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第二章 英雄

  第二章 英雄  



     一

    

 三日月は後輩の堀池と北川と飲んでいた。

 酒の勢いでつい口がすべった。光のことを話した。

 「それ、まじっすか。すげえ」

 北川は信じられないといった表情を浮かべている。

 「それでその光は自分で出すことができないんですよね。そのなんというか、ピンチになった時にというか、そんな状態になると自分の意思に反して突然出るということですよね」

 三日月は大本と土佐堀川で試したこと。駅のホームでの出来事を再び話すとビールを一気に流し込み、ジョッキを置いた。

 「ピンチにならないと力がでないのなら、逆にピンチになりそうな場所に居て、人を助けたら三日月さんはヒーローになれますよ」

 「北川、それってどんなところ? 例えば夜のミナミのいかにも危なそうな感じのする場所なんかに三日月さんが立ち、トラブルに巻き込まれそうな人を待つとか、そういう事?」

 堀池が北川を睨みつけた。

 「そこまで具体的に言われると逆に可笑しいですよね。街のごみ掃除みたいなそんなちっぽけなものじゃないですね。もっと大きな……そう、レスキューかな」

 北川は勝ち誇ったかのような笑みを浮べた。

 「レスキューの現場で三日月さんが待っていて、それで誰かがピンチになると光が出て……それウルトラマンだろう?」

 堀池はジョッキを置き拳骨を北川のほほにかるくあてた。

 「とにかく、この話は秘密だ。まあ言ったところで誰も信じないだろうけど。おまえらだって信じてないしな」

 「…………」

 「まあいいよ。チャンポン食って帰ろうか、焼き鳥屋のチャンポン」

 「ああ、あの店ですか。いいですね」

 梅田駅ビル地下の飲食街の店を出たのは十一時半を廻っていた。

 それぞれ方向に別れ、一人となった。

「最終か」低い声で呟いた。

 満員終電に乗り江坂駅で降りた。本日の業務終了を告げるアナウンスが駅構内に響いている。三日月は左側出口から出た。そのまま帰る気にはなれずふらふらと駅近くの繁華街を歩いた。カラオケ店の前で若い男女が数名、大声で話をしていた。三日月はその中をくぐり抜け中に入っていった。

 一時間ほど喉を震わせ気分も落ちついた表情をした三日月はエレベーターホールに降りた。

 丁度、店の前で数人の男に絡まれている若い会社員の男がいた。前を通らないと店の外には出られない。そのまま躊躇せず中に飛び込んでいった。通り過ぎようとした時、一瞬絡んでいた男達の声が止んだ。

 「おい、にいさん」

 絡んでいた男は三人だった。その中のひとりが近づいて来た。帽子のつばを後ろ向きにかぶり迷彩色の大きめの半ズボンを履いた太めの男である。二十歳過ぎに見える。男は目前に立った。頭一つ高い。

 体がいっきに硬直し顔が火照った。

 「なあちょっと恵んでくれへん。このあんちゃん、金もってないねん」

 男は笑みを浮かべ高い声を発した。

 会社員の男を相手にしていた二人がこっちに近づいて来た。

 小柄だが色黒く太い腕をしている。Tシャツの袖下から刺青が見えている。やくざ者かどうかは分からない。

 抵抗してもかなわない相手だ。しかも三人。 

 三日月の手を小柄な男の黒く太い手が掴んだ。

 「おい」

 男が声を荒げた。

 何かが弾けた。頭が真っ白になった。同時に怒りが湧き上がった。

「ううっ」三日月の口から声にならない音が漏れた。

 手のひらにぼんやり白い光が浮かんだ。

 三日月は声を荒げた。低い声で吼えた。

 光が強烈な閃光となり、あたりを白く包んだ。

 男達の悲鳴が聞こえた。


 時が暫く流れた。

 男達は倒れていた。地面にうつ伏せのまま動かない。

 三日月は逃げた。この場から逃れたかった。

 会社員の男が見ていた。

 走りながら三日月の硬く引きつった顔は笑みに変わっていた。ついに自分のものになったという確信がその表情に表れていた。


 部屋の扉を開け、電気をつけた。

 「ただいま」

 誰もいないが三日月はいつも声を出している。別に意味はないが今日も自分にお疲れ様という意味であった。

 部屋は比較的綺麗になっている。面に物を置く為、開いているスペースはあまりなかった。


     二


 波は洋と食事をしていた。二人の兄弟は神奈川県出身である。波が大阪の食品会社に就職した後、洋が大学に入りやって来た。同じマンションで暮らしている。

 「ねえちゃん。何黙っているの。お通夜みたいだ」

 洋は顔を下に向けたままフォークでスパゲティを絡めながら言った。

 「ああごめん、ちょっと考え事をしていたから」

 「ねえちゃんが言ったんだよ。テレビをつけると会話がなくなるから食事の時はやめるって。これならテレビ付けていたほうがよっぽどいいよ」洋は声を荒げた。

 「ねえ洋、人とすれちがった時に一瞬、この人と何かを共有してるとかそんな事、感じたことある?」

 「はあ? 何言ってるのかわからないよ。すれちがった人と共有? それって単純にその人に一瞬興味が湧いただけなんじゃないの。そんなの俺はいつもだよ。この子かわいいなとか、この人綺麗だなとか」

 「そんなことじゃない……うまく説明できないけど、何か特別な感覚を共有した人と偶然鉢合わせをした時の感覚……」

 波は説明が出来なかった。が分かっていた。すれ違った男は間違いなく自分と同じ経験をしている……


 日曜日。

 波と洋は大阪駅ビルの商業施設屋上にあるテラスのベンチに座わっていた。休日はよく二人で買い物をする。

 「しかし、俺しか誘う相手がいないのかよ。周りみろよ。普通その年なら誰か……」

 「やっぱり休みが晴れていると気持ちがいいね」洋の言葉にかぶせた。

 「そうだね。じゃあ俺、映画そろそろ始まるから。四時にここで」

 「じゃね」

 テラスのフロアに映画館がある。洋は『猿の惑星』のシリーズ最新作を見ると言って館内に消えた。

 (見ても良かったけどね。まあ今度見ようかと言って見た験しはないか)波は立ち上がると濃紺のジーンズの尻を払った。

  

 四時少し過ぎて洋がテラスに現れた。

 「いやなかなか良かったね。これからいよいよ人類との決戦だ。次回作は人間狩りが始まる。新作もなかなかだな」

 「旧作って、これって初めての映画じゃないの」

 「ちがうよ超有名な映画だぜ。旧作はたしか五話くらい作られたと思う。親父お袋の世代だよ。俺が小学生の時に親父と一緒にテレビで見た記憶がある。世界中でもかなりのインパクトを与えた作品だ。日本でも良く似たテレビドラマが作られたんだ。『宇宙猿人ゴリ』とか、『猿の軍団』とかテレビでやっていたのを見た記憶があるよ」

 「へえそうなの。私はぜんぜん記憶にないわ。でも洋、こんな話になると良くしゃべるね」

 波は下の階へと続くテラス前方の階段へと向かった。丁度、女の子が二人上がって来た。とその時、大きな音が後方で響いた。ベンチ後方の木が倒れて来た。根が現れ完全に植え込みより離れて重さの為に倒れて来る。タイミング良くこのままだと階段の上に落下する。誰もすでに間に合わない。

 「あぶない!」

 波が叫んだ。

 「ねえちゃん!」

 波が動いた。動いたかどうか分からなかった。波は木を手のひらでつっかえ棒の如く支えていた。

 引きつった表情を浮かべ硬直していた二人の女性は急いで落下地点から離れた。一瞬、波は何が起こったのか理解していない表情である。木の落下点に入る直前、足元に確かに白い光が走った。瞬時だった。波の横には洋がいた。殆ど木を支えることには関係のない箇所を洋は押さえていた。二人を見た者には波一人が支えていることは信じられないことだろう。波自信でさえ信じていなかった。周囲から数人、男性が助けに来た。そしてゆっくりと木を地面においた。

 「ねえちゃん。すごい力だったよ。火事場の馬鹿力だな」

 洋が手を払いながら言った。そしてその場に力なくしゃがみ込んだ。

 「いったい何なんだよあれ、いったい何? 俺……見たよ。ねえちゃんの靴から出ていたもの」

 「…………」

 「ねえ説明してよ。あれ何なんだよ」

 「わからない……」

 「でも、わからないって、ねえちゃんがやったんだよ……あんな力、普通出る訳がない。皆見てたよ。絶対に誰かがネットに書き込みをするから」

 「…………」

 そしてその日中にネット上の書き込みサイトには数十件の書き込みがあった。いづれも目撃談であったが、それ以上の広がりは見せなかった。波は数日前に起こった奇妙な経験を洋に説明した。洋は黙って聞いていたが信じようとしなかった。だが実際に経験した波の力や足元から突然発光した白い光を思い浮かべた結果、最後には認めざるをえないことになった。

 ……二人だけの秘密だと波は洋に約束をさせた。

  

 人間は力を自分で調整する機能があると言われている。普段百パーセントの力を使用すれば筋肉は破壊される為、脳によって常時二~三割の力しか出せないようにセーブされていると考えられている。しかし緊急時、冷静な状態でいられない時には興奮作用のある『ドーパミン』の様な成分が脳より分泌され抑制が緩和され想像を超えた力が出ると考えられている。

 だが波の力は全く異なるものである。足元に白い光があった。瞬時に移動を可能にしたのもその光の影響であろう。

 (この力はあの衝撃を受けた時に宿ったものなの?)

 波は赤いスニーカーを見て呟いた。 

 

     三

 

 風間は黒いゴムの地面を蹴っていた。息が上がっていた。自然と喉から声が漏れる。

 広い天井を見上げ照明の光をぼんやりと見ていたがやがて周囲を見渡した。

 高齢の男性が圧倒的に多い。平日の昼前だから当然である。学生や会社員はいない。ウエイトトレーニングをしているジェシーが見えた。脇目も振らず無心の表情でバーベルを上げ下げしていた。

 会社が経営しているこのフィットネスジムで午前中はトレーニングをすることが日課であった。

 午後からは備品の整備や雑用。次の旅行予約の準備、時には顧客との打ち合わせなど営業業務も行うこともある。

 今日の午後からも打ち合わせが入っていた。


 「風間、昼から出かけるのか」

 「ああ」

 「どこへゆく」

 シャワールームの脱衣場の鏡の前でジェシーが髪を乾かしながら尋ねた。

 「名古屋だ」

 「名古屋か」

 「ああ東海紡績だ。岡崎工場で例の年始に行う展示会の打ち合わせだ」

 「東海紡績か。風間、実はその話だが、NASAの友人から聞いた話だが、どうも何か裏がありそうだ」

 「裏って何だ」

 ジェシーはドライヤーを風間に渡すとくるりと背を向けた。右の肩甲骨の上に薔薇の刺青がある。

 「日本政府と極秘に調査を行っているという噂がある。」

 「調査?」

 「そう調査だ。それも月の調査らしい」

 「月の調査……何を調べているんだ。俺達は政府の要請でこの前、消えた衛星を探しにいったよな。結局、おきなは発見できなかった。何の痕跡なく、忽然と消えたんだ……だが、もしあのクレーターの中に……」

 「風間」

 ジェシーは口と鼻の前にまっすぐ人差し指立てた。

 「誰がいるか分からない。あの話はするな」

 「ああ分かっている」

 クレーターで見たものは二人だけの秘密であり、口外しないという約束だった。

 

 ドリンクコーナーで着替えを済ました二人はテーブルに向き合っていた。ジェシーは会社規定の白いナイロン製の作業服を着ていた。風間は白いワイシャツと黒のスーツ姿である。

 「東海紡績は単なる繊維メーカーじゃない。医療用途から航空宇宙用途まで最先端の素材メーカーだ。新素材を開発するには地球上にある元素では限界がある。そこで目を付けたのが身近にあり過去から言われ続けている月の鉱物だ。例えばレアアースなどは地球の規模とは比べものにならない埋蔵量がある。NASAも当然アポロ計画より月の鉱物調査を行いそれらを採掘して持ち帰り研究を続けて来たが最終的にはコマーシャルベースに乗せることが出来るか否かが問題だ」

 ジェシーは紙コップのコーラを飲むと続けた。

 「月の鉱物の採取を彼らは行おうとしている。しかも後ろに日本政府が付いている。NASAも多分、協力している。うかうかしていると中国、ロシアに遅れを取る可能性があるからな。各国がこぞって月の資源を狙っている」

 「月か。そこまで熾烈な競争になっているとは、世間も知らないことだな。極秘裏でそんなことが進められているのか……それならその三社ですでに月の探査も行われているのではないのか」

 「そう。風間その通りだ。友人は言っていたよ。NASAで数年前から日本人を良く見かけるとね。多分、政府の者か東海紡績の人間だろう。そしてすでに調査は数回行っている筈だと」

 「なんだって? すでに行っている? そんなことをしたらすぐに分かるじゃないか?」

 「だが衛星を打ち上げたロケットが月探査目的の宇宙船だとどうして分かる。カモフラージュすればやれないことはない。月の裏側に回り宇宙船を着陸させれば地球からは見えないんだ」

 「…………」

 風間は言葉を失い。立ち上がり紙コップを握り潰すと自販機横にあるゴミ箱に上から投げ込んだ。

 「風間、あの時から何かおかしくないか。俺、このことを風間に言おうとしていたんだけど言えなくて……」

 「ああ確かに何か違うと思ってたよ。ジェシー、君の体に何が起こっているのかは俺には分からないが何か特別な能力が備わったような気がしている」 

 「特別な能力?」

 「ああ。多分、俺は姿を消すことが出来る。月から帰りそのまま検査入院をしただろう。その翌日、俺は自分の腰から下が消えて無くなっている光景に驚いた。完全に消えているのではなく、太陽の光で足の形がぼんやりとは見えた。俺は安心した。なくなっているのではない。見えないのだ。光が屈折して像の焦点が定まらない為に肉眼で見えないと理解した」

 「それで風間の足はどうなった」

 「運良く看護婦が部屋に来た時に瞬間にして元に戻ったよ。だが、その後自分の力で消すことは出来てはいない」

 「風間、俺も同じ。体が消えるんだ。しかも自分ではコントロールできない。でも普通にしていれば消えない。驚いた時とか眠っている間とか、良く分からないんだ……」

 「それと光が出る……出せるみたいだ。だがまだそれが何なのかが分からない。とにかくそれをコントロール出来なければ俺達は非常に危険な存在となるかも知れない。マスコミの興味本位の対象では絶対にないことだけは言える」

 二人は互いの能力の存在を共有した後、それぞれの仕事に戻った。コントロールが出来るのか。早急に解決しなければいけない問題であった。


     四

  

 新大阪から名古屋へ向かう新幹線の中。風間は一人で窓の外を眺めていた。ジェシーは営業は行わない。外国人であるからではない。パイロットは出来るだけ外部には出さない規則がある。それは体が資産である故、外出により生じる諸々のリスクを受けない他、外部との接触を避けるという目的であった。

 名古屋駅で名鉄に乗り換え、岡崎の一つ手前の駅で降りた。徒歩で五分ほど歩くと大手繊維メーカーの巨大な工場が現れた。風間の乗るムーンダンサーもこの繊維メーカーが開発した炭素繊維を積層し成型した翼である。この工場で来年正月より月旅行展を開催する予定でありその打ち合わせであった。シャトルのコクピットを再現した実寸模型の展示を行う。風間の会社はこの展示会での利益は考えていない。一回の費用が二千万円する旅行費用は以前より安くなったとはいえ庶民が興味を抱く対象にはなり得ない。事業提携の話が背景にあった。今後数年間の間で共同運航を行うという事業計画であった。それにより大幅なコスト低減が可能となりシャトル保有数の増加に伴い飛躍的な低価格が期待できるものであった。

 風間は東海紡績の岡崎工場応接室の黒革のソファに腰を下ろし考え事をしていた。足音が聞こえ木製枠にガラスが組み込まれた扉が開いた。油が切れた蝶板が音を発した。

 「すいません。遅くなり申し訳ありません」

 息を切らせ入ってきた男は、色黒の大柄で短い髪の頭皮は少し薄くなっていた。

 「初めまして、風間と申します」

 「秋口と申します」

 差し出された名刺には素材研究部開発課主任研究員とあった。名刺交換をすませ腰を下ろした。

 「秋口さんが色が黒いですね。ゴルフとか釣りとかおやりになるのですか」

 開口一番風間が聞いた。

 「いやこれは山登りが好きで、近くの山に良く登るものですから。遊び半分の山歩きです」

 笑みを浮かべているが秋口の目には鋭いものがある。

 「さっそくですが、本日は旅行プランの打ち合わせということでお伺いしました」

 「……実は、申し訳ないと思っておりますが、その話は口実でありまして……風間さんに直接お聞きしたいことがありましたので少し嘘をつかせて頂きました」

 「嘘…と言いますと」

 風間は秋口の顔の前に身を乗り出した。

 「申し訳ありません。風間さん、先日月の調査から帰ったと伺っております。その時の話をお聞きしたいと思いまして……」

 風間の顔色が変わった。

 月探査は風間の上司、社長と宇宙開発機構の一部の人間しか知らない極秘中の極秘事項であった。仮に種子島宇宙センターから発射されたロケットを海保、自衛隊、報道機関が掴んだとしても政府がそれを抑え公表はされないことになっていた。事実、そのことを日本国民は知らない。事実メディアには一切情報は漏れていない。しかし秋口は知っていた。

 「なぜ……あなたがご存知なのですか。あのプロジェクトは極秘でした」

 「その通り極秘です。一部の者だけしか知りません。でもその一部の者に私どもは属しております」

 「私ども……それでは秋口さん以外にもこのプロジェクトを知っている人が居ると……」

 「はい、少なくとも素材事業部と当社幹部は、あの日、種子島での発射場に居りました。風間さんにはここだけの話として聞いて欲しいのです。ただ、驚かないでもらいたいのです……我々の会社は素材開発に非常に力を注いでおります。今や企業は如何にして新しい素材を発見しそれを事業化するかにかかっています。以前ですが電子部品に使用される素材が貴重な資源として認識されると世界中で素材を買い占める国が現れ、価格高騰と供給不安により世界の工業界がパニックとなりました。我が国においても動力部品の一時生産停止を余儀なくされた製造メーカーがあったことは記憶に新しいと思います」

 「…………」

 「世界中の流れが新素材開発に傾き国家を挙げての競争激化の中、日本は素材開発から方向を転換したのです。素材の発掘調査という方向に向かったのです。そしてその発掘先は月でした」

 「月?」

 「そうです。月は『レゴリス』と呼ばれる物質で覆われています。厚いところでは二十メートルもあり、この『レゴリス』こそが月の希土類。レアアースです。このレアアースは酸素、水、コンクリートや金属の原料となります。またこれらの地殻構成物質のほかに、直接降り注ぐ太陽風ガスが『レゴリス』中に吸着し長期間埋蔵されている物質があります。水素、水、ヘリウム、二酸化炭素、メタン、窒素などの揮発性物質でそれらは二百~九百度に加熱すれば容易に回収が可能なのです。なかでも『ヘリウム3』は核融合炉の燃料となることから注目されている物質です。核分裂では原子炉から高レベルな廃棄物が大量に発生しますが、核融合反応として現在最も実用化が見込まれているものとして重水素と三重水素の核融合反応があります。しかしこの方法は中性子が発生し、放射性廃棄物が生成され長期管理が必要となります。高レベル廃棄物でないにしても炉壁が放射化することになります。そこで重水素と『ヘリウム3』反応が注目されているのです。この反応ではエネルギーを荷電粒子である陽子が担い放射性物質は発生しません。技術面では大変難しいとされてはいますが……この『ヘリウム3』が月には豊富にあるのです。地球上には存在量は極めて少なく数百キログラムと言われています。しかし月の『レゴリス』には数百万トン埋蔵されていることがアポロ計画の探査で明らかになったのです。『イルメナイト』と呼ばれる鉱物を含む土砂は『ヘリウム3』を大量に埋蔵していでます。『静かの海』には二メートルまでの深さに八千トン含まれていると言われているのです」

 「……それで月の探査を開始したのですか?」

 「探査は宇宙開発機構とNASAと我々の共同チームで行われました。実際に月面で探査を行った結果、効率から考えると最も多く『ヘリウム3』が眠る月の裏側に探査が縛られました。効率というのは誰の目にも触れることがないという意味も当然含んでいました。そして探査が始まったのです。しかし、そこで思わぬ事態が発生しました……何者かが……すでにその場所に居たのです」

 「何者かが……」

 風間の声は震えている。

 秋口が続けた。

 「探査機は目的地である南極のエイトケン盆地に着陸を試みました。探査機からの送信は『かぐや』がバックアップし地球に送信をし続けていました。カメラの画像は突然、クレーターから暗闇に向かって照射されるライトを映し出した後、真っ白になり送信は途絶えたのです。チームはクレーターからの強烈な光源が関係していると考えました」

 「……そして『かぐや』の小衛星『おきな』が調査に向かいその『おきな』も消息を絶ったということですか」

 「……そうです」

 秋口の声は低い。風間を見つめている。

 「そしてあなたはその現場を見て来た。風間さん、何があったのか是非教えて欲しいのです」

 風間は暫く黙っていたが口を開いた。

 「……それは会社にも、宇宙開発機構の皆さんにも何度も申しましたが、何が起きたのか私自信、良く覚えていないのです。本当です。私は確かに光を見ました。間違いなくクレーターから光が発せられていたのを目撃しました……でもその後、私もパイロットのジェシーも記憶を失ったのです。気が付くとクレーターをかなり通り越した場所にいました」

 「そのジェシーさんも何も覚えてはいないのですか」

 「はい、私よりもずっと優秀で肉体的にも強靭な彼ですが、光を見た後のことはまったく記憶がないそうです」

 「そうですか……」

 秋口は目を閉じた。


 風間は東海紡績を出た。

 外は薄く暗くなっていた。

 駅へ向かう路地を歩幅を大きくして急いでいた。

 一瞬体が震えた。地面から低い音がした。

 地震だ。少し大きい。咄嗟に風間はその場にしゃがみ込んだ。周囲を走行している車も停止し様子を伺っている。

 かなり大きな横揺れが続いた。

 街頭が消えている。あたりが夕暮れの空からの暗い明かりだけとなっていた。風間は駅に向かい歩きだした。車も流れ始めていた。

 駅も暫くすれば回復するだろうと考えた。駅の周囲はまだ暗く、電気はまだ回復していなかった。自動改札機も止まったままだった。

 風間はセンサー部分に手をかざした。音がして改札のストッパーが開いた。周囲に人はいない。駅員がいない無人駅であった。ホームの椅子に座った。駅一帯は静寂に包まれていた。風間は暗闇の中、反射的に手を伸ばした。手のひらにぼんやりと光が浮かび上がり手を上方に向けた。蛍光灯の明かりが点燈した。そしてホームの明かりは全て回復した。周囲の人は安堵の表情を浮かべていた。

 (このくらい簡単だ)風間は呟いた。

 月から帰還した後、体に異変が起きたことに気が付いた。意識を集中すれば手から発光する。月面クレーターから発せられた光を浴びたことにより備わったことは間違いなかった。

 停電した駅には監視カメラがある。風間はそのホームのカメラを凝視した。安堵の表情を浮かべていた。が風間は大きな勘違いをしていた。停電により全ての電気機器が停止していた訳ではなかった。風間の表情はレンズの奥で電気信号に変換され記録された。国の安全基準の見直しにより国土交通省は公共交通機関に設置されている監視カメラの供給電源を非常電源設備に改善するよう義務付けていた。災害時における監視カメラの情報を重要視したものであった。情報は主に所轄警察が管理を行っていた。

 公安に情報は入った。

 公安に渡った風間の動画はトリックでないことを専門家が分析し上部組織に報告された。

 警察庁長官から官房長官を経て防衛大臣の斎藤の耳に入った。

 総理の林田と斎藤はソファに腰を下ろし画面を凝視していた。

 「トリックではないのだな」

 「総理、専門家の所見ではCGで作成された画像ではないとのことです……」

 「この男が誰かは分かっていないのだね」

 「はい、目下総力を挙げて画像解析を進めて照合をしておりますがそう時間は要しないと思われます」

 林田はソファに深く体を沈めると目を閉じた。


     五


 ジェシー・ラベルは目を閉じて頷いた。

 「ではこれでよろしいでしょうか」

 黒い服の男は笑みを浮かべて電卓を見せた。

 「オーケー、いいよ」

 ジェシーは再びシルバーのつまみを回し目を閉じた。音が大きくなる。スピーカーのコーンが振動で動いている。

 満足な笑みの表情で音に聞き入っている。

 (ロックはラウドネスを大きくしないとリアルなレコーディングはわからない)

 家電量販店から出ていたジェシーは大きな箱を提げている。音響メーカーの青いロゴの入った段ボールには先程購入したスピーカーが入っていた。そのまま地下道に入り、レコード店に入った。スピーカーの箱を足元に置き、CDを手にした。最近デジタルリマスターされ世界中で発売された『レッド・ツェッぺリン』のファーストからサードまでのアルバムセットである。リーダーでギターのジミー・ペイジが監修したものだった。

 「こんにちは」

 声を掛けて来たのは店長だった。

 「こんにちは」

 「これ凄い。ボンゾのドラムの音が凄い。ペダルを踏む足の動きが伝わってくる感じです。私はドラムをプレイするので余計分かりますが、あのズドド、ズドドっていう三連のキックがあまりにリアルです。ジョンジーの指とベース弦の擦れ音までがはっきり聞きとれます。ZEPファンにはスペシャルアイテムです」

興奮して話をするジェシーに耳を傾ける店長はハードロックに精通していた。ジェシーとは話が弾む。

 「そんなに凄い? じゃあ僕も買おうかな」

 「そうだ、これ見て下さい。さっき買ったんです」ジェシーが足元に置いてあった紙袋から中身を取り出して見せた。

 「おお、これは『一○M』ですか。これ再発されたんですよね。凄いですね」

 「この小さなスピーカーが世界中のレコーディングスタジオのミキシングルームにあるんです。だから、これで聞くのが一番リアルなレコーディングの音になるのです」

 「ジェシーさんような人はあまりいないですよ、大体、オーディオマニアは高級なアンプとスピーカーを組み上げて部屋で音を作って聞いているんですよね。まあそれが良いとか悪いとかではないんですが、でもその音が作られた現場の環境を理解して、どのスピーカーでミックスダウンされたかまで語れる人はあまりいないですね。大体、音楽をやる人はそんなことには興味がないし、ましてや音を作る現場の人は絶対に音を聞きたがらないものです。レコーディングの仕事をしている友人がいますが四六時中音楽を聴いていると休日は音のない世界を求めて、山登りをしていますよ」

 「何かその人も悲しいですね」

 ジェシーは早速、ZEPの3stをセットしヘッドフォンを装着した。一曲目、移民の歌。テープの逆回転のノイズがまるでボンゾのキックのカウントに聞こえる。初めてこの曲を聴いてから最近までこのノイズはボンゾのバスドラムのカウントであると信じて疑わなかった。

 再生ボタンを押した。かなり大きなノイズが聞こえた。後ろで声がする、「オーケー、レッツゴー」ライブでもおなじみの声がはっきり聞こえた。ボンゾの声。ジェシーの体は震えた。その奥で笑い声が少し聞こえた。ジミーとロバートの会話。ロバートの高くしゃがれた声。ボンゾのキックが強烈に聞こえた。靴でペダルをスライドさせる擦れ音まで聞こえる。

 「すごい」

 曲が終わるとヘッドフォンを外し、店長を探した。手に掴んでいるヘッドフォンからは次曲『フレンズ』のイントロが聞こえている。

 店長が棚の向こうから向かって来た。

 「すごいよこれ、ボンゾの声が入っている。ジミーの声もロバートの声も、それにキックのペダルを踏む音までだ」

 ジェシーは顔を赤くして興奮している。興奮のあまり声が大きい。

 「声まで……ぼくは聞き取れなかったな。ちょっと待って……」

 店長はCDのボタンを操作するとジェシーの手からヘッドフォンを取り長い髪を耳の後ろに引っ掛け片側ずつ耳にセットした。

 つまみをかなり大きく回し目を閉じた。音が外まで漏れる音量だった。暫くしてヘッドフォンを外した店長はCDをストップさせた。

 「残念ながらぼくにはボンゾの声は聞き取れなかったよ。また店が終わってからゆっくり聞いてみるよ」笑みを浮かべた。

 

 ジェシーは店を出た。と同時に表情を曇らせた。

(聞こえるはずがないんだ。俺にしか聞こえない)小さく呟いた。

 風間には説明していた。

 あの驚愕の経験で検査入院中の時であった。ジェシーは風間より特殊な能力が備わったことを聞いた。光を屈折させることが可能であり姿を消すことが出来る。ジェシーにも同じ能力は備わっていた。だが光りを放つことはなかった。今に至ってもその兆候は出てはいない為、発光は出来ないことは確認していた。代わりに聴力が備わった。時に頭の中にそれは飛びこんで来る。自分の名前を誰かが発した時にもそれは起こる。意識すれば聴力は増幅される。

 

 月曜日。

 ジェシーは風間と備品チェックを行っていた。午後から毎日、この作業を行う。クライアントからの予約状況を基に必要な備品をピックアップし客先毎に仕分けを行うのである。

 突然、ジェシーの頭に声が響いた。長谷部の声であった。

 「風間、俺とおまえはこれから部長に呼ばれるよ」

 「どうした、急に。なぜそんなことが分かるんだ」


 備品室の壁にある電話機が鳴った。  

 風間が受話器を取った。

 ジェシーの方に向き直り耳に当てた。

 「はい。わかりました。伺います」

 「ジェシー、長谷部さんがお呼びだ」

 「風間、俺達また何か言われるのかな……」

 「かもしれないな……」

 風間はそう言うと、椅子から体を折り曲げ、赤と黒のデザインのスニーカーの紐を結び直した。


 航空宇宙事業部長の長谷部の部屋に入ると、風間とジェシーは思わずぎょっとして立ちすくんだ。

 ソファに黒い覆面の男が二人座っていた。

 自衛隊の制服に帽子を被った男達は顔の目の下まで黒い覆面で隠している。目と眉毛だけが露出していた。奇怪な風体である。

 制服を良く見ると濃い緑の色は陸上自衛隊であることがわかる。

 「紹介しよう。こちらは陸上自衛隊特殊部隊の(ひとまる)さんと(ふたまる)さんです」

 風間は長谷部が何を言っているのかわからなかった。

 奥に座っている男が体を大きく二人の方に向け、

 「私が(ひとまる)でこっちが(ふたまる)です。自衛隊では十のことを(ひとまる)と呼びます」

 「…………」風間は口を閉ざしている。

 「ああ……そういうことですか、私も一瞬何を言われたのかが分かりませんでした」  

 長谷部が照れ笑いしながら張り詰めたこの場の空気を変えようとしているのが分かった。

 「この覆面ですが、我々は陸上自衛隊の中でも特別な任務を行う部隊である為、その存在は極秘であります。部隊外の人と接触する場合には顔を隠すことになっております。名前もありません。どうか失礼をお許し下さい」

 奥の男が話終えると手前に座っている男もこちらを見た。目と眉の動きは笑っていた。

 「風間、ジェシー、まあ座れ」

 長谷部がソファセットの外に置かれた椅子に腰を下ろした為、二人は自衛官を直接向かい合う形となった。

 「それにしても風間さん、あなたはとんでもないものを手に入れた様ですね」

 風間の正面の男、(ひとまる)が声を発した。

 「……何をおっしゃっているのかが良く分かりませんが……」

 横の(ふたまる)が体を乗り出した。

 「我々の眼は国内のあらゆる場所にあります。あなたの駅のホームで見せた力は記録されています」

 風間は驚きの表情を見せた。ジェシーは何を言っているのかが分かっていない表情をして風間を見つめている。

 「探すのに時間は掛かりませんでした。顔から画像解析するシステムはすでに我々は運用しています。対テロ対策としてそのことは極秘事項です」

 「しかしまさか月探査ミッションのあなたであった事には正直驚きました。月探査帰還後の検査においてもあなた方の身体データには何ら異常は見られなかったのですから」

 (ひとまる)はそのまま続けた。

 「ジェシーさん、あなたも何か特別な力が備わっているのですか、風間さんの様に体からエネルギーを発することが出来るとか……」

 「…………」

 「日本語は問題ないのですね」

 「……はい。でも……私は何もないと思います。風間さん……の話も今聞いて驚いています」

 ジェシーは顔がこわばっている。

 「長谷部部長、大変申し訳ないのですがお二人をもう一度、お借りさせて頂きたくどうかご了解頂きたい」

 長谷部は頷いた。

 風間はジェシーの不安そうな顔を見た。

 カメラに記録された画像は間違いなく風間自身である。自衛官の申し立てに異論を唱えることなど出来なかった。


     六


三日月は小銭入れをポケットから取り出し五百円玉を確認した。

土佐堀川を渡り交差点で信号待ちをする。十月も終わろうとしているが日差しはまだ強く暑い。

 信号が変わり交差点を渡ると歩く早さを上げ商店街の中に入って行く、同僚が居ればこの辺の店で済ますのが常であったが一人のときはその先にある店に行くことにしていた。昼休みの十分前に席を立ち、早歩きした為、まだ店の前には列はなかった。発券機にコインを入れカツ丼のボタンを押した。

 昼食を済まし店を出るとゆっくり歩き出した。商店街はこれから食事に向かう人で溢れていた。

 四ツ橋通りに出ると左に曲がり歩道を歩く。前方に二年前に完成した『中之島フェスティバルホール』が見える。左側には取り壊された新聞社のビルのあった空間が広がり、堂島方面の景色が広がっていた。フェスティバルホールと同じ景観を持つビルが数年後には完成し、ツインタワーが中之島に現れる。

 ぼんやり交差点に立ち信号を見ていた時、右からトラックが通り過ぎた。交差点を堂島方向に曲がった。トラックから鈍い音がした。荷台にはサッシ戸が数枚重なり乗せられていた。左側だけに荷物が残り、不自然な重量配分になっている為、大きく左右に揺れている。今にもバランスを失い道に落ちそうである。

 トラックは速度を思ったほど緩めないまま、右折した。軋むような大きな音がした途端、荷台が大きく傾き、サッシ戸が宙に舞った。

 後方から走ってきたスクーターが回避しようとバランスを崩し転倒し隣車線に滑って行く。その後方から車が迫った。

 三日月は咄嗟に手のひらを開いた手をスクーターに向かって伸ばした。

 光が出た。白光は強い日差しにより色は消されていた。

 スクーターに衝突寸前で車は静止した。後続の車が次々と急停車した。かなり後方で車が追突した鈍い音が聞こえた。

 周囲に静寂が戻った時、三日月はその場にはいなかった。肥後橋交差点より少しばかり離れた橋を早足で歩いていた。土佐堀川の中程から交差点に目を向けた。野次馬が増えて騒然となっていた。

 会社に戻った三日月は落ち着くことが出来なかった。

 (南側に面している応接室なら肥後橋交差点を見下ろせる……)

 応接室から見下ろすとすでに警察が付近の交通整理を行っており、それを見物する人で溢れていた。

 その日のニュースで事故当時の目撃車のインタビューが報道された。

 「突然、車が目の前で止まったんです。音はしなかったです。何か見えない壁にぶつかった様でした」

 「ええ、何か車の前で光ったものが見えたような。よくわかりません」

 「交差点で男の人が手を前に差し出して、そうしたら車が突然、止まったんです……」

 「現場では不思議な行為をしたと見られる男が目撃されています。この男がスクーターと車の接触を未然に塞いだものと思われますが、いったいこの男は何者なのでしょうか。不思議としか言えません。現在、警察ではこの男の情報を集めているとのことです」 

 夜の中継現場で女性アナウンサーが締めくくった。

 三日月は顔を覚えられている者があったとしても犯人ではない訳であり、警察が自分を捜す理由はないと思っていた。

 事実そうであった。数日が過ぎると話題にも登らなくなった。

 会社の同僚である北川、堀池からは当然の様に質問を受けたがそれを拒否した。三日月が自分ではないと言い切った言葉を信用しているかどうかは定かではない。しかし大本だけは違った。

 「三日ちゃん。ついにやったね。自分で出せたんだ。凄い。ほんとに凄い」

 淀屋橋の居酒屋で大本は誇らしげに顔を赤くして笑うとジョッキのビールを一気に飲み干した。

 「自分でも驚いているんです。実は一度、駅のホームで落ちそうになった人を助けることが出来たんです。その時に初めて自分の感情でコントロール出来そうな自信がついて。それで、月曜日にあの事件が起こった……」

 「それでこれからどうするの。正義のヒーローとして街の悪いやつらをやっつけたり、困っている人を助けたり……なんか俺、今、すごいことを共有していることに感動しているよ。いっそのこと、正義の味方、三日月隼人がここに居ますって叫びたくなるよ」

 「どうせみんな信じないし、もし僕がこれを見せると大変なことになると思います。絶対に今の生活は続けられなくなると思います。政府の機関に拉致されるとかして特別な事に利用されるとか研究材料に使われるかですね」

 「それは有り得るな。だから絶対に人に知られるとまずい。これからは十分に注意しないといけないよ」

 「ええ分かっています。でもこの前の事故の件、あれだけテレビで報道されたので心配です。そのうち僕だってことを突き止められるのではないかと思って……」

 大木は三日月を見て真剣な表情に変わった。

 「その時は僕じゃありませんって、とぼければいいんだよ。証拠もないんだし、もし仮に監視カメラに三日ちゃんが写っていたとしても事件でもないし、ましてや犯人を捜しているわけでもない。警察もそんなに暇じゃないよ」

 「まあ確かにそうですね」

 三日月は安堵の表情を浮かべビールを飲み干した。

 平穏な日々は暫くは続いた。あの女性と出会うまでは……

 

     七

  

 波は打ち合わせを終え、一階のスーパー店舗の入り口近くのエレベーターから出た。

 「ぜんぜん、前から話が進んでいないじゃない。なんなのよまったく! あのすけべおやじ!」

 声が少し大きかった。傍を通り過ぎた中年の女性が波の顔を見上げた。

 地元の主婦が中心のこの店舗の入り口付近で、あまり見慣れない黒いスーツで長身の波はかなり目立っていた。店舗前の交差点を早足で歩く。

 月曜日にメールしたアポ取りは先方不在の為、昨日の返事だった。週末になっていた。この一週間、先日の海外店舗進出の案件の叩き台を用意するという進捗への緊張感は波の中で日増しに強くなっていた。たまたま上司の矢萩が週明けから出張で不在であったので進捗について突っ込まれることはなく、時間が経過していた。それだけに今日の訪問にはある程度の草案を提示されるものと思っていたのが、波の顔を舐める様に見ながら、趣味は何か、海外旅行はどこに行ったかとか仕事にはまったく関係のない話をされた挙句、まだ案が纏まっていないという返答だった。完全に肩透かしを食らわされた。怒りが込み上げて来たのも当然だった。

 駅を急ぐ波は時計を見た。三時前。駅へ向かう近道で高架下にある駐輪場入り口の階段を登って行く。

 後ろからは誰も来ていない。駐輪場の階に上がると人の気配もなかった。向こうに見える通路からの人は歩いて来ていない。

 先程の怒りがそうさせたのか波にある考えが生じた。

 さっと飛び上がり、天井に手を触れ、着地した。足もとから白い光が出ていた。また飛び上がり着地した。


 通路の角を曲がると突然、女性が宙から降りて来た。靴底から白い光が出ている。

 再度、女性は天井に飛び上がり、天井に手をタッチすると地面に着地した。波が気付いた時には遅かった。男が驚いた表情でこっちを見ていた。三日月と波の顔が合った。

 突然、何事もなかったかの様に波が横を通り過ぎた。

 「あの……」

 「…………」

 「すいません。今の見ました」

 「えっ何を」

 振り返った波は三日月を見下した。三日月の額の前に波の目がある高さであった。

 「あなたも……光……出るんですね……」


 ホームのベンチに二人は座った。

 「じゃあ、あの時、交差点であったのは三日月さんだったの。やっぱり不思議な感じがしたと思った」

 「ぼくも実は衝撃を受けました。後で考えても理由が解りませんでした。でも同じ感じを持っているというか変な感じでした」

 お互いのことを話しをした。

 月の光の衝撃を受けたことをどうしても解明することで意見が一致した。


 日曜日。

 波と三日月は図書館に居た。

 受験勉強の学生に混じり、月に関する本を手当たり次第、探して来ては積み上げて行った。

 三日月はある本で手が止まった。

 月面の発光現象についてだった。

 月面からの一時的な発光について観測がある。太陽フレアと呼ばれる太陽面上で起こる爆発現象の後、数十時間後に蛍光が観測されたという報告がある。このフレアで発生した陽子他の粒子群が加速され月面に衝突し月の物質を変化させ蛍光を発するのだろう。又『アリスタルコス』、『アルフォンスス』、『コペルニクス』などのクレーターや海と高地の境界付近での発光の観測されている。これらの発光は一秒から一日以上であり、白、赤、紫、橙の色の他形状も点、線状まで様々なものが観測されている。

 過去五百年の間に約一千五百件もの観測例が報告され、この現象を引き起こす場所はホット・スポットと呼ばれている。この現象がなぜ起こるのか明確な証拠は得られていない。


「私たちの力は、この発光現象に関係があるのかしら?」

 波は周囲を見渡すと小さく声を発した。

 「多分、ある。月からの反射でも、太陽フレアの陽子とか中性子が加速され、体に降り注いだらどうなるだろう。原発事故であれほど騒がれるのは放射能が人体にとって危険だからだ。太陽フレアはその規模によっては瞬時にして地球上の生物を絶滅させるほどのエネルギーがあることは事実とされているんだ」

 いつの間にか三日月は科学者の様に悦に入った口調になっていた。


 太陽フレアは太陽エネルギー粒子線を放出する。高エネルギー荷電粒子や太陽風と呼ばれる陽子や電子、アルファ粒子が主成分である。地球上に磁気嵐を引き起こし通信障害・電波障害の原因ともある。太陽フレアの威力は水素爆弾十万個から一億個と同等である。過去にあった最も大きいフレアは一八五九年に発生した。もし、この規模が今、発生すれば世界中の通信・電気網は破壊され、文明は十九世紀に戻るだろうと言われている。


 「それで、そのエネルギーを多分、偶然に浴びた私たちには、どうしてこんな力が備わったの?」

 「それは分からない……人間の脳は使われていない部分の方が多いと言われているし、もしかすると脳が月からのエネルギーを受信し、瞬時に入ったのかも……波長があったのかも。学生の頃聞いていたラジオの様に、チューニングで放送局の周波数に丁度、ダイヤルが合った感じかな」

 「…………」

 「ああそうか。聖天さんとは世代が違うものな。ラジオなんかあまり聞いていないよな……」

 「分かるわ。言いたいことは。とにかく、こんなものが備わってしまったのだから、これから私たち、どうなるの?」

 波は長い髪を掻き揚げ、じれったそうな表情をしている。

 「どうなるって、別に……これまで通り……」

 「これまでと同じに行くわけないでしょう。こんな力があるんだから!」

 波の声に周囲の視線が集まった。  

 「とにかく、出よう」

 三日月は書籍を抱え、立ち上がった。

 

 二人は図書館の同じ敷地内にある公園の小高い場所に登り、林の中で木陰になっているベンチに向かった。

 波が白いジーンズの大きな尻を下ろすと、大きくベンチが揺れた。横に三日月が座った。大女の横にちょこんと座っている、いかにもひ弱そうな小男の奇妙なカップルに見えた。

 波は黒いバックからケントを取り出し火をつけた。

 「たばこ吸うの?」

 「えっ何? 吸っちゃだめなの?」

 「い、いや、いいけど。ちょっと意外だった。吸わないイメージだったから」

 「三日月さんは吸うの?」

 「ああ、でも昼間はあまり吸わない。夜吸う」

 「……だったら、止めちゃえばいいのに」

 「まあ、でも止めるつもりはない。タバコ好きだし」

 いつの間にか親しい友人のような口調となっていることに互いに気付いていた。

 「この力を持ったのは私たち二人だけじゃないと思うの。だって偶然だけど、ここに二人もいるのよ。そう思わない」

 「ああ、確かにそうだ。あの日の夜、月を見た人が居て、波長が合った人も同じことになっているかも。でも、その場合、世界中とんでもない数の人が同じことになっている。どんでもないことになってしまうよ。この力は使い方によっては犯罪に使われる」

 後で分かることではあったが、事実は想像を超えていた。

 三日月はベンチの上にあるイチョウの木を見上げている。波の吐き出すタバコの煙が青く澄んだ空に消えて行く。

 「今のところ、テレビでもそれらしいニュースはない」

 「そうね……」 

 波は、はっと息を漏らし、目を見開いて三日月を見た。

 「そういえばこの前、友達から不思議な話を聞いたわ梅田の観覧車で人が浮き上がるのを見たって言ってたわ」

 「人が浮いた?」 

 「それが本当なら僕らのような力を持った人間が他にも居ると考えてもおかしくない……」

 「そうかも」

 空を見上げていた三日月は腰を上げ、黒いジーンズにポケットを突っ込んだままベンチの前を歩いた。そして体をひねり、向き直った。

 「俺はこの力で誰かを助けたい。何にもない自分が手にしたこの力で精一杯何が出来るかやってみたい」

 「……私は良く分からない。でも、目の前で誰かが困っていたら力を使うわ。それでもし誰かに見られても構わないわ」

 二人は力を出来る限り人目に付かない様、互いに注意することを約束し別れた。

 日曜日は夕方になっていた。


     八


 夜八時三十分。

 風間とジェシーを乗せた車は神奈川相模原市の陸上自衛隊の研究施設に着いた。特殊部隊の覆面自衛官は出来るだけ目立たない様、夜間行動を中心にしている様に見えた。運転席と助手席の黒覆面の男達は敬礼した男女の自衛官に向かって声をかけた。

 「後はよろしく頼む。準備が出来次第言ってくれ」

 後部座席の風間とジェシーの横の扉が開かれ、女性自衛官が顔を覗き込んだ。面長で整った顔をしている。鉄の扉から中に入ると長い廊下が前方に続いていた。静寂に包まれた建物が不安をいっそう駆り立てた。男性自衛官が先に歩き、その後ろに風間、ジェシーの順で後ろに女性自衛官がガードしている。薄暗い回廊を進んで行く。突きあたりで右にきびすを返した。階段を下る。地下の壁は新しく塗られたと見え、クリーム色で先程までの薄暗いイメージとは異なっていた。廊下には左右に部屋が並び、奥まで続いている。

 廊下の中央で止まった。男が壁側の小さなボックスに手を当てると、指紋認識され扉が開いた。広い部屋には最先端の医療機器が並んでいる。中央の椅子に指示されたまま、腰を降ろした。すると白い研究服に身を包み、細く色白の眼鏡の男が近づいて来た。

 「どうもご足労をかけました。どうしても上の命令により、あなた方の(記憶の写し)を少しだけお願いしたいと思いまして……」

 「写し?」風間が血の気の引いたような表情で質問した。

 「いや失礼しました。これはその、私達研究員の業界用語とでも言いますか、言い換えるとあなた方の記憶のデータを記録させて頂きたいということです」

 ジェシーの顔は青い。緊張をしている。何を言っているのか理解出来ていない表情である。

 これからいったい何をされるのか。人体実験でもされかねない雰囲気に満ちているこの空間に強制的に連れて来られ、平常心で居られる者などいないであろう。

 

 程なく覆面自衛官のひとまる、ふたまるが入って来た。

 「片岡教授、二人に説明をして頂けないでしょうか」

 ひとまるが低い声を発した。 

 「説明を始めます」

 片岡は壁際に取り付けられている大きなディスプレイの電源を入れた。

 暫くして説明用画面が投影された。

 「これからMRIに入り、ニューロン記録装置で脳のデータを記録させて頂きます。体への負荷はまったくありません。ご安心下さい」

 風間が安心した表情で息を吐いた。ジェシーも風間の顔を安堵した表情で見た。前方スクリーンは次の説明図に切り替わった。

 「脳にはその意識を管理するニューロンと呼ばれる細胞が1千億個あります。これが各意識を記録します。この意識とニューロンの関係を過去からデータ分析を行い、どの意識の時にどのようなニューロンの信号となるのかを記録し続けた結果、ある程度のレベルで脳の記憶を画像化することが可能となりました」

 風間もジェシーもこのみすぼらしそうな老人の言っていることが理解出来ない様であり、暫く目をつぶり考え毎をしていたが、この空間の適当な温度環境に安心しきった様に眠りに落ちていた。

 片岡は暫く下を向き、黙っていたが覆面自衛官に目配せをし、うなずくとそのままスクリーン横の椅子に腰掛けた。

 数分間静寂が訪れた。

 ジェシーが顔を上げた。そして周囲を見渡すときびすを返した。

 暫くして風間が顔を上げた。

 片岡は椅子から立ち上がると

 「少しは脳が復活したかと思いますが。これは脳の自然な行為で、実験開始の前に睡眠を少し取れたのはデータ採取の環境としては非常に期待が持てるものです」と落ち着いた声で言った。

 これまでの静寂な時間は疲労している風間とジェシーに故意的に睡眠を取らせる為であった。

 片岡が続けた。

 「さあ先程の続きを少しだけします。モナリザを見た時の脳からの信号を記録します。そして次に同じ信号が現れたとすればそれはすなわちモナリザを見たということなのです。あなた方に月の写真とか光とかこれから数枚の写真や画像を見て頂きます。それを記憶しておいて頂きたいのです。先程、あなたがたが寝ている間にもし一瞬でも夢を見ていたならその時、ニューロンが同調し信号が増幅されるのです。これらの増幅された信号を発生するニューロンの活動はアルファ波と呼ばれます」

 片岡はゆっくりと腕時計を見ると

 「それではこれから準備に入りますので隣のMRIにお入り下さい」

 風間とジェシーがガラス越しに見える隣の部屋に入ったのを見届けると、覆面をしていた男達はその黒い布の下から顔を出した。

 ガラスはマジックミラーになっておりこちら側からは見えない仕組みになっている。

 片岡が声をかけた。

 「今井陸尉、お疲れ様です。いよいよですな」

 「ああ、丸山もよくやってくれた」

 今井少尉はこれまで傍らでサポートをしている丸山三等陸尉に向かってその精悍で黒い顔を向けた。

 「やっとこれからですね」

 今井より一回り大きい体格をしている丸山は、その体とは正反対なやさしい顔立ちで安堵の表情を見せた。

片岡は眼鏡の奥の冷たい目でガラス越しの風間とジェシーをちらっと見た。

 「とにかくどこまで記録できるかは解りませんが、ある程度のものは期待が出来ると思います。かなりのインパクトを二人は受けていますので当然、その記憶も強烈で鮮明なものと思われます。ニューロン細胞はまだ全容が分かっていません。この分野でトップを行く米国の研究者たちの間では近い将来、軍事的にかなりの精度のブレインスキャナーが開発されるだろうとのことです」

 「ブレインスキャナーか……世界を変えるかもしれないな」

 今井は腕組みをして目を閉じた。 

 準備が整ったのか片岡が隣の部屋に移動した。


若い女性研究員が風間とジェシーの頭に順番にヘルメットを被せた。脳波を測定すると説明をした。

 従来ならば、脳内を管理する電流は微弱であるが新たに開発されたこの技術は微弱電流を増幅させる為、脳に電極を刺すことなく、測定が可能な技術であった。

 ヘルメットを被せられた二人の前にスライド写真が投影された。この写真の反応、脳に発生する微弱な信号を記録するのだ。月の外観、月面、クレーター、光、月面の建造物、発光物体、白く発光した人影など、それらは風間とジェシーが恐らく経験したであろうとされる場面を想定し作成された画像集となっていた。

 そして風間、ジェシーの順にMRIで記録されたデータは即座に解析された。

 

 検査を終え、再び元の部屋に戻った二人の前に片岡と覆面の男達が座っていた。

 片岡がスクリーン脇に立ち説明を始めた。

 「まずは風間さんの記憶画像からです。これは検査前に見せた画像集を脳の電気信号に変え、再度画像集を作成した構成になっています。言い換えれば風間さんが月面付近で実際に見た光景がパターンとして蘇ることになります」

 そう言い終えて、片岡は室内の照明を落とした。

 スクリーンに画像が投影された。

 

 月面……クレーター……クレーターの光……クレーター建造物……光の人影……クレーター


 画面が消えた。覆面自衛官の誰かが息を漏らした。

 「次にジェシーさんの記録です」

 ジェシーは青ざめていた。


 月面……クレーター……クレーターの光……クレーター建造物……光の人影……人影……クレータ

 

 画面が消え室内が明るくなった。

 風間は憔悴しきった表情である。ジェシーはおびえていた。

 「いかがですか。このデータは紛れもなくあなた方の脳に記録されているものです」

 「…………」

 「では少しお話をして頂けないですか。実際、見たことを」

 ひとまるが聞いた。

 風間はジェシーを見た後、小さく声を落とした。

 「その記録通りです。クレーターからの光を見た後、数日間は記憶が消えていました。でもそのうちに見たものが断片的に現れ始めました。初めは夢を覚えているだけかとも思いましたが、ジェシーにも同じことが起こり……自分がこの目で見たということが認識出来たのです……」

 風間は続けた。

 「クレータの内部に探査船は入りました。中には建物があり、人が居ました。人かどうかはわかりません。光で覆われているのではっきりと姿は確認出来ませんでした。その後、二人とも小さな部屋に連れて行かれました。ジェシーと私を前後で挟み彼らが先導して行きました。そして大きなベッドらしきものに寝かされて……そこからは覚えていません。体を検査されたのかも知れません。そして気が付くとクレーターを通り過ぎていました。探査機のコクピットの中だったのです」

 暫く沈黙が流れた。

 「ではジェシーさんは如何ですか」

 片岡が問いかけた。

 うつむいていたジェシーは顔を上げると小さく頷いた。

 「はい。風間さんと同じです。部屋で光の人に検査をされたのだと思います」

 「二人の記録を見るとジェシーさんは風間さんと違っている所がありますね。光の人影を見た後に人影を見ていますね。これはいったい何を意味するのでしょう」

 ふたまるが声を発した。

 「それは……見たんです。彼を」ジェシーが答えた。

 「彼とは?」片岡が聞いた。

 「人でした。私たちと同じ。人間。若い男です」

 部屋が緊張に包まれた。

 先に声を発したのは、風間だった。

 「しかし、私が見たものは現在の我々の科学の上を行くレベルにしか思えません。ジェシーがはっきり見たという人、若い男も本当にこの地球の人間ではない様に思えます。私の傍にいた光の人間は、明らかに人間の形をしているが崇高なものを感じたのです。まったく別の感覚でした」

 暫くの間、誰も口を開かなかった。

 腕組みをして天井を見ていた、ひとまるが帽子を机に置いた。

 突然、顎に手をもって行くと、黒い覆面に手をかけた。

 日焼けした精悍な顔が現れた。

 目はやさしかった。

 「初めまして……今井です」

 横に座っていた男も精悍な顔を現した。今井よりは若い。色白だ。

 「初めまして、丸山と申します」

 突然のことに風間とジェシーは戸惑いを隠せない表情をしている。

 そのまま暫く沈黙があった。

 今井の吐く息が聞こえた。

 そのまま腰を上げ、立ち上がると、

 「唐突ですが、是非とも我々のチームに入って頂きたい。あなた方の力を貸して欲しい……」

 風間もジェシーも今井が何を言ったのかが理解出来ていない。表情は強張ったままである。

 「長谷部部長の許可はすでに頂いております。もちろん社長にもです。そして……この依頼はもう一つ、日本政府からの申し入れでもあるという事です」


 風間勇太とジェシー・ラベルは特殊部隊の極秘チームに加わった。

 特殊チームは『LUNA ASSAULT TEAM』通称(LAT)に改名された。

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