立てた。
「カレンちゃん、大丈夫ですか……」
男が怖い…… 夜寝ている時もそうだ、どうも体を地に預けている時が一番怖い……
「肩を貸してくれ、今なら何とか立てそうだ」
シュンの肩をかり、立ち上がる。
「やっぱ、重い……」
こいつさっきまでは魔王軍の幹部と渡り合っていた癖に。
「ワレハ…… マケタノカ……」
闇に覆われた顔が消え、隻眼の屈強な中年の戦士の顔が現れる。
「そうだ、お前は負けた。お前の負けだ騎士王」
騎士王は夕空を見上げた状態で倒れている。
「コレガ…… ハイボクカ…… イイモノダ…… ホントウニイイモノダ…… ヤッツトオレニ…… シガ…… オトヅレ…… ル……」
バベルは黒い黒い炎に包まれる。
バベルの最後の言葉が何故か私の心に靄を残した。
「カレンちゃん、魔王攻め続ける?」
シュンが優しく呟いた。
「何を言っている続けるに決まっている。お前も魔王を倒す必要があるんだろ」
街の方から騒がしい声がする。
「おいおいどうなった、さっきここらに雷が落ちたよなよ」
「無事か、カレン」
父親の戦友の老人が私とシュンの近くによって来る。
そして続々と皆が駆け寄ってくる。
「あの化け物をやったのか?」
皆が声を上げる。
なんだよ、なんだよこいつ等、退けと言っただろうが…… 夜まで待てと言っただろうが。
「お嬢様ご無事ですか、それにシュンまで」
グレイは声を上げる。
「ああ何とかな…… 全部シュンのお陰で何とかなった」
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その日はこの場所で野営を取り、次のに日手薄だった魔王城を襲撃した。
魔王城の城門が徹底的に破壊されており攻め込むのは簡単だった。
「うぁ~ えげつない手を使うなぁ、騎士としてそんなことするのはありなのかよ」
シュンはいつもの口調で呟いだ。
「人にはこんなことはしちゃ、いかん。でも相手は人じゃない」
魔王城を攻めて、一兵卒を捉えて、食料庫に案内させ略奪出来るだけして、そこに腐った牛、馬や排泄物を投げ捨てさせた。
財宝庫も荒らし回り、撤退し、城を包囲した。
この城は入り口が2つしかない、だからそこを封鎖すれば勝手に敵が滅んでいってくれる。
父の戦友、軍師ドルドレの策だ。
あれから二週間、最初の方は城から敵が一斉に飛び出て来たが最近は全くもって出てこない。
急に風が強くなり、冷たい風が吹き荒れた。
————世界が黒煙に包まれた。
城門から大きな獣のような角を生やし、装飾に富んだ黒いローブで身を包んだ化け物が姿を現した。
「総員……」
私の周りにいた者の首が飛んだ。




