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タコ女  作者: 陸奥
Peace of the "Asunaro" town
7/28

007話 「夜のお話」

「ねぇねぇ。おにぃちゃん何してるの?」

 秋はベランダで外を見ている彰浩に尋ねます。

「酒飲んでる。」

「さけ? あきものむー。」

「お前未成年だろ。駄目だ。」

「じゃ、なにかのむー。」

 秋は駄々を捏ねました。丁度その時、軽く夜風が吹いたのです。レースが掬われるようにたなびきました。

「冷蔵庫にオレンジジュースでも入ってるから、それ取ってきな。」

 秋は目をキラキラさせて、台所へ向かいました。

 彰浩はそんな秋を見て、「寝てた筈じゃなかったのかよ…」と小声で洩らしました。


「ねぇねぇ、おにぃちゃんみたくしたい。ねぇねぇ、ねぇってば。」

 秋は彰浩のパジャマのズボンを何度も引っ張ります。多分、秋はベランダの手すりに腕を置く動作がしたいのでしょう。いち早く察した彰浩は、邪魔されないが為に、椅子を持ってきてそれに秋を立たせます。ぎりぎり、間に合いました。

「これでいいか?」

 秋は満足そうにしています。

「おそらきれいだねー。」と秋は無邪気に言いました。

「ああ。」

「あきもおにぃちゃんとおなじかっこーしてるんだよー。」と秋は彰浩を見て言います。

「ああ。」

「かぜがきもちいいねー。」と秋は抑揚の無い声で言いました。

「ああ。」

 秋から、笑顔は消え去ります。

 それから、二人は喋らなくなりました。

「おさらさんにいじめられたきず、なおってるかな…。」

 秋はそう言って右手首に巻かれた包帯を取ろうとします。けれど、すかさず彰浩はそれを止めに入りました。駄目だ、決して俺が言うまでは取ってはいけない、と、力強くその手を握って言います。秋は、少しほっとしました。

「早く治るといいな。」

「うん。」

 秋は頷きました。


 しばらくして、二人は大きな欠伸を殆ど同時にしました。寝ようか、と言ったのは彰浩です。秋は一足先にベランダから出ていきました。椅子は彰浩が戻します。


 程なくして二人はベッドに入りました。秋は兄の胸の中で安心して今日も寝られます。秋はこの時間が、一番幸せを感じる時でした。


 丑三つ時かそこらになって、秋は彰浩が寝室から出ていく姿を見ました。眠気眼でその姿を追います。けれどドアを閉めていく、その間に見える背が、どことなくいつも見ている実の兄には見えなかったのです。あれとは違う、安心できる背中ではありません。とても恐ろしいことです。だから秋はそれが夢だと思いました。それから夢の中でもう一度寝たのです。さっきのは見なかったことにして。

 するとどうでしょう、朝にはやはり彰浩は秋の隣ですやすやと寝ているのです。朝食を早く作ってくれと無理やり起こそうとしましたが、やはり止めておきました。何故か、どこからか嫌な匂いがするのです。食欲の減退は、そこから起きていました。

 それを言おうともしましたが、面倒なので、もう一度寝て解決しようと考えました。いい香りがする枕に顔を押し付けて目を瞑っていると、すぐさま眠りに就くことが出来ました。

 そして、いつもの日常が、これから始まるのです。


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