自分の気持ち
感想をくれたり、他の作品も見てくれるとありがたいです。
「ほらどうした、早くそこにある木剣を持って掛かって来い」
やはり私は選択を誤ってしまったのかもしれない。
「まだまだ」
目の前の最近私の従者になった男は離してしまった剣を取り、私に襲い掛かる。
空振り下ろされた、何の工夫も技巧も凝らしていない一刀を受け止め弾く。
ただただ無機質な心も籠っていない男の乱打を短刀でさばいていく。この服ではいつものような立ち回りは出来ないな。
いまだ……
男の腕に怪我をさせない様にと軽く剣を振り当て、剣が落ちたところで一気に間合いを詰め喉元に切先をちらつかせる。
「これでよく魔王と倒すと言ったものだ」
男はもう息を切らせている、情けない。これ以上の手合わせは無理そうだ。
男の持つ木剣と天と地の差くらいある短い木剣を机の上に置いた。
「ほんとに情けないぜ…… ドレスを着ているカレンちゃんに負けるとは」
最近我が屋敷で執事件道化として拾われた、背広に身を包んだシュンは地面に寝そべりながらそんな事を言った。
「あっ、パンツ見えたかも」
シュンを踏み殺してやろうとしたとき……
「グ、グレイさん冗談ですよ、冗談」
グレイがシュンの襟首を掴み無理に立ち上がらせた。
「お嬢様はこのお年を迎えても男に触れた事の無いお方であります。なので冗談でもそのようなことを言うのは感心いたしませんな」
おいグレイよ私を馬鹿にしておるのか? 私だって彼氏の一人や二人…… ひとりや、ふたり、うむそんなものはいなかった。
私だって危機は感じている、23にもなって男に触れたことも無いなんて。友達や家ぐるみで付き合いをして来た者達はもう結婚しているのに。私よりも年下の娘でも、もう子供を産んでいる人だっているのに。
私の日常にはあの下賤な男共しかいない…… 従者に手を出すわけにもいかないそれに休日は無いに等しい。
「……でグレイここに来たということは準備は整ったということなのかな?」
グレイは深々と頭を下げた。
「ユリウス皇帝陛下との謁見の許可も降りた次第にございます」
ハザマ ユリウス皇帝陛下、初代皇帝から十八代目に当たる皇帝。他国からは戦ベタと言われる皇帝だが決して愚か者ではない。民からは慕われ、偉大なる皇帝と称され、そして稀代の外交上手な皇帝である。ライヒ王国もその皇帝の策謀にハマり現在思うように帝国との主戦場に兵を送れない状態に陥っている。
私は父に剣を習っていた陛下に幼い頃面倒を見て貰い、娘のように可愛がっていただいた。
今は私よりも二つほど年上の陛下の嫡男と、私より一つ年下の長女である姫君にに最低限の剣を教えている為、月に数回王城に出入りをしている。
その為年に何度かだが皇帝に御子息たちのご様子をお伝えするために会う機会がある。
「参るぞグレイ、それとシュンついてくるのはいいが。礼儀はしっかりとさせろよ。グレイちゃんと此奴に作法というものを教えておいてくれたか?」
「はいその辺はラクターにしっかりと教育するよう仰せつかっておきました」
ラクターか…… 彼は一時期帝国の外交員だったため、帝国以外にもその他国の作法を熟知している、ただこの男も戦場で交渉にあたっていたため、幼い頃に父の命あって作法を教えられるときに劣化の如く指導されたのを覚えている。
「ああ、ばっちりだぜ」
そういってシュンは身震いをしている。こいつもこっぴどくしごかれたのだろう。
「じゃあ行くぞ」
馬車の留めてある方に足を向けた。
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「ご機嫌麗しく、ユリウス陛下」
ドレスのスカートの裾を掴み深く一礼する。
「おお、カレンであるか。で、今日は何用で。もしや我が子の剣の成長の報告か?」
手を胸に当て騎士としての敬礼をする。
「本日はそのこともありますが、また別のお願いしたいがありここに来させてもらいました」
「なぁグレイさん、真ん中のがユリウス陛下だとして。両脇にいるあの男と姫君はだれだ」
後ろでシュンが小声で話している。もしこれが殿下のお耳に入りお機嫌を損ねられたら……
「皇帝より向かって左に居られるお方が、皇帝の嫡男である今はアルター殿下で、その逆に居られる、姫君が皇帝の唯一の御令嬢息女セレネー姫で御座います」
「ああカレンちゃんは確か二人に剣術を教えてるんだったよな」
皇帝の後ろに立っておられる、御2人は私を目にすると手を振ったりしてくれた。
「なんだ申してみよ、我が娘の申す事なら可能な限り叶えてやるぞ」
いつにもなく、皇帝陛下が輝いて見える…… 貴方の娘は今からとんでもない事を申し上げてしまいますがどうかお許しください。
「陛下直々の魔王討伐の許可を…」
陛下だけでなく姫君や殿下、そして周りを囲む衛兵までもが顔色を変え、騒めき始めた。
「カレンどうしてそのような事を」
アルター殿下が声を上げた。
「訳を申してみよ」
ユリウス殿下が頭を抱えながらそう呟いた。
「ただいま東の戦場は我が帝国が少々押されております。それに数か月前に彼の王国の戦士に魔王軍の幹部の大勢討ち取られた事件は存じていますね」
陛下は静かに頷いた。
「私は幼き時よりずっと考えておりました。女である私がこの帝国の役に立つためにはどうすればよいかと。この帝国の刃と呼ばれた『ミツルギ』家は今一度どうこの帝国に貢献することが出来るのかと。そして私の中の答えは見つかりました。女であるこの私が彼の戦士でも倒すことの出来なかった魔王をこの手で屠り、彼の国の武名を失脚させ、帝国ここにありと今一度各国に名を広めるのです」
セレネー姫は酷く悲しい今にも泣きだしそうな顔した。
「私はカレンが居なくなると寂しいです」
「姫様、貴方はもう立派に剣を振るえるようになりました。もう私の教える事は何も御座いません…」
皇帝陛下は大きく頷いた。
「カレン…… 其方のこの帝国を思う気持ちはよーく分かった。儂も正直彼の国がこの帝国の真似ごとをして名を馳せるのを恐れておった。しかし今は魔王領に軍を送るほどの余裕はない…… 其方に命ずる、死んでは許さぬぞ、必ず生きて帰って参れ。勝てぬと思ったら逃げて参れ。其方なら出来るかもしれない…… カレン、魔王の息の根を止めてこい」
膝をつき、深々と地面に頭がめり込んでしまうくらいの礼をした。
「父上…… それではカレンンが……」
「黙れアルター覚悟を決めた騎士の邪魔をするな」
今まで陛下の怒鳴り声など聞いたことは無かった……
「このミツルギ カレンしかと魔王の首をこの帝国に持ち帰って参ります」
涙ぐまれるお二方とは違い、陛下は口元を少し弛ませておられた。
「それとカレンよ、少し王城で休んでいけ」
陛下は悪戯をする子供のようにニコニコしながらそう言った。
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それから王城で料理が振る舞われた。それも何とグレイとシュンにも同じ料理が出された。
流石は皇帝の料理人たちだ、出てくるものはどれも一級品ばかり。
しかしシュンビー級グルメだのどうだの言って懐かしそうに食べ物を食べていた。
ビー級ってなんだよ、それにグルメってやはり奴の国の言語は訳が分からない。
ちと話はそれるが、前にシュンからダークフレイムマスターの意味を聞いて驚いた。氷の魔導士騎士が何故闇だの火だのを名乗っておる。 それに何故シュンはその言葉の意味を知っておるのだ。
まーいい。考えてもわからん。
食後の紅茶でも飲んでいると……
「アルター殿下!」
その存在に気付いたグレイはとっさに椅子から立ち上がりお辞儀をした。
「そのままでいいぞ、そのままで。グレイお前もだ」
アルター殿下は空いている椅子に座ると首を捻った。
「見慣れない顔だなぁ」
シュンを見て呟いた。シュンに目で何もするなと命令を送り、椅子から立ち上がった。
「当家の新しい執事のシュンです」
シュンは椅子に座ったままお辞儀をした。馬鹿者! そのままでいいと言われたがほんとにそのままでいるとは……
グレイもその行動には冷汗と苦笑いを隠し切れなかった。
「それでアルター殿下この私に何用で?」
昔の事もありどうもこのお方には剣を持っていない所で話をすると言葉が出なくなる。私はこの男に愛されなければならない、ただ心のどこかで本気になれない自分がいる。
ああそうだそうだと呟きながら殿下は指を鳴らした。
それと同時に剣を抱えた従者がアルター殿下の傍にやってきた。
「父上からだ。カレンにこれを渡せと」
アルター殿下の手に握られていた剣は……
「そ、そのようなもの……」
その剣は今や伝説と語り継がれる剣豪皇帝が好んで使っていたと言われている世にも名高い剣と酷似した装飾が施されている剣。
勿論本物かどうかまでは分からない…… しかし幼い頃からよく父に最強の剣を帝国は持っていると聞かされてきた。この剣はその父が語る剣の姿と瓜二つだ……
「持っていけ、カレンよ。父上も言っていたが予にとって妹みたいなお前がいなくなると寂しく思う。必ず生きて帰って参れ」
突如自分の中の何かが砕け散った。
「有り難きお言葉」
殿下は私の肩を叩くと外に出ていってしまった。
脳内に焼き付く、涙目の殿下……
———肩の辺りにとてつもない寒気が……
何故私はこんな感情を抱いている。殿下は顔だってそうは悪くないはずだ、財力だってある。
なのに……
「ここに長居することも出来ない、行くぞグレイ」
剣を握り、そういって王城の外に出ていくための道を通る。
父上、どうやら私は父上の命を実行できそうにありません。
「カレンどうかしたのか……」
こーゆ時だけはやけに鋭いな。
「今は亡き父上と陛下は私と嫡男のアルター殿下をくっつけようとあの手この手を尽くしていたが、私が殿方に対しての振る舞い方を知らずに失敗を積み重ねさせてしまった。それに殿下は私の事を妹みたいな存在としか思っていないらしい」
内心妹扱いされて安堵している自分がいる。
なんとなくそんな事を呟いてしまっていた。予想以上に淡々とした口調で話してしまった。
「お前アルター殿下だっけ? 彼奴のこと異性として何と思っていないだろ」
少し低いトーンでシュンは問いかけて来た。
「主君としては尊敬している。もしあの方が騎士としてではなく、女として私を求めるのなら、私はそれに答えるのみだ」
シュンは溜息を吐いた。
「それってやっぱりなんとも思っていないってことじゃねぇか。亡くなった父親の言葉に囚われ続けるのはよくねぇんじゃないか。女なんだし自由な恋愛をしろよ。俺の国なんかはそうだったぜ」
勝手にお前の国の風習を押し付けるなよ。
「好きになったから結婚をするものではない。結婚をしてから好きになるんだ。貴族の女というものはそーゆものだ」
シュンは何故か溜息を吐いた。それに何故かグレイも。
「これだからその年になっても男の一人も出来ないし、好きな人の一人も出来ないのですよお嬢様」
シュンの頭を小突いた。
城門が見えて来た……
「グレイ、戦の支度をせよ。邪魔が入る前に直ちに出立するぞ」




