第5話 暗い道に溢れる光
ビックリした様子の梨花に僕もビックリしていた。何故手を握ってしまったのか僕にも分からなかったが、ここで手を離すと男がすたる気がして離せなかった。
「手が寒そうだったから」
僕は夏の日の夜にこんな苦し紛れの言い訳をしている。梨花はいつもの笑顔でうなづいていた。
隣のおじいさん家までは、いつもは10分も経たずに着くが、今日は違った。
手を繋いでるからか時間が何十倍にも感じた。
心臓もドクドクと脈を打っているのが分かる。
梨花に聞こえていないか気になり息もろくにできず、手汗も溢れだしていた。
人生で経験した事がないくらいに緊張していた。
その事が梨花に伝わったのか、
「ありがと、手暖かくなったよ」
と笑顔で言い、手を離してくれた。
手が離れた瞬間、僕は何故だか寂しくなった。
何故寂しくなったのかは分からなかったが、ホッとしたし、これでよかったのかもしれない。
僕は深呼吸をして、乱れていた呼吸を整えた。
僕は、梨花の前を懐中電灯で照らすため、梨花の少し前を歩いていた。すると、梨花が僕の背中を少し引っ張っていた。
「ごめん、ちょっと暗くて怖いからこのままで」
と言われた時、僕は少し嬉しかった。
いつもと同じ風景の坂道がいつもと違って見え、暗い道に星という光が溢れていた。
そんな僕の長い旅路がやっと終わった。
隣のおじいさんが心配して家の前で立っていた。
僕はおじいさんにお礼を言われ、梨花に手を振って帰った。すると、
「今日は楽しかったよ、また遊んでね」
そう梨花が手を振りながら言っていた。僕は何故か胸が痛くなっていた。理由はこの時は分からなかった。
いつもより長く感じた道の帰りは、あっという間に感じた。