拭えない罪
あと2話くらいで終わる予定。
「嬉しいぞ、お前らのような馬鹿共が未だに世界に存在してくれて」
剣を抜き、首を刎ねる…… 敵に振る時間さえ与えさせない。
「本当にこうもいるとはな」
見渡す限りの
人外、人外、人外、人外、怪異、怪異、怪異、物の怪、物の怪、そして化け物。
奴らに非戦闘員など何処にもいない、装備なし、武器なしでも驚くべき力と生命力を持っている。
ああ何人か奴らに喰われるのを見たよ。
「未だに世界は狂気で満ち溢れている」
昔から願い続けた、幼き頃から祈り続けた、剣で全てが解決できる世界がここにはある。
敵の槍を躱し、巷にもたまに出てくると言われる豚型の妖精、ベムトに向かって剣を振り下ろす。
「逃げる者は殺せ、立ち向かってくる者は殺せ、目に入る人間以外のものは敵だ」
横合いから突き殺そうと距離を詰めて来る、ベムトに突きをかます。
「グレイ、やれ」
私の前に飛びかかってきた緑色の皺くちゃな老人のような子供の背丈くらいのの化け物、ガルフを横合いからグレイが斬り殺す。
「お嬢様、御大将自らこの様に先行し過ぎるのはよくないかと」
「いいや、ここで私が戦っていないと被害が増すばかりだぞ」
男の癖にこんな魔王軍の先兵に突き殺されるものだっている。
「うぁ~ あそこにゴブリンがいるぞ、あっここにもコボルトが」
何故だかこいつは戦場で身の危機が迫らないということに安心して、はしゃいでいる。
うっ、私とグレイで大抵は勝負がついてしまうからな。
「お前もちょっとは戦えよ、おいおい確か詰所で行ったよな俺が魔王を倒すだのどうだの」
で現実はどうだ…… 剣の能無し…… 才なし、力なし、指揮も出来ない、腰巾着としても使えない。何で私はこんな奴の口車に乗せられたんだろうか。
はぁ。溜息が漏れ出てしまう。
「この氷塊はなんだ? 中にコボルトが入っているが」
街にはダークフレイムマスターの所業の爪痕が至る所に残っていた。
試しに……
氷塊に向かって剣を薙いだ。
硬い…… 中のベムトごと氷塊の両断に成功したが、これはそう何度も出来る事じゃないな……
「お嬢様、遂に正規の軍が来たようですな」
街の屋根に上って私たちを撃ち殺そうとしてくる弓兵、そして弓で怯んだところに押し寄せてきそうな化け物の突撃兵。
思ったより数が少ないな。
「カレンちゃん、どうするのこれ。このままじゃ撃ち殺されちゃうよ」
「我が家の従者がそのような事で騒ぐな」
うろたえているシュンに向かって一括する。こんなことで此奴の恐怖が皆に伝染していったらそれはもう終わりだからな……
「総員待機だ」
一人軍から突出して弓兵たちが登っている家々の方に歩いていく。
矢が放たれる…… そんな空に向かって撃ち上げるような打ち方じゃ当たるわけがないだろうが。
―――私に向かって撃ってこい。
弓兵に挑発をした。引き絞られる弦の音……
まだだ…… まだ歩みを止めない。
まだだ…… 射程にまだ入っていない。
いまだ!
私の剣が空を薙いだ。家々の屋根に位置する弓兵たちが一斉に鮮血をまき散らす。
世界には稀に稀有な能力を使える者がいる。それは魔術であったり、妖術であったり……
魔王軍の幹部も、ライヒのあの男もこの種の者であろう。
それに私達ミツルギ一族も古来からこの特殊な能力を使い帝国に貢献してきた。
私たちが帝国で特別扱いを受けている理由…… それは私達一族にしか使えないこの術を持っているからだ。
ある程度の射程までなら斬撃を飛ばすことでどうにかなる。
「カレンちゃん前っ」
大蜘蛛か……
剣を頭上で構え、振り下ろす。
「これではまだ死なぬか」
剣で空に向かって刺突する。
大蜘蛛の眼が潰された。
「お前もお前でしぶといな」
鎌のような脚での攻撃を剣で受け止める。
「グレイ!」
蜘蛛の顔に剣が突き刺さった。蜘蛛は気持ちの悪い体液を噴き上げながら絶命した。
「つえええ」
シュン以外にも私のこれを始めて見た者達は唖然としている。
「お父上様に似てきましたな」
父親の戦友である老兵たちはどうやらこれをもう幾たびも見ていたようだ。
後方の化け物共が主力である蜘蛛を止められて足を止め後ずさりするものも現れ始める。
剣に付いた気持ち悪い液体を振って落とし、斬撃を飛ばす。
「さて、総員戦闘準備、一気に押し倒せ!!」
戦士たちは皆後方に位置する化け物の軍団に飛びかかっていった。
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街を抜けた先の城との間にあるただ背の低い草が生い茂るだけの平原。
「ふっふっふっ、お前が我の待ち望んでいた敵か……」
両方向から同時攻撃で攻めて来る人狼、ボルフを斬って落とす。
「主命だ、お前らは退け」
化け物の軍勢を討ち破り、逃げた者の追撃戦と城への進撃を開始しようと街を抜けた先にほぼ単騎で草原に立ちふさがっている重厚な鎧に身を包んだ男が現れた。
「この国もそろそろ潮時だな…… どうだ奴らの処理はちゃんとしといてくれたよな?」
鉄仮面で身を包んだ、男がそう呟いた。
この男はやばい…… 多分数をモノともしない…… 一人で一国を落とせると言われている魔王軍の幹部の生き残りだ。
こいつが二十から三十人を斬り倒しただけで全てが覆ってしまう。
「もう一度言う…… お前らは退け、そして夜になっても私が戻らなければお前らは帝国に帰れ」
こいつはほんとにやばい…… やばいぞ…… 魔王幹部は全員死んだのではないのか……
「グレイ、あとは任せたぞ」
「お嬢様、どうかご無事で……」
彼奴も昔は父と肩を並べ、父の右腕として戦った男だ…… まぁどうにかやってくれるだろう
私の後ろで軍は退いていく…… 奴も追い討つ気はないみたいだ。
「ほう、我を数で押し殺せば勝てたかもしれないものを…… 部下思いな主君な事よ」
皮肉めいた口調で敵の将軍は呟く。
「名乗れ、お前は魔王軍の何者だ」
「魔王軍幹部、騎士王バベル」
数百年前から各国の戦場に突如現れ、負けている方の味方をして戦況を覆して去っていく、戦場の渡り鳥、騎士王バベルだと……
「アドミラ帝国、ミツルギ家当主、騎士ミツルギ カレンだ。なぜおまえによって救われた国々から騎士王と称されている救世主がこんな魔王軍なんぞに身を置いている」
騎士王は大きな声で笑い始めた。
「ほう彼の高名なミツルギ家の当主様か…… なぜここにいるかって? それは簡単だ。私は永久に戦いがしたいのだよ。だから所属なんてどこでもいい、だから俺はここにいる。それに魔王とは古い縁もあるしな」
騎士は剣を抜いた。
「そしてお前もだシュンなぜお前も此処にいる。去れ」
皆が撤退する中、何故か撤退しなず、一人そこに突っ立っている者が居る。
「俺はこの戦いを始めさせたものだ、だから見届ける権利も義務もある」
こいつはどれだけ言っても動く気はなさそうだな……
やばっ……
バベルはいきなり間合いを詰めて攻撃に打って出て来た。
重い…… 重い……
剣と剣がぶつかり、鋼がこすれ合い大きな音を響かせる。
「どうしたミツルギ家当主よ」
身を低くして足を狙う。降りて来る剣戟を回避……
強い、強い。
中々私の剣技を使うには、ちょうどいい間合いにならない。退こうにも距離を詰めて来る。
どうする…… どうすれば……
「小賢しいわっ!」
バベルの横っ腹に剣が振りかざされた。こんなことは人間の騎士との戦いで起こってしまったら一生の恥だ、しかし敵は人間じゃない。
「でかした、シュンよ」
「俺の作った隙をちゃんと上手く使ってくれよ」
そんな事を言いながら冷汗でいっぱいだ、やばいあいつは死ぬ。
シュンの体に刃が通りそうだ……
後方に大きく後退し斬撃を飛ばす。
間に合ってくれ……
ガキーン
鋼と鋼がぶつかり合う音がした。シュンを諦めバベルはとっさに私の斬撃を防いだ。
「そうか…… この剣術昔戦場で見た事があるな……」
「そうだ、騎士王バベルよ。いや、我が父の仇魔王軍幹部バベルよ」
私がまだ十歳のころ父は戦場で亡くなった。
帝国とまだ国とすら呼べない大きさであったライヒとの小競り合いだ。
その時帝国中は我がミツルギ家が出陣するということで勝利を確信していた。
———しかし戦場に悪魔が、騎士王が現れた。
そこで父は帰らぬ人となった。父の遺体はライヒの人間に奪われ晒首にされた。
「そうか…… 女だと侮っていたが相手にとって不足なし。なぁミツルギ家当主よ何故我がここに突っ立っていたかわかるか」
騎士王は闇に包まれた…… いやこの地全体が闇に包まれた。
闇の中から浮き上がる沢山の剣…… 業物から錆びた剣まで。
瞬く間にこの草原に数多くの剣が立てられた。
「では続きをやろう」
そういって騎士王は手に持った剣を飛ばした……
周りに剣があって回避行動がとりにくい。
斬撃を飛ばして剣を迎撃っ……
騎士王は一気に丸腰で間合いを詰めてきて、近くに刺さった剣を抜いた。
剣があって動きが制限される。
騎士王はすぐさま剣を刺し、また新たな剣をとり連続攻撃を仕掛けてくる。
「一つここで言っといてやろう、お前は俺を仇なんぞとは思っていないな、お前はそんな目をしていない。どちらかというと我に似た目だ」
くっ……
何でだよ…… 何で今ここであの光景が出てくる。
幼い頃の自分…… 子供相手に本気で剣を振るってくる父親。それはお家がお家だし、しょうがないと割り切っていた。
「お嬢様…… 剣だけではなく貴方に女というものを教えて差し上げます」
親父の部下の屈強ないろいろな流派の指導係数名の木剣によってボロボロに、痣まみれにされた私。これも稽古だからしょうがない。何故だか体が余り上手く動かない、立ち上がれないでもないが……
うっ、頭が痛い。
「カレンちゃん、やばいって」
剣が頭上に落ちてきている。やばい。
「ほうこれを受け止めるか」
透かさずあいた手で地面の剣を握り腹に向かって…… ああ、やばい死んだな。
―――腹に剣が突き立った。
あれ、私のじゃない。
「小僧、まぁだ邪魔をするか」
シュンが騎士王を後ろから刺していた。
あー、なんだ彼奴案外頼もしい男じゃないか。
突刺したまま抜くことも忘れ、丸腰で離れていくあの不思議な男……
透かさず蹴りを腹に入れ、その衝撃で後退して斬撃を飛ばす。
騎士王の左腕を切り落とす。
いまだ…… 剣を握り締め一気に間合いを詰める。
「戦場は、戦争は楽しいか? お・じょ・う・さ・ん」
頭が痛い、頭が痛い…… なんでこいつを前にするとこうも過去の事が蘇ってくるのだ。
気色の悪い目で、私を見下げる男共。気持ち悪い、止めてくれ、助けて、誰か……
「その眼に最後に映ったものは何かな?」
片腕で此奴何でこんな力が出るんだ。
剣が飛ばされる…… 陛下から貰った剣を早く抜かなければ…… いいや、間に合わない。
……そうか。
「この地を上手く使えるのはお前だけの専売特許じゃないんだ」
地に刺さっている見覚えのある剣に手を……
鉄仮面越しにも分かる、目の前の男が不敵に笑った。
……私は地に伏せていた。あれ立ち上がれない。力すら入らない。
ああこの剣父がよく使っていた剣だ…… 父の剣が私の眼の前に鎮座している。
このまま死ぬのか、あんまりいい人生じゃなかったなー。
こんな時にもあの忌まわしき光景が出てくるのか……
私に手を伸ばし、服を引き裂こうとする、もはや先生とは呼べない男共、必死に足掻いたさ、足掻いて足掻いて…… どうしたんだっけ? 今までこんな夢を何度も見たがこの先の光景が出てきたことはない。
ああ、そうだった。最後に掴んだのは木剣だった。
―――そして気が付いたら、周りの男たちは血を流し死んでいた。
父のお気に入りの剣術家達だったため烈火の如く怒られたんだっけなー。それで一度、本当のことを何も知らない父にボコボコに死ぬほど剣で殴られて……
父は戦場に向かっていった。
私は醜くも一度だけ祈ってしまった。神に……
それで父は帰ってこなかった。
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剣が頭の上で止まった。
「我が剣は人間に持つことは許されない……」
そこで見ているといいと言わんばかりに地に伏している私に背を向けた。
「お前は後だ、騎士として敬意を払い、あとで殺してやる。まずは騎士として、今まで守り続けて来た背中に傷を負わせた、彼奴からだ」
止めろ…… でも手も足も動かない。
あいつは弱いからきっとすぐ死んじゃうんだろうなー。
訳の分からない奴だったが、面白くて、いい奴だっだな。




