プログラマー・橋田匠の場合
やっと更新できました。理由はあとがきで
彼の経歴はかなり特殊なものだった。
35歳までニートをしていたのだ。
ニートが職業のように表現されているのもおかしなことだが。
なぜニート生活をしていたのかといえば、彼の性格的なことが大きく影響している。
大学受験を2回失敗したのがきっかけであった。
それですっかり自信を無くし、彼の負け犬人生がスタートした。
最初はバイトをしていた。
新人の頃は何でも失敗するものである。
失敗をしても次に失敗しなければ良いのだが、彼は先輩運にも恵まれなかった。
一度目の失敗を責め続けられ、そして居場所がなくなっていった。
彼は反論、反発することが酷く苦手なのである。
何をしても失敗ばかり。
失敗を恐れて人目が怖くなりいつの間にか鬱症状が出るようになってしまった。
自宅に籠りがちになり立派な(?)ニートが完成してしまった。
自宅に籠りっぱなしの時間は最初はオンラインゲームをしていた。
しかし、仲間とかチャットとかが正直うざくなって止めてしまった。
次に興味を持ったのが、一人用のゲームだった。
RPG、ADVなど人との関わりがなく遊べるものをしばらく遊んでいた。
しかし、それもすぐに興味が無くなってしまった。
次に興味を持ったのがプログラミングだった。
3年ぐらい触っているうちに自分でも思い通りにコードを走らせることができるようになってきた。
プログラムを組むことがお金になるような仕事を探し始めたのが35歳くらいからだった。
会社に行き、仕事をすることは彼にとって全く苦ではなかったが、人と会話することが苦手を通り越して苦痛だった。
最初はできるだけ会話しないようにしていたが、上司の先輩がおおらかな人だったのが彼の心を徐々に軟らかいものにしていった。
何とか10年間という期間会社に勤めることができたのも上司の先輩がいたためだ。
自宅には共用のパソコンが居間に一台置いてあるり、母が料理のレシピを見たり、旅行先を調べたりするのに利用していた。
そのパソコンが変になったから診て欲しいと相談された。
「送られて来たメールを開いたら、変な画面が開いて、これはウイルスに感染したと思ったからすぐに閉じたのよ」と言われた。
母さん…そんなテンプレなウイルスの感染の仕方はをするとは…
話しで聞いただけでは解らないので、パソコンを立ち上げて、ウイルスを削除して、元となったメールをUSBに移して、自分のパソコンで解析することにした。
変な画面が開いてということは、ウインドウが開いて目に見える形で異常を起こしてくるのだろう。
勝手にファイルの中身が書き換えられたり、ウェブ上にファイルがアップされる様なものではないことは、居間のパソコンを開いて確認済みである。
そこまで危険性の高いウイルスではないと思いオフラインのパソコンで開いてみたが、どうやらこれはトロイの木馬と呼ばれるタイプのウイルスだった。
トロイの木馬に感染すると他のウイルスを勝手に招きいれたりするので、オフラインで作業する場合にはほとんど効果を出さない。
ところがオンラインにした場合、目的のウイルスを自動でインストールし、そのウイルスがクレジット番号のデータを勝手に送信したりとかなり厄介なことになる場合がある。
橋田はトロイの木馬型のこのウイルスが他にどんなものを引っ張り込むか興味が湧いてきた。
さっき母が言っていた、変な画面というのがちょっと気になったのだ。
そこで個人情報の入っていないパソコンをオンラインにつないだのだ。
そしてブラウザを起動したときに自動的に勝手にプログラムが発動した。
画面いっぱいに下からアルファベット流れていく。
それをじぃっと見詰めていた。
そして突然胸に激しい痛みが走り視界が暗くなった。
死んだと告げられたのは、自分の記憶の無い場所に寝ていたからだ。
死の瞬間ははっきりと覚えていないし、死んだ実感がまるでない。
でも橋田は生きていても死んでいてもさして問題ではないと感じていたのだ。
それは30歳を超えた頃から生きている実感をすることがほとんどなかったからだ。
何をやってもうまくいかないと感じた20代。
引きこもりになって10年という時間は生きているという感覚を奪い去ってしまうには十分だった。
生きている感覚、それは喜怒哀楽の感情を伴った感動の瞬間の積み貸せねであろう。
それが10年もの間にそぎ落とされ、機械の様なただ命令されればその通り動くという人間ができあがってしまったのだ。
35歳から会社勤めをし始めたときは、最初は本当に人付き合いが嫌だった。
人懐こい上司のおかげで、なんとか他人と付き合っても耐えられるようになったのだ。
「死んだなら死んだで、まぁいいか」
ぼそりと口の中で呟く。
彼女もいなかったし、大切な人といえば70歳にもなる母親ぐらいだ。
母より先に死ぬのは心残りだが、それも運命かなと達観していた。
いや達観ではない。
無感動による、心の働きが鈍くなっているために、悲しみが欠如しているだけなのが、橋田匠という人間なのだ。
子供の声で語りかける話を、聞き流しながら整理をしてみると、どうやら次のことがこれから起こるらしい。
まず、自分は死んで、ゲームの中に転生するらしい。
これから行く世界は「箱庭」という世界で、50キロ四方の広さがある世界で、そこで自由に生活して欲しいということだ。
生活するにはお金が必要になる。
お金を稼ぐ手段はクエストを消化することにより対価を得ることができる。
クエストはNPCに話し掛けると頼まれたり、NPCの方から巻き込むように話を振られたり、自分から積極的に情報収集することも必要になるという。
話をするというのが最も苦手な自分には、ゲームの中だとはいえ不安がある。
お金はステータス画面を開くことにより確認することができる。
実際に触れるコインというのは存在していないというのが現実との大きな違いの一つであろう。
腹が減ったら、何か食べることが必要になるが、大小便は出ない仕様になっている。
食糧は店で買うこともできるし、自分で作ることもできるし、フィールドで動物を狩ったり、木の実を取ったりと手段はいろいろある。
ただしフィールドには、羊や馬など友好的な動物から狼や虎や熊など肉食獣もいる。
さらにはモンスターも配置しているのでフィールドを歩く際には十分に注意して欲しいということだった。
村人NPCを攻撃したり、村人の物を盗んだりしたら指名手配され、勝手に女性の胸を触るなどの18禁行為もできてしまうが、痴漢者の烙印を押され、追われることになるので、NPCだからといって、他のゲームのように勝手に箪笥の中を漁るのは止めた方が良いらしい。
あくまで社会のルールを守って生活しましょうということだ。
「ようこそ僕の箱庭へ!」
明るい声と共に白い部屋が徐々に溶けるように色がにじみ、目の前に自然豊かな光景が広がっていく。
向こうに見えるのは村だろうか。
橋田匠はスミス・アランシーと名乗り箱庭の世界に初めての一歩を踏み出した。
やっと最後のプレイヤーを箱庭に案内することができました。
彼の役割はもう決定していたのですが、なかなかマイクラで殺すことができなくて苦労しました。
というのもコミュ障でパソコン知識も豊富という極端な性格のせいで、私(作者)の考えた罠をことごとくかいくぐっていくのです。
それでも何とか殺すことができ、箱庭の中に送れました。
穴の多い、つっこみの多い回になっているのは十分承知のうえです。
しかしこれが一番しっくりくる死なせ方だったのです。
他の話はもっと酷い、というか死ななかった。
読み返してみると、あまり面白い回ではないですね(苦笑い)
次回は箱庭の外の世界の話です。
またちょっとネジの外れたキャラが出てきます。