アルテミナ
目を閉じて、好きな事を考える。
自分が今どこにいるのかも
忘れて
好きな事を考える
時間なんてものも無い。
森の中にいる私を思い浮かべたり
海の中にいる私を思い浮かべたり
お菓子に囲まれてる私だったり、
この世に存在しないようなものや
実際にはありえない超常現象を思い浮かべても、
それは私の中では本物である。
ずっと、ずっと
それだけを考えて思って生きたい-
私の願いはそれだけ。
それが幸せ
ー・・・ちゃん
「リンちゃん起きて」
聞き覚えのないその声
でも私を呼ぶその声に
ゆっくりと目を開けると、心配そうに私を覗き込む
銀色の髪をした少年がいた。
「大丈夫?リンちゃん。」
目が覚めたばかりでぼんやりしている頭を
フル回転させても、目の前の少年が一体誰なのか
分からない。
「え、えっと・・・どちらさま?」
私が申し訳なさそうにそう聞くと、
銀髪の少年は驚いた顔をして、
「やだなぁ!凜ちゃん、今朝自己紹介したじゃない
僕、トウマだよ。
ほら、凜ちゃんと同じ地区の、緑の屋根のさ。」
そうは言われても、、、あ。
「ご、ごめんなさい。そういえばそうだったね」
私がそう答えると、トウマと名乗った少年は
少し沈黙したあと、
ニッコリと笑って、手を差し伸べた。
「覚えてなくてごめんなさい」
握手を交わしながらそう言うと、
「大丈夫だよ」 と笑って許してくれた。
「それより、こんな所で寝てたの?」
トウマは辺りを見渡してため息をついた。
今私がいるここは、私達が住んでいる所の唯一海の見える場所。
いや、大きい海がさらによく大きく見える場所である。
「こんな、って・・・
だって、気持ちがいいから、ここ。」
ポツリ、そういうと
「そうだろうけど、危ないよ。
だってここ、木の上じゃないか。」
トウマはそういうと、
私が座っていた木の上にまたがった。
トウマの背中には大きい、煌びやかな海が
広がっている。
「でも、どうして私の場所が分かったの?」
「君に挨拶した後、君のおじさんと、おばさんにも会ってね、
おじさんと、おばさんは僕のこと知ってるからさ
呼んできてって頼まれたんだ。多分ここだろうって。」
「あれ、父と母には会ったことが?」
「あるよ。君の事も聞いてた。
昔の・・・
あぁ、いいや。
それより!式典ももうすぐ始まるし、戻ろうよ。
おじさんとおばさんにもその事で頼まれたんだ。」
「式典・・・?」
そういえば、今日は朝から街が騒がしかった気がする。
街に大きなパーテーションが飾られたり、
大きな酒樽を持った人が大勢いたり。
あぁ、今日は次の王様が決まる大事な式典がある日だったか。
「でも、次の王様ってもう決まってるんでしょ?」
「まぁ、あの王家の中から決まるから
きっと、リオ様で間違いないんじゃないかな
みんなからの信頼もあるし、なによりあの家の長男だ。」
「そうよね、あの風貌もあるし。」
「まぁ、リオ様以外であれあの家の中から選ばれるなら
みんな誰だろうと歓迎するだろうさ。」
そう言い終わると、
街の方からゴーン、と祭典が始まる鐘の音が聞こえはじめた。
よっ、と手をついてトウマは立ち上がると、
ほら、と手を差し伸べた。
「あ、ありがとう。」
リンは、手をとってゆっくり立ち上がり、海に背を向けて
木にそなえられていたハシゴを使って下に降りた。