夢の世界にて重要なイベントを
そこでは、遠くを、遥か遠くまで、それなりに栄えた町、
住宅街と歓楽街などを見通せる、丘のようなポイントだった。
絶景と呼べるほどじゃないが、それなりだ。
そこから、下。
十メートルほどを、降りる。
普通の鉄骨製の階段で下り、砂利で敷き詰められた、駐車場のような、多少草の生えた場所。
別のルートでも降りられた。お洒落な螺旋階段だ、それは見るだけに留める。
さて、降りた。
いや降りる前に、電話をしておこう。
ぷるる、ぷるるる♪
「はい、もしもし、あーはい、面接です、もうそちらに着きます、、、、
それじゃあ、よろしくお願いします」
電話をしまって、もう一度、ここから見える景色を一望してから、降りる。
降りた場所を、方角的に分からないが、
切り立った丘のような場所を、斜めに、下方に下りたのだ、
すると自然、そのまま前進する方角が生じるのは、お分かりいただけるだろうか?
そのまま進むと、建物、建築物が見えるのだが、そこは多少、木々と緑に覆われて、影のようになっている。
パッと見は、学校のような公共施設に見える。
そこに入る。
さて、いきなりだが、人が見えた。
「ようこそ、面接の方ですね、待っていましたよぉ、着いてきてください」
昇降口のような場所を通り抜けた、やはり学校なのか?
しかし、人が全くいないし、つくりが微妙に可笑しい?
たぶん恐らく、養護向けの学校なのだろうと、場当たり的な推察を交えつつ、進む。
それにしても、なんとなく神秘的な、外が薄暗い、曇天の真っ白な光を陰鬱に湛えているからか?
学校っぽいのに、建物で四方を固めた、中庭があり、整えられた緑、植物が群生している。
幾つかの教室然とした部屋、曲がり角、それらを一通り抜ける。
「あれ? もう一人の人は、どこかなぁ?」
歩きながら、案内役の男性は、そう言う。
建物のどの辺りに今いるのか、まったく分からないが、ほぼ突き当たりにぶつかった。
その通路、突き当たりに、左側に一部屋ある、これも教室然としたモノだ。
さらになぜか、右側にも小空間があり、そこにもう一人の人が居た。
「探しましたよ、既に着いていたんですね」
案内役の人は、もう一人の人に近づき、何事か話す。
その小空間は、なにか多目的な利用が想定されているのか、どうだろうか?
その割には、スペース的には教室の四分の一程度の空間だ。
それでも、黒板のようなモノがあり。
そこに、この建物の図面図のような、線で構成された地図が、紙で張ってあった。
すばやく検分、この場所が地図上では、どこに位置するかを把握。
一つ気になることを発見。
隣の突き当たりの部屋、なぜかその奥が、赤く太い斜線で塗られている。
「さて、こちら側の部屋に、入ってください」
その部屋に、合流した、もう一人の人と入る。
普通の、だが多少、幻想的で神秘的な雰囲気のする、古めかしいが高尚な感じの教室然とした部屋。
「始めは、多少強引でもいいので、頑張ってください」
それだけ言うと、案内役の人は扉を閉めもせずに、来た道を反対に行ってしまった。
すこし落ち着いて、合流した人を見る。
なんだかオドオドとした、今の状況におびえる様な、小動物然とした男だった。
その観察はほどほどに、部屋の奥に行ってみる。
さきほどの地図は、図面のようなモノで構成されていて、奥の方に赤斜線があった。
奥の方は当然、黒板のある場所だ。
もう一人の人は、おどおどしながらも、前に進む自分に続くようだ。
黒板に、意図して、触れる。
ある程度、推察と推測、予感のようなモノを抱きながら、破るように触れたのだ。
すると、突然、前方の、黒板があるだけだった壁一面が変化する、、変化した。
そこは、メルヘンチックな場所だった。
教室然とした部屋から、地続きの、拡張したような空間なのだが。
これが、赤斜線で塗られた、ある意味で、禁断の空間なのだろうか?
左右に燐プンが舞う、不思議な植物が生えている。
そして中央に歩けるスペースがあり、その先の終点。
割と近い、四メートルほど先に、朽ち掛けたような、古い西洋アンティーク人形がある。
一歩一歩、二人で、それに近づく。
その人形は、眼窩が落ち窪み、何もないような暗黒を晒している。
四肢も、ひび割れていたり、衣服もほつれが目立ち、物悲しい雰囲気を辺りに撒いている。
三歩目で、周囲を多い尽くすような、電子音声のような、少女のような老婆のような声がした。
「形あるものは、いつか崩れる、老いて萎れて、、、」
酷く悲壮感の漂う、不気味な声だ。
隣のもう一人の人は、おびえて、なぜだか自分に縋りつくようする。
それでも、もう一歩。
「怖くないわけがない!!」
絶叫ではない、強い意志の乗った、多少大きな声、一言が発せられた瞬間。
周囲が、周囲の光景が、ガラスが割れたような効果で、色鮮やかに変化した。
パリパリ、パリンと、変わった。
燐プンを舞わせていた植物は、虹色の光彩を放ちはじめており、周囲も豪華な出で立ちになっている。
ボロボロの人形だったのは、既にその面影がなく。
美麗な、放っておけば息を吹き返そうな、人間以上に完成度の高い、温度を感じさせるほどの人形になっていた。
隣の人は、やはり、この状況に怯えている。
さらに一歩踏み出して、停止。
いつ動き出すのかと、身構えていたのだが、特に動かないようだ。
「これから、貴方たちには、対価と引き換えに、ある場所で行われる試練に挑んでもらう」
そういう話だったと、改めて思い出す。
「その試練は、とても危険であり、僅かなミス、間違いが、付け込むように、トラップのように命を削り切る」
さきほどと同じ音響で、説明をされる。
「今から、試練の行われるポイントに、転移しますので、、 準備や、あるいは心の用意はいいですか?
よければ、お願いします、転移させますので」
特にする事もないので、了承を伝える、隣の人も同じようだ、目に見える感じで怯えているけれど。
「では契約を、円滑に遂行することを、約束してください、それから転移します」
自分たちは、目の前の人形に向けて、折り目正しく礼をして、契約の遂行と完遂を誓った。
「よろしいです、転移します」
一瞬間、辺りがフラッシュバック、後にホワイトアウトした。
それから少し経って、目が慣れてくるくらいの間を置いて、辺りが見えてくる。
ここは、どこだろうか?
普通の住宅街のような場所に見える。
だが違和感、人がまったく居ない、閑散とし過ぎている。
「ここは異空間、これから行われる催しが行われるのは、あちらです」
指を刺される場所。
そこは何か大規模な倉庫のような、永遠に続くのではと思わせるような、
大洞穴のような、ぽっかりと暗闇を覗かせる、建築物の方向だった。
どうやら其処が、試練の場所なのだろう、ちらほらと、別の参加者らしき人間の姿も見えた。
「というより、君も来るのか」
目の前の、さきほどの人形を、若干デフォルメして、人間らしくしたような少女に問う。
「来ないとは、一言も言っていません」
音声も、やはり似たような、普通の人間のような、にしては些か美麗すぎる、高貴な声色。
「貴方たちだけでは、心もとなく、いささか不安ですし」
そう言い切って、挑発的な、睫の長い、綺麗な瞳を試練の場所にキッと向ける。
隣の人は、擬人化した人形少女を、酷く怯えた感じで見ている。
自分は、まじまじと少女を見つめた。
美しいと思った、ひたすらに美しい少女だ。
西洋人形だった頃と同じ、しかし瑞々しく、生き生きと温かみすら感じさせる、腰ほどまで伸びる金髪。
起伏に富んだボディーライン。
それを包むのはパリッとした、西洋の人形が着るような、
ゴシックロリータな赤と緑で構成された、ひらひら度は控えめな衣服だ。
多少身長は低い、普通程度だが、それを余りある脈動感が、なんだか大きく感じさせる。
美女っぽいが、なんとなく、あふれ出る若々しさ、悪戯っぽい全体的な要素、雰囲気が少女に見せる、蠱誘的な人だ。
俺は「いいなぁ、、」と、何気なくもなく、少女をガン見していたのだが、そろそろ流石に気づかれる。
「なんですか? 私に気になる所でも?」
「いや別に。
そういえば、名前は何と言うのかな?」
「シャル、です。
挨拶がてら、人形から人に変わったメカニズムでも、委細説明しましょうか?」
なぜか、自分、こちらにも、挑発的な、なにか挑むような視線、態度で接してきだした。
「いやいいよ、それじゃあ、もう行くのかい?」
少女は頷き、隣の怯えるもう一人にも視線を投げかけて、言う。
「ええ、多少は様子見をするつもりでしたが、、、どうやら無駄、
いいでしょう、このまま進んでしまうことにしましょう」
自分たちは少女を先頭に据えて、
その真っ暗な口を開ける、巨大な倉庫らしき建築物に侵入した。
入り口は薄暗い、受付も何もない、勝手に進んでいく形式、らしいのだろうか?
「既に、死んでる人が居ますわ」
少女は、立ち止まり、中空を見つめて、何でもないように語った。
「確固たる、強靭な意志を持たない、身の程を弁えない、、、
というより、なにも知らずに、夢うつつに迷い込んだ人間が、生命を刈り取られた、残り蛾」
中空を引き寄せるように、くいくいと手招きするようにしながら、語る。
「参考程度に、内部の試練の内容を、この残り蛾を使って、見てましょう。
そう言って「集まってください」と、少女の至近に、自分ともう一人を招集する。
「勝手に、この残り蛾の直近の生前が、ブレインストリーミングされますので、、、集中してください」
言われた通りにすると、だんだんと視界に靄が掛かるようになり、
自分が、まったくの自分と違う、別の視点に立っている事に気づいた。
光景はさきほどと、大きく変化しない。
だが寒いと感じた、思ったに近いか?
試練の内容は、指定された種類の、食肉を探し出して、集めて、所定の場所に納めること。
此処は冷凍庫、なのだろうか? 温度的には冷蔵庫のようにも思えるが。
何人かの仲間と共に、延々と、作業のように、その試練に取り掛かっていた。
だが、
突然だが、
頭が狂気的に、痛くなった。
笑えるほど、精神が不安定になる、実際、狂笑して高らかに声を上げていた。
そこでパタリと反転、睡魔のようなモノに襲われた。
眠れば、死ぬだろうという予感、だが抗えず、倒れる。
起きると、そこは真っ暗な空間だった。
自分は、ベッドに横になるように、地べたに倒れるような形になっている。
這って進むと、行き止まりだった。
なんとか身体をもぞもぞと動かして、反転してみると、逆側に進む。
だが、進んでも進んでも、終わりが見えない、延々と真っ暗。
自覚する、既にデットエンド、自分は囚われた、牢獄の中に居るのだと言うことを。
絶望が心を支配する瞬間、ピラっと、辺りの暗闇が晴れた。
なんとなく、上の空間を手で押すと、まるで毛布に包まれていたように、辺りが晴れた。
実際に、自分はただ毛布に包まれたように、最初の駐車場に放置されていたのだ。
「永遠に試練に挑み続ける、魂なき傀儡」
気づいた時には、回想を終えていた。
「そう、意思が弱ければ、此処では簡単にこうなるわ、お気をつけ遊ばせ」
少女はそう言うと、捕まえていたモノをとき放すように、手のひらをパワっと中空に広げた。
「私達は、確固たる、曲がらぬ、強靭な意志を保ち、この試練を踏破しましょう、ね?♪」
少女は、ひたすらに、妖艶な笑みで、魂すら鷲掴みするような、魅力的で色っぽい音響で、そう告げた。