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第一話:零式歩兵機装特型、機動!

どうも、加賀長門です。この作品は、異世界にロボットがあるっていう自分の夢を書いたものですが、是非読んでいってください!

日常というものは、呆気なく終わる。それは、なんの予兆も無く、さりげなく訪れて呆気なく崩れ去っていく。


だから、日常は大切にせねばいけないのだろう。


だけど、それには予兆が無い。予測しようが無い。


だから、きっかけなんて何でもいいのだろう。


俺は、ある日電車を待つホームの列に並んでいた。


すると 突然、俺は後ろからドンと強く背中を押された。ゲームで頭を真っ白にさせていた俺の体は呆気なく前のめりになった。


俺は、ホームから飛び出て、線路に落ちようとしていた。


俺は、何が起こったのか理解ができなかった。だけど、最後の瞬間だけは覚えている。


俺の体の右側から電車がゆっくりと迫ってきた。その時、俺の中である感情が初めて芽生えた。


(うそ、だろ?俺が死ぬ?そんなのは…)


俺の体を叩きつけるように電車は通り、緊急停止した。俺は、俺自身が最後に何を思ったのかわからなかった。


その感情か、その出来事がきっかけだったのかもしれない。


だが、ともあれこの時から俺は運命の歯車に翻弄され始めたのは間違いない。


────────────────────────────────────────────────


気がつくと、俺は眠っていた。


(なんだ、夢だったのか)


俺が線路に突き落とされるというとんでもない悪夢をこの歳になって見た。


(なんか、リアルな夢だったな)


そう思って、しばらくぼうっとする。そして、俺は未だに目を開けていないこと、今日は平日で学校があることを思い出した。


悪夢のせいで体がだるいが、行かなければならない。無理矢理、瞼を開ける。


「あ、ようやく起きた」


その時、俺の目に入ってきたのは、長い金髪の美少女の顔だった。


なぜ、この少女が俺の部屋にいるのか理解出来ず、勢いよく体を起こした。


すると、そこは俺の部屋ではなく、見渡す限りの草原であった。


「どこ、ここ…⁉︎」


この状況が読み込めず、俺は呆然としてしまった。


「大丈夫?落ち着いた?」


俺の隣にいる少女が水筒を差し出しながら問いかける。それをありがたく受け取って、口に含む。


思考停止してしまった頭を回し、状況を整理する。


初めに、俺は駅のホームで誰かに突き飛ばされて電車に轢かれた。夢を見た。はずだったのだが、目をさますとこんな草と樹木しかない草原で目の前の美少女に膝枕をされていた。


うん、意味がわからない。何で起きたらこんな草原にいるんだ?なんで、金髪美少女に膝枕をされているという夢のようなシチュになっているんだ?


夢を見ていたかと思えばこんなところにいる。俺は、未だに夢から覚めていないのか。そう思って、自分の頬を抓ってみる。結果は、痛みを感じた。つまり、これは現実だ。


ということは、これはもしかして異世界転移ってやつか?


だが、そんな非現実的な考えをすぐに消す。そんなことはありえないからだ。


「ねぇ、ちょっと聞いているの?他に怪我しているところとか無い?」


いきなり彼女の顔が俺の視界にどアップで出てきた。


「うわっ! え、怪我?無い無い。全然大丈夫」

「そう?でも、この木の下で気絶していた君を見つけた時はびっくりしたよ」

「この木の下で気絶していた?」

「うん、覚えていないの?この木の下で君は気絶していたんだよ」

「それは、すまないな。でも、怪我はしてない」

「そう、なら良かった」


そう言って、彼女は胸を撫で下ろした。


「それで、何も問題無い。と、言いたいところだけど」

「言いたいところだけど?」

「ここどこ?」

「…………え?」


彼女は、拍子抜けしたような表情をしていた。


そして、彼女は俺の額に手を当ててきた。


「何?」

「いや、熱あるのかなって」

「熱が無いのはすぐわかるだろ」

「じゃあ、記憶喪失?」


どうやら、俺は病人か、頭を打って記憶喪失にでもなったのかと疑っているらしい。彼女の目が完全に病人を見る目だった。


「いや、それも違うと思う。夢まで覚えているし」

「いや、少し前のことなら覚えているけど、その後のことを忘れているのが記憶喪失って聞いたことがあるよ?君、どこから来たの?」

「どこから来たっていうか、いつの間にかここに居たんだ。なあ、一体、ここはどこなんだ?」

「ここ?ここは、ドリトニア王国のタジスタン草原だよ」

「え…ど、どり…?」

「ドリトニア王国タジスタン草原」

「どこそれ?」


ドリトニア王国なんて聞いたことが無い。世界地図に載っている国を全て覚えている訳でもないが、そんな国があるなんて知らない。


「ドリトニア王国を知らないの?ジカルド大陸最大の国家を?」

「うん、知らない」

「君、最後にどこにいたの?」

「日本の東京都大田区」

「ニホン?それこそ、そんな国聞いたことないよ。新興国?」


どうやら、彼女は日本を知らないらしい。日本語が通じているのに日本という国は知らない。この矛盾は一体どういうことだ?


「ねえ、君。もう一度聞くけれど、本気で言っているの?」

「マジかよ…そうなると、本気でここはどこなんだよ」


そろそろ、本気で異世界転移という可能性を信じてきた。


「そうね、それだと君は聖主様に連れてこられたのかしら?」

「聖主様?」


謎の単語が出てきた。聖主っていうことは神様みたいな奴か?


「聖マクネス教の聖主様マクネス・ミカエル様。異世界とを繋ぐ聖主様だよ」

「異世界⁉︎」


異世界という言葉が出てきて、反応してしまったが、所詮は宗教なのだ。聖主とは人々が勝手に作り出した虚像に過ぎない。実在などしないのだ。


「でも、まあ、そんな事ありえないか」

「もしかして君、異世界転移してきたの?」

「かもしれないけど、実際にそんなことありえないだろ?」

「私は見たことないけど、聖主様に力を貸してもらって異世界転移する魔術はあるよ」

「マジかよ⁉︎」


今、とんでもない爆弾発言が飛び出した。なんと、この世界では魔術が存在し、異世界転移をする魔術があるらしい。


「じゃあ、俺は異世界転移ってやつをしてしまったんだな」

「でも、異世界転移をするには、魔術師二千人の魔力が必要らしいから、やったことは無いんだって」

「そうかぁ…」

「でも、君が異世界転移してきたというのなら、それが事実なんだし、難しいことを考えるべきじゃないんじゃないかな?」

「そうか、これが現実か」


そう考えると、とってもくだらないことに思える。この世界では俺の知らないことがあるのだろうが、それでも日常が変わることは無いはずだ。それなら、この世界だって、前の世界と変わらずつまらないものではないのだろうか。


「なら、ここも変わらないんだな」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない。で、聞きそびれてたけど、君は誰?」


ここまで、忘れていたが、彼女の名前を俺は知らないでいた。


「私?私は、アリス。アリス・マリシアよ。あなたは?」


そう聞いた、アリスの明るい顔を、俺は可愛いと思った。それで、少し動揺してしまったが、落ち着きを取り戻して自分の名前を伝える。


「俺は、赤城ケンジ」

「ふうん、君が来た世界ではそんな珍しい名前があるんだね」


この世界の人物は、まだアリスしか知らないが、そのアリスは、完全にヨーロッパ辺りの顔立ちで金髪で、名前も外国人らしい。そうすると、日本人の名前は珍しく思えるのだろう。


「まあ、色々話を聞きたいところだけど、君はぼろぼろだし、ここにいつまでも居るわけにもいけないし、私の馬車に行こう?」

「馬車?」

「ほら、あそこ」


アリスが指さした方向を見れば、2匹の馬が繋がれた幌付きの馬車があった。


「ここは、文明レベルはまだまだなんだな」


 この世界は、元の世界よりも文明レベルが低いようだ。魔術モノの小説とかの世界観というのは、大抵中世ヨーロッパの世界だが、ここの世界でもそれは通用するようだ。


「さ、行こう。君のことも色々知りたいけど、私のせいで魔物に食われても嫌だしね」

「ま、魔物が出るのか⁉」

「うん、ここみたいな草原だと、夜になったら小型の肉食獣みたいな魔物が出るんだよ」


 どうやら、この世界では夜には魔物が出没し、人間とかを食い殺すらしい。ということは、夜になる前にこの草原を出なければいけないらしい。


 俺は、アリスに続いて馬車に上がる。その時、汚らしいなりの御者が俺のことを値踏みするかのような目でちらりと見た。


「マックス。出して」

「あい。お嬢様」


 アリスが、御者に馬車を出すように指示をする。そして、馬車はゆっくりと動き出した。道中は舗装されておらず、ガタガタと揺れ、予想以上に不快であった。


────────────────────────────────────────────────

馬車が、急に止まった。それまで俺とアリスは、俺の世界のこと、この世界のことについて話していた。


そこで、分かったことだが、この世界には魔術があること。そして、魔術を使えるのは魔術師のみであり、しかも才能と、血統が大きく関わってくるということ。


つまり、この世界では魔術師と一般人との間に大きな格差があるということだ。魔術師は国政上重宝される。軍事的戦略兵器として、土木工事で、外交の場における諜報など、様々な役割があるそうだ。


そして、今俺の隣にいるアリス・マリシアは、代々続く魔術師系の貴族マリシア家の次女らしい。マリシア家は、ドリトニア王国の中で上位の貴族というわけでも無いが、下の方でも無いらしい。


あと、もう一つわかったのが、このアリス・マリシアは、天然だということだ。魔術の腕は家の中で一番らしいのだが、よく小火騒ぎを起こすのだと本人が言っていた。


「ケンジ、ちょっとこっち来てー」


アリスが、馬車の外から俺を呼んでいる。アリスは、馬車が止まった後に俺を置いて一人で外に出て行ったのだ。


「うわっ…」


馬車から降りた俺を待ち構えていたのは、大きな横に長く、縦に高いレンガの壁であった。そして、俺の目の前には開かれた鉄製の門であり、そこからかなり大きな都市が見えた。


「ケンジー、こっちこっちー」


左側の門番なのだと思われる甲冑と槍で武装した兵士が居る小屋の前にアリスがいた。アリスに連れられて小屋に入る。


「どうしたんだ?」

「王都に入る前にケンジの入国許可が必要なの」


なるほど、異世界から来た俺でも、この国の住人では無い。入国許可が要るのだろう。しかし、面倒なのはできるだけ避けたいのだが。


「で、何をすればいいんだ?」

「この水晶に手をかざせば大丈夫だよ」


その水晶は、奥にゆらゆらと揺らめく虹色の光が佇んでいた。明らかに魔術の産物である。


俺は、躊躇なくそれに手をかざす。


そして、水晶の光がうねって、最後に安定した光の帯になった。その帯は、はっきりと色が分かれていた。


「…アカギ・ケンジ。魔術適正皆無、犯罪因子レベル2。犯罪者登録無し。出身国…不明」


目の前の兵士が淡々と言う。


「おい、魔術適正無しって」

「魔術が全く使えないってことだね」


アリスが気まずそうに笑う。やっぱり、異世界から来た俺は魔術なんてものを使ってはいけないという天のお達しなのだろう。


すると、目の前の兵士の目が険しいものになった。


「出身国が未知の国ですが、これは一体?」


やっぱり、ここを突かれたか。俺は、どう答えればいいのか戸惑ってしまった。いきなり、異世界転移してきたなんて言っても信じてもらえないだろう。


俺が何て言おうか思いあぐねていると、アリスがすっと前に出てきた。


「彼は、マリシア家で保護した男児です」

「はっ、これは失礼いたしました。では、マリシア嬢。こちらに彼の保護に関する書類を…」


すると、急にその兵士は畏まって、アリスに何枚かの紙を差し出した。アリスは、それらに記入を済ませると、その書類を兵士に返す。その兵士は、その書類を確認する。


「はい、これで手続きは完了です。では、マリシア嬢。お通り下さい」

「うん、ありがと」


俺は、目の前の兵士の態度が急変したのが気になって、アリスに尋ねてみた。


「なあ、今のって一体?」

「うちも、貴族の端くれだからね」


つまり、貴族という立場は伊達じゃ無いということだ。前の世界でこんなことをしようものなら、SNSとかで世界中からバッシングの嵐だろう。こんなご都合主義が通るのは異世界だけか。


そのまま、俺はアリスと共に門をくぐる。


「ほぅ、こりゃすげぇな」

「ここが、ドリトニア王国王都。”ティリエル”だよ」


この王都ティリエルは、文明レベルはあまり高くないだろうが、それでも栄えているらしい。


この街は、王都をぐるりと囲む巨大なレンガの壁から、階段状の地形になっており、大きな水路が王都を四分し、それぞれの段で枝分かれしている。そして、一段一段は、それぞれが広くて、沢山の建物が建っている。そして、中央に立派な城がそびえ立っていた。おそらく、あれが王城なのだろう。かなり立派な城である。


「私の家は、フォリカのトリミアのセカミアだから、歩いて行くにはちょっと厳しいからこのまま馬車で行くよ」

「え、何だって?」

「フォリカのトリミアのセカミア」

「どういう意味?」

「フォリカは上から4番目っていう意味で、トリミアが四分割されたうちの4番目、セカミアが2番地っていう意味だよ」


どうやら、住所みたいなものらしい。しかし、日本語が通じるというとてつもないご都合主義な世界なのに、妙なところで凝るようだ。まあ、言葉は後々覚えていけばいい。


────────────────────────────────────────────────


また馬車に揺られて十数分。馬車が止まった。


「着きましたぜ。お嬢様、ケンジ様」

「お疲れ様、馬を小屋に入れて荷車を倉庫に戻しておいてね」

「あい」


どうやら、マリシア家に着いたらしい。


俺は、馬車から降りたところでふと尋ねてみる。


「なあ、アリス。流れで来ちまったけど、俺をこんな所に連れてきて良かったのか?」

「え、どういうこと?」

「いや、こんな見ず知らずの得体の知れない男を連れて帰ってくるっていうのは、貴族として…さ」

「いいんだよ、気にしなくて。それに、あんなところにそのまま置いて帰って病気になったり、魔物に食われる方が貴族としての恥だよ」


そう言って、彼女は俺に純粋無垢な笑顔を向けた。


「すまないな、迷惑かけて」

「だから、いいんだよ。あ痛っ!」


屋敷の方へ向かっていたアリスが自分のドレスの裾を踏んで転んでいた。やはり、自覚するほどの天然というのは伊達じゃない。


「ほら、立てよ」


俺は、アリスに手を差し出した。それをアリスは掴んで立ち上がる。


「えへへ、ありがとうね」

「どうってことないさ」


そう言って、俺はアリスに続いてマリシア家の豪邸に入ろうとした。門から敷地に入ろうとした瞬間、踏み出した俺の足が、地を踏み損ねた。


「は…?」


気づくと、俺は宙に浮いていた。


「一体どうなっているんだ⁉︎」


じたばたと暴れる俺の背後からくぐもった声がした。


『んー? アリスお嬢様、変な小虫が入り込もうとしておりますよ』


それを聞いたアリスは、困ったような顔でこっちを向いた。


「ちょっと、カイン。彼は私のお客様よ!」

『でも、こいつ小汚い身なりですし、異装で異国の顔立ち。不審者では?』


この声は男だが、とても気障なカッコつけてるウザい奴だ。あの世界に限らずどの世界でも絶対にお近づきになりたくないタイプ1位のタイプだ。


「なあ、アリス。これは何だ?魔術か?」

『くっくっく、はっはっはっはっ!魔術とは、あなた実にジョークのセンスがいいですよ』


その、嫌味な言い方に俺はカチンときた。


「さっきから、言わせておけば人のことをおちょくりやがって…おい、お前!出てこい!」

『ええ、いいでしょう。滑稽な小虫さん♪』


相変わらず、嫌味な言い方である。


すると、背後からプシュッという密閉扉が開くときの音が聞こえてきた。俺は、じたばたするのを止めて、首を後ろに回す。


すると、金属でできた騎士のような巨人が居た。その巨人は、俺を目のような二つの光るカメラで見下ろしていた。


「ろ、ロボットォォォオオオ⁉︎」


俺は、巨大人型ロボットが突然目の前に現れて、驚愕のあまりに言葉を失ってしまった。


「ロボット?何を言っているんだい、君は。それより、君はその愉快な阿呆面をなんとかしたまえ」


その、小憎たらしい声に顔を向けると、ロボットの胸のあたりの八角錐の厚い金属製のハッチのようなものが開いて、そこからぴったりとしたスーツを着ている金髪の気障な男が立っていた。


「こんにちは、小虫さん。私はカイン・ストレイウス。マリシア家の執事兼、警備役でございます」


この、カインという男は、このマリシア家の警備役らしい。が、どうにも食えない男である。気障でうざったい男だ。


「それで、小虫さんのお名前は?」

「さっきから、人のことを小虫って馬鹿にしてたのに名前は聞くんだな」

「小虫、されどもアリス嬢のお客様。ぞんざいに扱うわけにはいきませぬ」

「あっ、そう。じゃあ、降ろしてくれる?」

「ああっ、私としたことが、あまりに滑稽な姿に笑うのに必死であなた様を地上に帰すのを忘れておりましたぁっ!」

「こいつ、腹たつ…!」


なんで、この執事は素直に喋れないのだろうか。今度、期があれば一発殴りたいと思ったケンジであった。


カイン・ストレイウスは、俺を摘んでいるロボットの手を動かし、地上に降ろした。


「それで、アリス嬢のお客様だというあなた様のお名前はなんと申すので?」

「俺は、赤城ケンジだ」


俺は、無愛想に答える。そもそも、こんな奴に愛想よく接する義理は無い。


「アカギ?くっはっはっは、大層変なお名前をしておいでで」

「そこまでにしなさい、カイン。彼は、異国の出です」

「これは、失礼いたしましたお嬢様。それでは、アカギ様。ごゆっくりと」


そう言って、カインはロボットを動かしてどこかへ行ってしまったが、スピーカー越しに忍笑いが聞こえた。絶対、わざとスピーカーを切っていないに違いない。


「なあ、アリス。あのロボットはなんだ?」

「ロボット?カインが乗っていたのはメカニカル・ウォーリアだよ」

「何だそれ」

「神聖語だから、どういう意味かはわからないな」


神聖語とアリスは言ったが、『メカニカル・ウォーリア』とは、完全に英語である。訳すとしたら、”機械仕掛けの戦士”だろう。


そう、考え事をしながら、マリシア邸に入る。


「さあ、ここが君の部屋だよ」


案内されたその部屋は、簡素な机とベッドとタンスとクローゼットだけが置かれた横3メートル縦4メートルぐらいの質素な部屋だった。


────────────────────────────────────────────────


真夜中の使用人から、主人に至るまでが寝静まったマリシア邸を俺は沸き起こる吐き気を我慢し、激しい頭痛から頭を押さえながら、ヨロヨロと落ち武者のように這う。


あの後、風呂から上がり、使用人が用意してくれた服に着替えた俺は、その使用人の案内で食堂に行った。そこで待っていたのは、マリシア家の面々だった。


そして、俺の歓迎会のようなものが始まった。アリスの姉、マリア・マリシアは、少しきつい性格をしているが、意外と茶目っ気がある。母ケビン・マリシアは、潔癖性。父ウェラン・マリシアは、おおらかな性格をしていた。


まあ、そんなことはどうでもいい。今重要なことは、この猛烈な吐き気と頭痛だ。少しでも気をぬくと、喉の奥から、とても描写できないようなおぞましくて汚らわしい”何か”が顔を覗かし、頭の中で”何か”が頭蓋を割って生まれてこようとする。


それもこれも、全部あの酒のせいだ。ワインだとかウォッカだとか日本酒だとか焼酎だとかシャンパンだとかスパークリングワインだとかコニャックだとかは知らないが、いきなり目の前に出されて、何も知らずに水と同じ勢いで飲み続けていたら、記憶が飛んでいて、いつの間にか自室のベッドで寝かされていた。


「くそぅ、こっちの貴族は未成年に酒を飲ませんのかよ…うぇっぷ」


悪態をつきながら、砂漠の中でオアシスを追い求める人のように約束された希望の地『トイレ』を目指す。


ようやくトイレが見えた時は、小走りになって駆け込んだ。最後はもう、倒れこむ勢いだったが、何とか木製の床を汚すことはなかった。


────────────────────────────────────────────────


「あー、まだ気持ち悪ぃ…」


楽園であるトイレに駆け込んでからかれこれ十分は立て篭っていただろうか。それでも、気分は良くならなかった。


「もぉいい…部屋で寝る」


しばらく寝ぼけた頭で廊下を亡霊のごとく彷徨っていた。すると、とある部屋の前に着いた。そこの扉は開いていて、中から明かりが漏れ出ている。


「……か、今日も、………か」

「旦那様、…何日も……じゃありませんか」


何やら男二人の話し声が聞こえてきたが、寝ぼけて、さらに酒のせいでろくに頭も回らない俺は、そんなことにも御構い無しにその部屋に入った。


「「だ、誰だ!」」


俺が入った瞬間に二人の男は大声を出した。その大声に驚いた俺は、あっという間に起きてまともな思考ができるようになった。すると、目の前にウェラン・マリシアとカイン・ストレイウスが立っていた。二人とも、驚きのあまりに目を見開いて固まっている。そこで俺はようやくここが自室ではないことに気がついた。


「なんだ、ケンジ君か」

「なんです!いきなり入ってきて!」

「カイン、止めたまえ。彼があの後どんな様だったか知っているだろう」

「ええ、ええ覚えていますとも。完全に泥酔して机に顔を突っ伏していました。あの光景は、今見ても滑稽なものです」


カインは相変わらずの嫌味っぷりだったが、そんなにも俺は酷かったらしい。迷惑をかけてすみません、マリシア家の皆さん(カイン・ストレイウスを除く)。


「はぁ、なんかすみません。いきなり来た上に迷惑をかけてしまって」

「気にすることはないさ。それより、調子は大丈夫かね?」

「おかげさまで猛烈なまでの吐き気と頭痛が…うぇっぷ」

「そうか、それなら少しそこの椅子に座るといい。ここなら少しは外の風が入る」

「ありがとう、ございます…」


俺は、言われた通り椅子に座る。そこは、近くに窓(と言っても覗き窓のようなものだが)があって、外の冷たい風が入ってきて心地よかった。


「そうだ、ケンジ君。ここに来たなら、少し話を聞いて行かないか?」

「…は?何のですか?」

「あれだよ」


そう言って、ウェランさんが興奮気味に指差したものを見る。そこに居たのは、黒を基調としながらも緑色の線が入っていて、スラリとした人間の様なスタイルをしており、頭部には見るものに凄みを見せる爛々とした光る二つの目と二本の角が後頭部に向かって生えている。そして、その背中には二振りの刀があった。


その様はまさに、古今無双の武士と鬼がかけ合わさったような姿であった。


「メカニカル…ウォーリア…」

「そうだ。これが、マリシア家が貴族の中で唯一保有する20年前に発掘された謎のメカニカル・ウォーリア、『アキュナス』だ」

「正確には、色んな貴族の間をたらい回しにされた挙句に旦那様が大枚をはたいて引き取ったのですけどね」

「こ、こら、カイン!過去のことはどうでもいい、現在が重要なんだと言っているだろ!」


ウェランさんは、恐らくこのことでこってりしぼられたのだろう、この話題は耳が痛いらしい。


「どうだね、ケンジ君」

「武士みたいだ…」

「ブシ?」

「前の世界での戦士のことです」

「ああ、君は異世界から来たんだったね。そうだ、君をあれの操縦席に座らせてやろう」

「ありがとうございます」


そう言った、ウェランさんは頬が紅潮している。よっぽど、このアキュナスに心酔しているのだろう。そして、ウェランさんは俺を連れて、組まれた足場についている梯子を登り始めた。俺も、ウェランさんに続いて梯子を登る。


『……………ケンジ…』

「あの、ウェランさん。今なんか呼びました?」

「何のことだい?」


今のは空耳だったのだろうか、確かに声が聞こえた気がする。


「ほら、こっちに来たまえ」


ウェランさんが手を伸ばす。俺は、それに掴まりながら、アキュナスの肩関節の上に飛び乗る。すると、俺の目に見覚えのある文字が飛び込んできた。


”零式歩兵機装特型”


「れいしき、ほへいきそう…とくがた」

「何だって?まさか、君はこれが読めるのかね⁉︎」


ウェランさんが驚愕した。そう言えば、この世界では日本語ではなく独自の言語を使っている。ドリトニア王国ではドリトランという言語らしい。


「ええ、まえの世界の言葉なので」

「そうかそうか、つまりアキュナスは異世界から来たのだな!」

「でも、あの世界にはこいつどころかメカニカル・ウォーリアさえもありませんよ?」

「何だと⁉︎これは、さらに謎が深まったぞ!」


ウェランさんは熱心にメモを取っている。恐らく、20年前からこうやって熱心にアキュナスの研究をしていたのだろう。


『………ケンジ!』

「…ッ⁉︎」


まただ、また聞こえた。今度ははっきりと、少女の声が聞こえた。方向は…アキュナスの胸部の僅かに開いたハッチからだ。


「ケンジ君、それでこれはどういう意味…ケンジ君?」


気がついたら、俺はそのハッチに向かっていた。そして、そのハッチを開けて中を見る。


「うむ、君も乗りたくて仕方がなかったのか」


一人で納得しているウェランさんを置いておいて俺はコックピットに頭を入れる。そこには、メッシュ製のシートやら計器類やらモニターやらで埋め尽くされていた。


「どうだね、良いだろう?興奮するだろう?」


俺はそれに答えずに黙々とコックピットの観察を続ける。と、その時だった。


『ケンジ、やっと来た。会いたかった』


コックピットのハッチが勝手に閉まり、その拍子に俺はコックピットに押し込まれた。そして、ハッチがロックされる音が聞こえる。その後、キィィィイイインという甲高い音が鳴り、モニターや計器類が動き始めた。俺は、とりあえずシートに座って態勢を整える。


『な、何事です!何故、アキュナスが⁉︎』

『う、動いた。動いたぞ、アキュナスが!』


映し出されたモニターから、二者二様の反応を見せるカインとウェランさんが見えた。


”零式歩兵機装特型起動開始”


俺の目の前のモニターに出てきたその文字を理解するのに数秒かかった。


『零式歩兵機装特型”武蔵”起動シークエンスに入ります。操縦手認証…認証。こんにちは、赤城ケンジ少尉。現在、機関出力二〇パーセント、融解爆発の危険性無し。全関節部人工筋肉異常無し。各種導管、異常無し。カメラ及び各種センサーに異常無し。起動準備完了。赤城ケンジ少尉、起動を承認いたしますか?』


突如始まった起動シークエンスにどうしたらよいか慌てふためき戸惑っていた俺だが、不思議と高揚感を覚え、このまま『武蔵』を起動させたい衝動に駆られた。


『ケンジ君、アキュナスを動かせるかね!』


ウェランさんもこう言っているんだ。問題ないだろう。


「承認!」

『操縦手によるマニュアルの承認を確認。起動します。操縦手との間の伝達素子を確認できませんでした。伝達素子を注入いたします』

「痛っ!」


突如、俺の脊髄にチクリとした痛みがした。振り返ると、シートの首の辺りから針が出ていた。


『伝達素子確認、問題無し。起動最終段階に移行します。機体情報を送信…完了。機体操縦手間の伝達速度問題無し』


俺の目の前に、今度は様々な情報が出てきた。武蔵の機体諸元や、色々な情報が載っている。俺は、感覚的に要らないものを手でスワップして退けた。


すると、その奥から”New message from MUSASHI”というタブが出てきた。俺はそれをタップする。すると、コックピットが真っ暗な世界に変わった。


「久しぶり、ケンジ」


そう、俺に話しかけてきたのは見知らぬ緑色の髪をした少女だ。


「久しぶり?君は誰」

「私は…………。今は話している暇はないわ。もうすぐ、バーバリアンがやって来る。ケンジ、あなたにはそれを撃退して欲しいの」

「ちょっと待て、いきなりそんなこと言われても…」

「ごめん、今は時間がないの。行けばわかるから」


そう言って、彼女は消え、俺は現実に引き戻された。


『大変だ!魔物が出たぞ!』


そう叫んでいるのは、この屋敷の使用人の一人だ。何のことかと思っていると、視界上に一つのタブが出てきて、異形の怪物を映し出した。


そいつは、恐らく猿のような姿だが、手足がひょろ長く、体毛が逆立っていた。しかし、熱源センサーのため、詳しくはわからない。行って目視で確かめるしかないようだ。


『八時の方向距離二〇〇に巨大生命体を発見。照合、バーバリアン。脅威と断定。対象を甲壱と呼称。緊急目標です。直ちに討伐に向かって下さい。脅威度は五〇、単機で撃破可能です。尚、周囲の状況から推測して多くの民間人が被害に遭います』


『武蔵』は、それが脅威であり、このままでは多くの人が死ぬと言っている。そして、そいつを『武蔵』は撃破できると言った。


『武蔵』を動かせるということに高揚感を感じている俺だが、目の前にあるのは命のやりとりだ。失敗すれば、俺が死ぬ。


「くそっ、どうする?見ず知らずの他人のために行くのか?死ぬかもしれないんだぞ?……………ッ!それでも、行くっきゃねぇだろ」


こうなったら、自棄っぱちだ。どうにかしてでもあの怪物を倒さなければならない。


俺の頬を一筋の汗が伝う。さっきから、心臓がばくばくと鳴りっぱなしだ。


(くそぅ、面白いじゃないか。上等だ、やってやる!)


この世界に来て、良かったと思うことが一つだけある。あの世界では味わえない緊張と、高揚感を、この世界ではこんな形で目の前に差し出してくれた。こいつを殺れば英雄になれるかもしれない。


あの世界でただ腐っていたら、こんな経験は出来なかっただろう。


異形の怪物がこちらに振り向いた。熱源センサー越しに目が合う。俺は、その爛々と光る二つの瞳を睨み返した。

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