無限の住人
「桜花咲きかも散ると見るまでに
誰れかもここに見えて散り行く」
柿本人麻呂
(万葉集 巻第十二)
――登場人物――
成道 証悟――空手部 1年A組
薬師 真理――美術部 1年A組
愛染 智慧――軽音部 1年A組
宝生 妙果――文芸部 1年B組
不動 龍樹――帰宅部 1年B組
松田 主――故人
法水 大我――ミステリー部部長
東方 るり子――ミステリー部副部長
西連寺 鳴――声楽部部長
伊勢 大輔――文芸部部長
大江 千里――文芸部副部長
鳥羽 総司――美術部部長
吉山 周文――美術部副部長
斯波 蓮――生徒会長
正岡 登――野球部員
神月 夜子――ミステリー部顧問
武佐 七音――声楽部顧問
入江 朝深――養護教諭
蔵間 真人――故人
有馬 マユ――西連寺の姉
滝見 光明――刑事
部屋の明かりは赤い蝋燭だけだった。
円卓の中央に乗せられた蝋燭の小さな火は、古風な彫刻のある燭台の周りに、テーブルクロスの緋色をぼんやりと浮かび上がらせている。
卓を囲む人間たちは誰も口を開かず、幽かに揺らめく火に憑かれたように見入っていた。
各々の顔は影がかかりはっきりとは判別しづらく、背後は塗り潰されたように真っ暗で何も見えない。キアロスクーロを使った絵画のような光景が広がる中で、一人の男が唐突に沈黙を破った。
「さて、そろそろ始めましょうか」
彼は蝋燭の火を見つめたまま誰にともなく言った。
「そうですね。全員揃っていないのが惜しいですが」
その言葉に、対面に座っていた女が平板な声で答える。
彼は視線を蝋燭の火から対面の女に移すと、そのまま淡々と語り始めた。
「我が須弥山高校は、明治時代の旧制中学校から続く歴史ある学舎です。そしてこの秘密クラブも、大正の世から平成の今代に至るまで、あたかも法灯の如く連綿と続いてきた」
ここで彼はぐるりと周囲の人間たちを見回す。
「……さて、伝統ある我が校に、このような秘密クラブが設立された、本当の目的を知っていますか?」
「本当の、目的……?」
対面の女を始め、卓に座った全員がじっと彼の方を見た。
彼は勿体つけるように一旦言葉を切ると、卓の上に肘を立てて組んだ両手に顎を乗せる。そして、ゆっくりと口を開いた。
「殺人ですよ」