伝言鳥
翌朝、目の眩むような朝日の光で
目が覚めた。
「ううん、、眩しい・・・」
昨日、どうやらカーテンを締め忘れたらしい。
体を起こしてゆっくり起き上がると、
目をこすって一息ついた。
それから扉を開いて
階段を降りると、
母がキッチンで朝ごはんの支度をしていた。
「おはよう、母さん。」
ダイニングの椅子を引きながらそういうと、
気付いた母が振り返った。
「あら、おはよう。今日は早いのね。」
「だって昨日一度変な時間に寝てしまったし」
「それもそうね。昨日は本当ぐっすりだったもの。
朝食、もうすぐできるから待ってね。
座る前に先に顔を洗ってらっしゃい。」
「あ、うん、そうする。」
私は言われた通り先に顔を洗う事にした。
階段の奥へ進み、その右手にある扉が
洗面所になっている。
そのまた奥が浴室だ。
洗面台に備え付けられている右の棚には、
丸い白い手洗い用の石鹸と、
洗顔用のピンク色の石鹸が木材でできた箱に
それぞれ入れられ、並べて置かれている。
左側の棚には家族の歯ブラシがかけられている。
洗面台の横には、手作りで作られた
木の棚が。高さは私の腰くらいだろうか。
1番上の棚にはハンドタオルが。
2番目の棚にはバスタオルが
3番目の棚には掃除用具だったり、予備の石鹸が
置いてある。
私はひとまず洗顔用の石鹸を手に取り
顔をやさしく洗った。
そして、棚からハンドタオルを取り出して、
水滴を拭う。
「ふぅ、気持ちいい。」
それから歯を磨いて、
ダイニングの方へと向かう。
ダイニングへ向かうと、
どうやら食事の準備が整ったみたいで、
テーブルの上には美味しそうなパンやスープ、
私の所にはオレンジジュースが置かれていた。
「さぁ、できたわよ」
「今日もとても美味しそう。父さんは?」
「いつもなら降りてきてる頃なのに・・・変ね。
リン、見てきてもらえる?」
「うん、わかった!」
私は階段を上がると、左手にある寝室に、
コンコン、とノックした。
「父さんー、朝だよ。」
「・・・」
返事がない。
再度ノックしてみる
ーコンコンーー
「父さんー?」
仕方ない、と扉を開けようとした
その時
ーーガチャッ
「!」
勢いよく扉が開いて、
父が出てきた。
「も、もう!父さんったら!
起きてるなら返事をしてよ」
父さんはなんでもなかったように、
ハハッ、と笑って
衣服を整えていた。
「ごめん、ごめん、伝言鳥に頼みごとをするのに
手間取ってしまってね」
「伝言鳥を使ってたの?」
「ああ、まったく、
うちの伝言鳥は使いづらくてかなわんよ」
父は困ったように笑いながら頭をかいた。
「あ、もう朝食の準備できてるよ」
「おぉ、そうか。急がないとな。」
そういうと父は寝室から
小さなハンドバッグを持ってきて、
扉をパタンと閉めた。
ギシ、ギシ。
下へ降りると、父は先に顔を洗ってくるよ、と
洗面所の方へと向かった。
私はそのまま、ダイニングテーブルの、
いつもの席に座る。
「父さん、起きてた?」
母が使ったフライパンなどの食器を片付けながらそう聞いた。
「置きてたよ。伝言鳥を使ってたみたい。」
私がそういうと、母は一瞬ピクッと反応した。
「あら・・・伝言鳥を・・・そうなの。」
「?」
「あの鳥も長く生きてるものね。
ちゃんと伝えれるのかしら。」
「飛ばしたって事は大丈夫じゃないかな?
でも伝言鳥を使うなんて、
父さんのお仕事、大変そうなのね。」
「まぁ昨日の今日だものね
特に今は忙しいでしょう」
そんな話をしていると、父が支度を終えたようで、
「ーおやおや、私の話かい?」と
椅子に腰を下ろした。
「おはよう、母さん。」
「おはよう、あなた。」
ニッコリと笑顔で挨拶する二人。
「さあ、いただきましょうか」
目の前に置かれたとても美味しそうなあったかいスープを
スプーンですくってごくりと一口。
やっぱり母さんの作るスープは美味しい。
「そういえば今朝、
伝言鳥を使ったんですって?」
「あ、あぁ、そうなんだ。
新しい王が決まり、今日はその王様が
この下町に来るっていうんだ
城の者は早くからいろんな準備に追われて大パニックさ」
「あなたの所もなのね」
「もちろんさ。うちの仕事は王に満足頂けるよう、
いろんな遊びだったり、芸だったりを呼ぶ仲介役だからね。
今回も、視察ついでに色々頼まれてるのさ。
ただうちの伝言鳥はもう年だなぁ
伝言内容を5回は間違えてたよ。」
「普通の伝言鳥は1回で覚えるの?」
私がそう聞くと、父はうん、と頷いた。
伝言鳥はその名の通り、
人が伝えたい事を代わりに相手に素早く届けてくれる鳥。
青い羽が特徴だ。
「さて、ごちそうさま」
父は空になったお皿をおいて、
「そろそろ行くよ」と立ち上がった。
「わかったわ」
父がたった後、母も立ち上がって、
玄関のそばにかけてあった父の上着を持って、
父に手渡した。
「ありがとう。それじゃあね」
「えぇ、気をつけて。」
「いってらっしゃい、お父さん。」
椅子に座ったまま父に手を振った。
母さんがパタン、と扉を閉める。
「さて、私も食べ終わったし、そろそろ行こうかな」
「あら、もう?」
「王様が来られる頃には戻ってくるから、
今のうちに出ておきたいの。」
「わかったわ。
片付けは私がやるから、あとはまかせていいわよ」
「ありがとう、母さん。
それじゃあ、いってくるね。」
私は玄関で履きなれた赤いパンプスを素早く履くと、
母に手を振ってゆっくりと玄関の扉を開けた。