なんでも箱
「ただいまーー・・・」
ギィ、と玄関の扉を開くと、
テーブルに座る母の姿が見えたが、
母の雰囲気が少しおかしい。
顔を伏せてなにやらボソボソと呟いている。
「かー母さん?」
私が呼びかけると、
母はバッ!と顔を上げて、なんでもなかったように
元のあの優しい雰囲気に戻った。
「リン、おかえりなさい。
どうだった?メディおばさんの様子は」
「う、うん。元気だったよ。
タルト、すごい美味しかったって喜んでた。」
「あら、それはよかった」
「ねぇ、大丈夫?どこか変だったよ」
私が怖くなってそういうと、
母はえ?っという顔をして
「私なら全然平気よ」と
ニッコリ笑って答えた。
「そ、それなら良いのだけど。
私、ちょっと疲れちゃったから自分の部屋で休んでいい?」
「あら、もちろんいいわよ。
夜になる前には父さんも帰ってくるから降りてきてね。」
「うん、わかった」
母にそう言い終わると、私は足早に
玄関の前にある階段をかけのぼり、
右手に見える部屋に勢いよく入りバン!と扉を閉めた。
「・・・」
ベットにすとん、と腰掛けて、
そのまま体を後ろに倒す。
さっきのは一体、なんだったんだろうー。
思い返せば、あの瞬間、
一気に静かになった感じがした。
祭典で盛り上がって聞こえてきた町の人の声も
鳥や水の音でさえ、無になった、そんな気がした。
母が戻ったと同時に、外の様子も
元に戻ったようなー。
そうだ、これ、どうしよう。
私はポケットに入れたままの指輪を
取り出して眺めた。
キラキラと輝くその指輪
一体、私はどうしてこれを持ってきてしまったんだろう。
はぁ、とため息がでる。
メディおばさんが知らなかったのなら、
母に聞けばとも思ったが、
今、あの母に聞くのは正直怖い。
私は起き上がって、自分のテーブルの上にある
ヘタな字で¨なんでも箱¨と書かれた箱に入れた。
小さな頃に作ったこの箱は
その名の通り、なんでも入れていい箱。
捨てるか捨てないか迷った時にも
小さなものならこの箱にいれて保管している。
「この指輪はとりあえずここに入れておこう。」
私は指輪を入れ終えると、
ベットに戻って体を布団に埋めた。